9話:二人での見回り
俺と商店街を歩く篠宮は、なんとなく、楽しそうに見えた。
「な、なんだよ」
俺が怪訝そうに聞くと、篠宮は、照れ笑いで答えた。
「ご、ごめん。僕、同性の友達と遊びに行くことなんてなかったから」
軽く自慢してるのか、こいつ。
「異性の友達とはたくさん遊んでたってか?」
「あ~、そういうのはあんまり。僕、あんまり個人的な付き合いって持たないから」
「そうなのか?付き合ってる奴といないのか?」
実際、こいつに告白しても、誰もオッケーがもらえないから、もう、誰かと付き合ってんじゃないのかって言われていた。有力候補は、会長、副会長。
「僕、今は、特定の女性と付き合う気はないから……」
笑いながらそんなことを言う。なんだろう、モテる奴の自慢とかではなく、何か、心の奥に、ある気がする。
「しかし、イケメンはいいよな。こうやって歩いてるだけで、絵になる」
「あはは、視線がいつも気になるけどね」
視線?いつものことだろ。この道は、人が多いから、通るたびに、視線が飛んでくる。
「まあ、その話は置いておくにしても、キミも十分、いい男だと思うよ」
「男に、いい男とか言われても嬉しくねぇよ」
寒気がする。つーか、全身か嫌な汗が噴出した。
「それにしても、あの男、いねぇな」
「まあ、この時間だし、昨日、あんなことがあったしね。僕が犯人だったとしたら、しばらく外出は控えるよ」
それもそうか。しかし、俺と言う目撃者が居る以上、俺を放置しておかないと思うんだが。そういえば、今更だが、疑問が一つ。
「そういえば、副会長って、大丈夫なのか?昨日刺されてただろ?」
「ああ、そういえば言ってなかったっけ?一応、血はいっぱい出ていたけど、身体機能に以上はないし、軽い手当て、まあ、包帯を巻く程度で済んでるよ」
……は?俺の認識との食い違い。だって、警察は重体って言っていた。
「重体じゃなかったのか?」
「あ~、それは、警察側にも、僕たち側の人間がいて、関係ない一般人には、そう言うようにしておいて貰ったんだ。実際は、直撃コースだったナイフを自前の剣で逸らして、重傷は避けられたんだ」
なるほど、この町ぐるみで、アーティファクト保持者の対策をしているってわけか。だから、警察も協力してくれている。おそらく病院なんかもそうだろう。
「なるほど、《刀工の剣製》か」
「そう言うことだよ。《刀工の剣製》は、剣を作ることのできる能力。一本一本の強度や威力、切れ味は弱いけどね。多く作れるという点では便利かな」
「まさにラノベだな」
そういった能力は、ポジション的に、篠宮が当たってる気がするんだがな。こいつの能力もよく分からないよな。《魔王の力》とか言ったか?名称は、篠宮らしくない名称なんだが……。
「もう、一周したね。帰ろうか」
「ん?そうだな」
結局、この日、犯人の男に会うことなく、見回りを終えたのだった。




