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書籍化【完結】私だけが知らない  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!
本編

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88/145

88.教唆や誘導は主犯も同然よ

 捕獲した罪人の確認や尋問が一段落したのか、兄カリストには疲れが見えた。しかし彼の浮かべる表情は厳しく、嫌悪や憎悪に近い。暗い感情を浮かべた眼差しで、ヴェルディナを睨みつけた。


 ここまで断言するのだから、証言や証拠はあるのだろう。カツカツと靴の音をさせて近づき、途中で汚れた絨毯を踏み締める。お兄様の足音が消えた。途端に小さな音が気になる。カリカリと爪で何かを叩くような……。


「私は何も手を下しておりませんわ。すべて、周囲が勝手にやったことです」


 左手の爪を、右手で剥がすような動きをする。音の原因はヴェルディナだった。大きな音ではないのに、不思議なほど苛立つ。カリリと響いた音は突然止んだ。


 ここで思い出した。あの音、以前も聞いたことがある。王太子フリアンが側近と、私に虫入りのお茶を飲ませた時……変な音が聞こえていた。あの時は何の音かわからなかったし、それ以前の状況だった。


 逃げるのに必死で、どこで何の音がしていたのか。考える余裕はない。彼らから解放された時には、音も消えていた。小さな小さな音なのに、耳について……まるで嘲笑されたような不快感を思い出す。


 ヴェルディナは赤茶の髪をぐしゃりと乱した。苛立った様子で、お兄様に反論する。


「希望や夢を口にしただけ! 直接、罪を犯していないの」


「いいや、お前に誘導されたんだ。フリアンはお前が願えば何でも叶えた。妹アリーチェに割り当てられる予算の横流しも、あの子の日用品の略奪も。友人であるご令嬢への嫌がらせも」


 そうだったのね。納得できる部分が多くて、私は長く細い息を吐き出した。学用品や私物が奪われた後、なぜか伯爵令嬢に与えられた。私は日記の内容を額面通りに受け取っていたわ。フリアンが奪った品を、彼女に与えたのだと。


 因果関係が逆だったのよ。彼女が欲しがったから、私の持ち物を奪った。ヴェルディナが何を思って、私の物を欲しがったのか。成り代わりたかったのでしょうね。先ほどの発言でも、悔しいはずと決めつけている。


 王太子であり未来の王となるフリアンを、一人の男ではなく幸せへの踏み台として欲した。愛したのは彼の地位と財力、権力だろう。自分と同じだと考えたから、悔しがらない私を理解できないのだ。


「フリアンの取り巻きが自白した。アリーチェの物を欲しがって強請り、友人達を邪魔だと仄めかして遠ざけさせ、嫌がらせに虫を飲ませる提案をする。それに留まらず、アリーチェの物を盗んだ現場に居合わせたブエノ子爵令嬢を脅した。これらの話が漏れることを恐れ、口封じを提案した……もう全部バレている」


 お兄様が再び突きつけた罪状を、ヴェルディナは否定した。直接行動を起こしていなければ、罪にならないわけではないのに。貴族の嫌がらせや犯罪は、命じて侍従や侍女にやらせることもある。そういった事例では、命じたり仄めかした主君が主犯として罰せられた。


 彼女は命じていないから違うと言い訳したが、そんな言い訳が通るはずもない。実際にトラーゴ伯爵令嬢ヴェルディナの発言で、犯罪が実行されたのだから。


「なるほど……直接手を下した金髪は愚かだが、まだ可愛げがある。手を汚す覚悟は見事なものよ。逆に赤茶の小娘は随分と汚い手を使ったな」


 クラリーチェ様はすっと目を細めた。白黒はっきりさせる伯母様なら、カサンドラよりヴェルディナを嫌うでしょうね。

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― 新着の感想 ―
[一言]  あーこいつが全ての元凶か。  首から下を虫やネズミに喰わせるとかの悍ましい刑に処されるでしょうな。  今までの毒とか地位剥奪の上絞首刑とかはまだ「文明的」な刑罰だったけどこの手の人間には…
[一言] 女狐より泥棒猫の方がタチが悪かった件。 さて、女王様はどういう裁きをするのでしょうか?
[良い点] 何でも欲しがる女、マジで怖い((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル 妹とかなら分かるけど、他人で執着とか……。 もう、こいつには人生の終着駅地獄しか無いですね。 [一言] 助けてくれた猫作…
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