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書籍化【完結】私だけが知らない  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!
本編

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45.痩せた兄の思わぬ指摘

 兄が到着した連絡が入った。この時点で、昼食から一時間ほど経過している。お父様はすでにエリサリデ侯爵と共に動いていた。


「お出迎えはしないわ」


 サーラにそう告げる。お父様と決めた通り、基本はこの部屋を出ない。自らあちこち歩き回れば、それだけ危険が増すし敵につけ入る隙を与える。


 庭であっても散策しない。自分の屋敷にいても同じだから、窮屈とは思わなかった。護衛に付く騎士は、すべて公爵家で雇っている。彼らにはお父様から厳命が下っていた。


 お父様と私以外の命令を聞くな……それは次期当主であるお兄様を含め、外部からの手紙や呼び出しに対しても適用される。国王から叱責される事態になっても、お父様が責任もって対処すると言い切った。王族が信用できないから、この事態に陥ったんだもの。当然の結果だわ。


「王妃様やパストラ様にお手紙を書かなくては」


 後宮にいるなら、申し訳ないが会いにきてほしい。無理ならお父様と一緒にお伺いすることになるだろう。いろいろと考えながら便箋を広げ、ガラスペンにインクを吸わせる。垂れないのを確認して、ペン先を紙につけた。


 考えるより早く挨拶文が浮かんで、手が動く。さらさらと認めて、本題もすんなり上品な文章で仕上げた。会いたいがこちらから動くのは難しい、そんな内容だ。最後に一般的な挨拶で締めて、署名を施した。


 封筒にしまった手紙に封蝋の準備をしていると、ノックがあった。サーラが応じて取り次ぐ。


「兄君がおいでです」


「お通ししていいわ。ただし、扉は開けておいて頂戴」


 未婚女性は、男性と二人きりにならない。このルールに対する答えの一つに、扉を開けたままにする方法があった。本来、家族なら適用されないの。それなのに扉を開けるのは、お兄様を信用していないと示すため。


 どんな反応をするかしら。扉を開けておけば、緊急時に騎士が介入できる。扉が閉まっていれば、許可なく入室できないけれど。開いていれば飛び込む許可を与えたのと同じだった。


「久しぶりだ、リチェ」


「はい、カリストお兄様。学院でのお勉強は捗っていますか」


 封蝋を手早く終えて、サーラに目配せする。合図する前に、彼女は片付けとお茶の支度を始めていた。封蝋を終えた手紙を棚に移動させ、さりげなく文房具を積んで隠す。そのままワゴンのお茶道具を手に取り、湯を運ぶよう指示を出した。


 お湯が届くまで時間がある。ソファを勧めて、私も向かい側へ腰掛けた。お兄様が腰を下ろすのを待って、じっくり観察する。こんなに()せていたかしら。頬も以前より()けた気がした。


「勉強はいつも通り、まったく問題ないんだが……人間関係が荒れている。リチェの事件があってから、貴族の派閥が大きく動いた。今はそちらの方が大変さ」


「そうですか」


 淑女の笑みで受け止める。穏やかに話を横へ流した。まるで私のせいで人間関係に苦労したように仰るのね。そんな嫌味も呑み込んだ。やはり、お兄様は敵なのかもしれない。


「問題を起こした者は休学や退学になった。リチェはもう通わなくていいはずだ。安心してくれ」


「はい、有難いことです」


 その後も雑談が続くテーブルへ、スコーンとお茶が運ばれた。お茶は透明に近いけれど、ハーブティでしょう。一口飲んで、ジャムを加えた。このほうが美味しいわ。


「お茶に砂糖……味覚が変わったのか?」


 予想もしなかった質問に、私は驚いて手を止めた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 彼女が初めて茶類に甘さを加えて飲むようになったのは、作中描写の限りでは兄が家に帰らなくなったあとから。従って甘いものを茶に入れるようになった妹に驚く兄は不自然ではないですが、なぜそこを…
[一言] >「お茶に砂糖……味覚が変わったのか?」 砂糖ではなくジャムですわよ、お兄様。 今のアリーチェはニューアリーチェなのだから、味覚が変わるのも当たり前だと思うのですが……。
[良い点]  ここまで来れば下手に動かず泰然としていた方が相手も策の施しようが無くなるのでいい手ですね。  相手はよっぽどの変事でも起こさなければこちらは動く必要は無い。  あとはこうやって取り込ん…
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