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43.いんすたんすだんじょん?

 いくらファンタジー世界とは言え、ドライアドと対峙する前にツリーマンをどうにかしない限り、僕に勝機はない気がする。


 となると、ここはやっぱり魔力を気にせずに燃やし尽くすしかないかな。


「なるべく最小限で抑えたいから、イメージとしてはこんな感じかな?……等活地獄!」


 別に熱心な仏教徒と言う訳じゃないんだけどね。やっぱり時代が時代だったから、戦争でたくさん人を殺して、死後は間違いなく殺生で罪を問われるんだろうなと思うと、夜も眠れなかったときが長く続いて。そんなときには大抵、夢の中で八熱地獄で罰を受ける夢を見たりしていた。


 八熱地獄なんて名前がついているけど、まあ実際は火は全然使われていない。それでもやっぱり、分かりやすく一層から順に罰の度合が高くなる地獄というのは、僕にとって最もイメージしやすい苦しみだったので、魔法の起動ワードとして採用してみた。


「さて、これでツリーマンたちは灼熱地獄から出て来られないようだし……ようやく貴方に集中出来ますね」


「あらぁ、今更私の魅力に気付いたって遅いわよ? ころころ意見が変わる男は嫌いなのよねぇ」


「ご心配なく、先程から全く変わっていないですよ。貴方のことがとても腹に据えかねているので、全力でお相手しますと言う意味ですから」


「ふん……良いわ、まずはその減らず口が叩けないようにしてあげる!」


 宣言通り、ドライアドは僕の顔を中心に執拗に蔓を使って攻め立ててくる。一本一本は太刀で十分切り飛ばせる程の強度なので、害はない。けれど、彼女は木の精霊で、蔓の本数も長さも自由自在。三本、四本を捩るようにまとめられてしまうと切りにくいし、同時に四方八方から蔓が飛んで来てもやりにくい。太刀を抑えられてしまうと困るので、なんとか全ての蔓を切り捨ててはいるものの、完全に防戦一方。攻撃に転じることが出来ていない。


「大口叩いてみたけれど、太刀一本じゃ防御で手一杯だな……」


 こちらも太刀以外の手を使って果敢に攻めるしかないか。太刀で攻撃を受けつつ、ドライアドの死角から魔法で攻撃をしてみる……とかかな。いや、待てよ? ドライアドは確か木に寄生して生きる種ではなかっただろうか。勿論、現実で調べた資料ベースだから、このゲームでも同様の設定かは分からないけれど。


 もしも寄生しているのであれば、大元の木の方を燃やしてしまえば弱体化ないしは消滅するのでは? そう考えた僕は、早速周囲を改めて観察。防戦一方の今、ドライアドから目を離すのは自殺行為に近いけれど、打開策になり得るのであれば博打を打つ価値は十分にある筈。


「ドライアドは寄生している木から遠くへは離れられないと文献にはあったけれど……」


 ツリーマンをないがしろにする辺り、ドライアドが寄生している木は、普通の木であってモンスター形態ではないのではないだろうか。今この場でツリーマン以外の木は十数本。全てを燃やすとなると、完全に森林破壊となってしまうが、背に腹は代えられない。僕の予想が当たっていれば良いけれど。


「一本一本の距離が離れているから、まとめては無理そうかな。それじゃあ、近くから順番に、木の範囲だけを燃やす感じで……炎柱!」


 二本、三本と立て続けに燃やしていくが、ドライアドの表情に焦りの色などは見られない。もしかして、これは狙いを外しただろうか? なおも襲ってくる蔓を切断し続けながら、六本目の木を燃やす。ほんの一瞬、ドライアドの視線が右側に揺れた。視線の先には、距離が遠い為候補に含めなかった木があった。なるほど、思ったより遠く迄離れられるのか。


「――炎柱!」


 突然遠くの木を燃やした僕に対して、いよいよドライアドは焦りを全面に出した。


「どうして……!」


「目は口ほどにものを言う、って言いますから。全く気に留めていない素振りを見せていましたが、ほんの一瞬だけ視線が明らかにあの木を確認していましたよ。さて……木が燃えたら、貴方がどうなるのか、実は知らないんですが」


「今すぐ消してよ! 木が燃え尽きてしまったら死んじゃうじゃない!」


「『死んじゃうじゃない』と言われても、貴方は私や私の仲間を殺すとはっきり宣言しましたし……自業自得では?」


「くそっ……くそ野郎があああああああああああああああ!!!」


 絶叫と共にドライアドはその場に倒れた。身体のあちこちが黒く焼け焦げている。どうやら、木に寄生していると言うよりも木と生命を共にしていると言うのが正しいみたい。一種の付喪神みたいなものなのかな? 力の強い付喪神であれば、自身の本体を見えなくするなんてことも出来るけれど、ドライアドにはそれも無理そうだなあ。弱点が露呈しているのは単純に同情に値するかも。


「さて……終わったのかな? 関係無い木もだいぶ燃やしてしまったし、ツリーマンに関しては僕が刺激してしまったのが悪いし……黙禱位はしておこうか」


 黒焦げになったツリーマンや木に対して、しばし黙禱を捧げる。そのあとはまあ、素材の剝ぎ取りなんかをさせて貰いますけどね……はい。今も昔もこの世は弱肉強食です。


 黙禱が終わった頃、遠くから何かが聞こえてきた。しばらく耳を澄ませていると、どうやらヴィオラの声とアインの歩く音。ヴィオラが僕の名前を叫んでいる。探しに来てくれたのだろう。


「おーい、ヴィオラー! アインー!」


 やみくもに叫ばせているのも悪いので、叫び返し、合流を図る。良かった、ドライアドみたいなのがこの先も出て来るようじゃ、絶対にどこかで間違いなく死んでいたよ……。


「蓮華くん、良かった無事だったのね。……まあ、一波乱あったみたいだけれど」


「あー、うん。ちょっとツリーマンとかドライアドに襲われちゃって。辺り一帯燃やし尽くしてなんとか勝ったけど、正直魔力はそれなりに減ってしまったし、一人でどうしようかと思っていたんだ。どうもここは、魔力は自然回復しないみたいだし」


「そう。あのね、蓮華くん。驚かないで聞いて欲しいんだけど……ここ、ダンジョンみたいなのよね」


「ダンジョン? ってあの、色々なゲーム小説に出て来る、強い敵とか財宝があったりする場所?」


「ああ、うん、そうね。その認識であってるわ。蓮華くんが私達の前から突然姿を消したあと、システムから告知があったのよ。『告知:ワールド初のダンジョンが発見されました』と『告知:シヴェフ王国初のダンジョンが発見されました』って。タイミング的にも、間違い無く蓮華くんだろうなと思って、私達も慌てて入り口を探したんだけど……蓮華くんが何をしてダンジョンに入ったのかを見ていなかったから、辿り着くのに時間がかかってしまったわ、ごめんなさい」


 どこも怪我をしていないか、と身体の隅々まで確認してくるアインを(なだ)めつつ、僕はヴィオラと情報共有。なるほど、単純に余所様の住居に不法侵入してしまったとしか考えていなかったけれど、ここがダンジョンだったのか……。となると、ある程度歩いてきたとは言え、それなりに入り口付近のドライアドがボスと言うこともない筈。まだ強敵がこの先に待ち受けてるってことかあ……おかしいな、ただの森の調査だった筈なのに?


「来てくれて助かったよ。ごめんね、何も言わずに勝手に消えて……それはそうと、ダンジョンなら多分ボス?とかを倒さないと出られないんだよね。ひとまず先に進む為にも、素材の剝ぎ取りしちゃうからちょっと待っててもらっても良い?」


「分かったわ。手伝う……と言いたいところだけれど、解体の熟練度のことを考えたら下手に手を出さない方が良いわよね?」


「あー、そうだね。解体下手くそだから、熟練度でカバーしたいかも。なるべく急ぐから、ちょっとだけ待ってて!」


「急がなくて良いわよ、急いで失敗したら元も子もないんだから。別に急いでないし……まあダンジョン内で六時間経ったらどうなるのかだけは気になるけれど。まさかログアウトタイミングで放り出されるなんてことはないと思うけれど……インスタンスダンジョンよね、多分」


「いんすたんすだんじょん? 普通のダンジョンと違うの?」


「んー、普段の王都とかは、他のプレイヤーと共有しているじゃない? でも、インスタンスダンジョンは、ダンジョンに参加したパーティだけの為に別空間が出来る、と言えば良いかしらね。例えばもし、今このタイミングで他のパーティがこのダンジョンに入場しても、バッティングせずにそのパーティ用の別の空間が作成されることをインスタンスダンジョンと言うのよ。だから、ログアウトしてもその空間が維持されているのか、閉じられてしまうのが気にかかって」


 なるほど、色々あるんだなあ……街道のウサギですら取り合ってる現状じゃ、こんな狭いダンジョン内でバッティングが起こったら、モンスターの取り合いで揉めに揉めそう。


「安全に配慮して六時間に一度強制排出を義務付けたのは制作側だから、インスタンスダンジョンを作った段階で、そこは考慮しているんじゃないかな……多分。毎回わざわざダンジョン入場前に一旦ログアウトさせるのも配慮に欠けている気がするし」


「それもそうね。そもそも、六時間でクリア出来ないダンジョンがこの先出ないとも限らないものね?」


「ああ、その可能性も確かにあるね」


 ヴィオラと話しつつ、慎重に素材を剝ぎ取っていく。最近は僕だけではなく、アインも荷物を持ってくれるので荷物が増える事を過剰に心配する必要もない。


「ツリーマンもドライアドも、どこが素材になるかなんて全然分からないからなあ。そもそもどっちもだいぶ焦げちゃってるし。あ、でも魔核とやらはあるかもしれないから、ちょっと解剖させてもらおうかな」


「ああ、師匠が話していた武器への恒久エンチャント用の材料ね。あると良いわね」


 斧を持っている訳ではないので、なるべく最小限の労力で解剖を行いたいと考え、ひとまずツリーマンの身体を中心から縦割りにしてみた結果、あっさりと光る宝石のようなものを発見した。見た目的にもこれだろうと当たりを付け、他の個体分も同様に確保していく。


「さて、最後にドライアドだけど……魔核があるとしたら、木の方にあるのか、人型の方にあるのか」


「ドライアドと言う精霊なのだから、人型の方にありそうよね」


「人型を解剖するのってちょっと寝覚めが悪いよね……と。心臓と同じ場所にはないなあ。頭は……あった。あれ、脳味噌とかないのかな……。よし、これで全体分取れたし、行こうか」


「ま、まあ精霊の類いだから人間と同様に考えたら駄目なのかも。それより、魔核だけ? 木は要らないの?」


「うーん、木はかさばるし、持って帰っても使い道がなあ。もっと燃やし続けて木炭として使う手もあるかもしれないけれど、持ち帰るほどかっていうと……」


「そう? それじゃあ、私が貰っても良いかしら? ある程度削ってさえしまえば白木が出て来ると思うから、矢の材料として試してみたいのよね」


 二つ返事で了承し、木材はヴィオラに譲ることに。そう言えば弓はともかく、矢はさして材料に決まりはないと言うし、堅さなどによっても違うから試行錯誤してみるのが良いと何かの書籍で読んだ気がする……。ツリーマンなんてファンタジー世界特有の木材、現実ではお目にかかれないし、研究する必要があるのだろうなあ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 頭に魔核……………Σ( ̄□ ̄)!
[一言] 寄生より木が本体説の方がメジャーだと思いますが…… 女性型モンスターは解体しづらいですよね。絵面が猟奇ww 配信大丈夫か?
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