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書籍化【完結】私だけが知らない  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!
本編

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89/145

89.察して振る舞うのが貴族の慣わしなら

 彼女が仄めかした悪意を、どれだけの人が認識していたのか。ただ「こうだったらいいのに」と曖昧な表現をしただけの場合もある。それを周囲が叶えたため、ヴェルディナはつけ上がったのだ。自分が望めば叶う、と勘違いした。


 人を操ることに快感を覚えたのが先か、最初から操るつもりだったか。どちらにしろ、彼女はある意味で、もっとも貴族らしい女性だ。謀略が当たり前の、まるで幻想のような社交界を泳ぐ「虹色の魚」だった。


 青を当てられれば青く反射し、赤を浴びれば赤く染まる。虹色、玉虫色、呼び方は様々だが、ヴェルディナに才能はあった。社交界を泳ぐ鑑賞魚としての才能を、間違った方向に発揮した悪女。傾国と呼ばれてもおかしくない。


「よかろう、社交界や貴族としての振る舞いであったと認めよう」


 ヴェルディナの罪を問わないとでも言いた気な口調で、クラリーチェ様は笑みを浮かべた。反射的に見上げて、ぞくりと背筋に寒気が走る。言葉と表情が真逆だわ。絶対に許さないと語る表情と、穏やかに赦しを与えるような声。女王として君臨する伯母様は、器用に使い分けた。


 近くにいなければ、これほどの寒気は感じない。きっと殺気と呼ばれるのは、こういう感じなのだ。クラリーチェ様は無罪にする気はない。私が取る態度はひとつ。


「陛下の仰せのままに」


 復讐もすべて諦める。そう聞こえるように、会釈を添えて。一瞬だけ眉を動かしたが、クラリーチェ様は作った笑顔を崩さなかった。


「アリーチェも分かってくれるか。さすが我が姪」


 扇を広げた伯母様が口元を隠す。二人の視線の先で、ヴェルディナの表情に安堵が浮かんだ。被害者と断罪者が許した、そう感じたのだろう。目に見えて顔色が改善されていく。


「仄めかし操るのが貴族の振る舞いであるなら、私のこの言葉も許されるはずだ――私はこの女に()()()(いだ)いておる。出来るなら二度と視界に入れたくはないものよ……」


 仄めかし操る。その意味においては、君主の意向を汲んで対応する貴族の言動も同じだった。国の頂点に立つ女王陛下が、黒だと言えば白い壁も黒く染まる。女王の機嫌を取るため、トラーゴ伯爵令嬢ヴェルディナに厳しい日々を与えると言い切った形だ。


「だが、我が姪が苦しんだ倍の月日は耐えてもらいたい」


 簡単に殺すな。釘を刺したクラリーチェ様の赤い唇が弧を描いた。何かの罰を与えろと口にしていない。嫌いだから目に入れたくない。でも簡単に死なれたら不満だと漏らしただけ。その呟きが、配下にいる貴族にどんな免罪符となるか。


「そんなっ! 酷い!」


 叫んだヴェルディナに、私は満面の笑みでこてりと首を傾けた。銀髪がさらりと流れる。


「あら、おかしなことを仰るわ。女王陛下はあなたを傷つける発言をしていませんわよ。ただ嫌いと意見を表明されただけ。それに……私の立場に成り代わりたかったのでしょう? お礼を言われてもいいくらいだわ」


 お前自身が私を突き落とした地獄、たっぷりと味わえばいい。同じ立場になれて良かったわね。そう締め括った私に、お父様は顔を引き攣らせた。失礼ね、言葉を柔らかく包んで伝えたのに。

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― 新着の感想 ―
[一言]  お父様「‥‥‥こいつの家族を目の前で◯門してからゆっくり悲と惨を絡めて◯す」  やりそーだなー(棒
[一言] >お前自身が私を突き落とした地獄、たっぷりと味わえばいい。同じ立場になれて良かったわね。そう締め括った私に、お父様は顔を引き攣らせた。 お父様、女の怖さに怯える。 この程度で怯えていたら、…
[良い点] 女王様もアリーさんも流石ですo(`・д・´)o 簡単に死ぬよりも長い罰を与えて身の程を知らせてやりましょうぜ(p`・Д・´q) [一言] 小人と猫作者さん、小人王妃のテントでスヤスヤおやす…
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