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書籍化【完結】私だけが知らない  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!
本編

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68.同じことを私にしたのよ

 毒の用意をする間に、事情説明と処刑について知らされたらしい。貴族派が集まってきた。女性は少なく、やはり男性が目立つ。処刑があるならと妻や娘を同席させない人が多いのだろう。お父様は私が女王陛下の隣に座っていることに驚いた表情を見せ、すぐに近づいて声をかけた。


「気分や体調は平気か? 少し顔色が青いぞ」


「平気ですわ。クラリーチェ様も気遣ってくださったけれど、私はすべてを()()()()のです」


 過去に起きた事実も、心の中で失われた真実も、これから起きる出来事すべても。強欲な自分に苦笑いが浮かんだ。その表情を悲しいと感じたのか、お父様は柔らかな声で同意をくれた。


「アリーチェが望むのなら、何でも構わん」


 何でも差し出そう。そう聞こえた気がした。クラリーチェ様は扇を広げようとして、みしっと軋んだ音を立てた扇を後ろへ出す。咄嗟にサーラが受け取り、フェルナン卿に渡した。すぐに新しい扇が返ってくる。それを広げて、伯母様は口元を隠した。


「そなたは愛情表現が下手だ。アリッシアの時も注意したであろう。もっと娘を大切にせよ」


「心に留め置きます」


「留め置いて実行しなかったから、こうなったのだ。反省いたせ」


 お父様はそれ以上何も言わず、ただ深く頭を下げた。お母様の時にも注意したのなら、お父様は基本的に口下手なのかも。態度ではそれなりに表してくれた気がするわ。でも過去の記憶が戻らないから、態度も冷たかった可能性がある。


 不器用な人なのだということは、よく理解できた。


「一番罪が重い者から飲ませるとしよう」


 クラリーチェ様は、ふむと考え込んだ。意見を聞かれて、父は「押さえつけた者」が一番罪が重いと答える。フェルナン卿は「毒を受け取った者」を挙げた。私は全く違う意見だ。「口に直接毒を流し入れた者」と口にした。


 広げていた扇をぱちんと閉じて、女王陛下はにっこりと笑う。その無邪気な表情と裏腹に、吐き出された言葉は鋭かった。


「被害者であるアリーチェの意見が優先される。毒を直接口に流した……ライモンドだったか? 毒杯を空けよ」


 うー! 一斉に声を上げる三人に、騎士達が体重をかけて押さえ込む。そのうちのライモンドだけ、猿轡が外された。飲ませるなら必要よね。


 ガタガタ震えながら命乞いを始める。その言葉や表情、顔を濡らす涙さえ……何一つ私の心に届かなかった。だって、同じことを私にしたのよ? これは再現なの。自分がされたら嫌なことは、誰かにしてはいけない。平民の子どもだって知っているルールよ。


「い、嫌だ……死にたくないっ! 嫌だ、やめ……」


 騎士が両側から腕を掴み、もう一人が顎を固定する。二人がかりで体勢を整えたところへ、フェルナン卿が歩み寄った。侍従が恭しく差し出したワインのうち、白を選んで口元へ運ぶ。顎を開かせようとする力に逆らい、彼は必死で口を引き結ぶ。


 横に引かれた唇に、フェルナン卿は肩をすくめた。


「陛下、少しばかり傷つけても?」


「構わぬ」


 答えと同時に、彼は短剣を抜いた。その切先を突きつける。観客に徹していた貴族からも、悲鳴が上がった。











*********************

「今度こそ幸せを掴みます! ~冤罪で殺された私は神様の深い愛に溺れる~」 - 綾雅

電子書籍「ネット文庫星の砂、ミーティアノベルス様より11/9発売!

過去の恐怖と戦いながら優しくあろうとする巻き戻り令嬢レティシアと、全能であるが故の苦悩を抱えたカオス神による、神話のような純愛物語。

書き下ろしは、特別編としてレティとカオスの子ニュクスの小さな冒険、神獣ティアとラファエルの後日談を収録。

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― 新着の感想 ―
>お父様は私が女王陛下の隣に座っていることに驚いた表情を見せ、すぐに近づいて声をかけた。 とありますが、 64.国王派が崩壊した日 では、 >長椅子にクラリーチェ様と並んで座る私から見て、右側の一段下…
[良い点]  露悪的になりかねない具体的なシーンもきちんと書いている所。  アリーチェだってすべて知りたいと立ち会っているのだから読者もしっかりついてかないとね。 [一言]  毒杯毒抜きで(呑兵衛
[良い点] 「毒→拒む→飲まない」 「毒は青汁と同じきゅ( ・`д・´)」 [一言] 小人、執事と連携プレーで毒をわんこそばのように激しく飲みまくる!! ごきゅごきゅごきゅごきゅ 「ゲップー、青…
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