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書籍化【完結】私だけが知らない  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!
本編

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83/145

83.取り巻きといえど責任は必要

 ドゥラン侯爵令嬢に追従した貴族家には、重労働を課すことに決まった。現時点で、跡取り息子にも同じ罰が適用される。個人への罰に加え、家としての処分も必要だった。家名を使っての脅迫、圧力、様々な便宜を要求した経緯を、アルベルダ伯爵令嬢イネスは、顔を上げて堂々と告発した。


 ドゥラン侯爵令嬢に従った取り巻きは、侯爵家と伯爵家が一つずつ、子爵家が二つ。どの家も横領などに絡む文官への脅迫や暴力に手を貸しており、無罪放免はなかった。


 彼女達が起こした事件や不敬、実際にされた被害に至るまで。私と離れていた期間、彼女もただ遊んでいたのではない。そう示すように、学院内で情報を集めていた。リディアの死に怯えて迷ったものの、覚悟は決まったようだ。元から気の強いイネスだもの。


 思い出したエピソードに、くすっと笑みが漏れる。三人で街へ出た際、酔っ払いに絡まれたことがある。まだ夕刻なのでさほど警戒していなかった。護衛の騎士が直前に起きた馬車事故の対応をしている隙に、絡まれてしまったのだ。


「下がりなさい!」


 厳しい声で叱責したのはイネスだ。震えながらも私を守ろうと前に立つリディア。二人ともとても勇敢だった。私は護身術を習っていたため、いざとなれば披露するつもりでいた。実戦で通用するか自信はなかったけれど。


 物語なら、ここで王子様が助けに入る。我が国では期待できない展開だ。そもそも彼に助けられるくらいなら、自分で叩きのめす方がいいわ。多少ケガをするとしても、婚約者に頼るのは嫌だった。


 ぐっと拳を握り、私は正面の酔っ払いを睨む。貴族相手に騒動を起こす平民は少ない。あとで罰せられる罪が重くなるからだ。平民同士の喧嘩のように、両成敗とはいかなかった。酔っていることで気が大きくなったのか、私達のお忍びの姿のせいで貴族だと理解していないのか。


 伸ばされた手を避けるように、イネスが一歩下がった。その時に引いた足を後ろに振って、一気に蹴り上げる。酔っ払いの股間を直撃したらしく、すごい悲鳴が響き渡った。人が出せるとは思えないほど、濁った切実な叫びだ。


 馬車事故の処理を放り出し、護衛が駆けつける。すぐに保護された私達は馬車に乗せられ、帰路についた。無言が続く馬車の中、イネスが大きく息を吐いた。


「怖かったわ」


「でも凄かった」


「イネスはケガをしていないの?」


 彼女の呟きがきっかけとなり、馬車は急に賑やかになる。見事な蹴りを披露したイネスは、見様見真似だったと白状した。初めてだから加減が分からなくて……そんな言葉に、絶叫の理由が分かった気がする。全力で蹴られたから、相当痛かったのね。





 凛として顔を上げたイネスの声に、次々と過去が過ぎる。目の前で観劇が上映されているように、記憶はぽろぽろと溢れ出した。リディアを失った痛みがじくじくと胸に広がる。と同時に、彼女との小さな出来事が浮かんだ。


 刺繍をしたハンカチを交換し合ったこと、一緒にお菓子を焼こうとして鉄板を落としたこと。気に入った小説を貸したら、好みがまったく違ったこと。


 告発を終えて胸を張るイネスは、下唇を噛んだ。泣きそうになるのを堪えた表情が、とても美しいと思う。彼女の視線がゆっくり私の目と重なり、瞬きして逸らされた。


 ええ、あとで私から話しかけるから。それまで待っていて頂戴。ようやくリディアのことも、あなたのことも思い出してきたの。残った共有の記憶をすべて取り戻したい。


 ドゥラン侯爵家もきっちり裁く。タイミングが今ではないだけ。見逃すことはないと、釘を刺す。フェリノスから、四つの貴族家が消える。ドゥラン侯爵家に従ったグリン侯爵家、イニエスタ伯爵家、レンドン子爵家、サラビア子爵家だ。


「各貴族家は取り潰し、領地や財産は国庫に回収とする」


 クラリーチェ様の、女王としての判決が響き渡った。

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― 新着の感想 ―
ここ数話で本当に大切な友人だったことが伝わってくる 失ってしまったものは大きいけど残ったものを大切にできたらいいな
[一言] >物語なら、ここで王子様が助けに入る。我が国では期待できない展開だ。そもそも彼に助けられるくらいなら、自分で叩きのめす方がいいわ。 小公子(アリーチェ兄)様なら、助けを期待してもいいような…
[良い点] 断絶→自業自得→貴族なのに頭悪いことしていたから。 教育受けていたのに、知識は流れたのかもしれないきゅ(´・ω・`)? [一言] 小人は見た。 半透明なリディ令嬢が、アリーさんとイネス…
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