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書籍化【完結】私だけが知らない  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!
本編

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35/145

35.ケガをさせたら命の保証ができないわ

 得られた情報は少なかった。彼女は使い捨てだったのね。雑談を振れば、過去の学院生活を聞けたかもしれない。でも、正直なところ興味がなかった。


 平和な状況の話を聞いても、記憶のない私は実感できない。他人事だから、同情も感動もないだろう。ならば、距離を置いた方がいいと思った。


「ありがとう、ゆっくりなさって」


 立ちあがろうと挨拶した私に、さっと父が手を貸す。素直に受けて、伯爵令嬢に背を向けた。サーラが扉を開く。何も言わない元友人に、私はもう何も求めていなかった。


 証人としての価値は低いけれど、いないよりマシだ。王太子に直接届かなくても、ドゥラン侯爵令息を叩くのに、多少役立つ程度。王太子の手足を捥ぐ道具を振り返って気遣うことはない。


 扉の外へ足を踏み出す直前、お父様が私を抱き込んだ。びっくりして上を見上げる。どんと衝撃があり、父の前に立ったサーラが「無礼ですよ」と叱責する。ここでようやく、伯爵令嬢が走って来たと知った。


 武器を持ち込んだ可能性はない。この屋敷の警備や侍女がそんなに無能だと思わない。でも、髪飾りやペンでも人を傷つけることは可能だった。身を挺して守った父が、厳しい目を向ける。


「アルベルダ伯爵令嬢、我が娘に無礼を働くなら……考えねばならん」


 ここで匿うことなく、放り出すぞ。遠回しな脅しに、彼女はそれでも怯まなかった。


「大切なお話が残っています! 王太子殿下には、あの女性の他にもう一人……距離の近い女性がおられました。距離を取っていたから、私やリディアは知っています」


 一気に捲し立てたあと、大きく息を吐き出した。


「リベジェス公爵令嬢です」


 覚悟を決めたのか、声の震えを抑えて言い切った。父の視線から逃れるように、私に視線を合わせてくる。


「王太子殿下はリベジェス公爵令嬢を正妃とし、あの女性を側妃にする。そう側近達が話していました」


 お父様は知らなかったのね。怒りに震える吐息が漏れ、私の旋毛にかかった。もしかしたら、貴族派にしれっと所属していたりするのかしら。この辺の事情は、伯爵令嬢がいない場所でするべきね。


「ありがとう、誠意は受け取ったわ」


 にっこりと笑って、お父様の腕をぽんぽんと叩く。緩められた束縛から、するりと抜け出た。父と腕を組んで一礼する。そのまま退室した。咄嗟の対応が遅れた騎士の、詫びる声が廊下に響いた。


「部屋から出すな」


「承知いたしました」


 彼女の安全のためではなく、私のための命令だった。あの勢いでは、ガラスペンを構えて体当たりされても、大ケガするわ。事実上の危険人物認定と、軟禁だ。それを気の毒と思うほど、私は彼女を知らない。命を保証するだけ、感謝してほしいと感じた。


「お父様、リベジェス公爵家は……」


「執務室に入ってからだ」


「はい」


 腕を組んだまま、並んで廊下を歩いた。ふと気になり、後ろのサーラに声をかける。


「サーラ、ケガはなかったの?」


「はい、ありがとうございます。お嬢様」


 よかったわ。もしサーラにケガをさせていたら、私は伯爵令嬢を公爵家の敷地から外へ捨てたでしょう。命拾いしたわね。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 何故体当たり……? [一言] 婚約破棄のそれなりに前から王子と側近が仮にも貴族の上位層令嬢に対するにしては主人公を蔑ろどころか明確な害意が目立つなと思っていたのですが。 なるほど主人公…
[一言] わざわざ体当たりする意味が……
[良い点] まさかの公爵令嬢が黒幕な線が濃厚に( ・`д・´) [一言] 高笑いする悪鬼のごとき女狐の笑い顔がふと過りました。男を手玉に取る極悪人ですね( ・`д・´) まさにムワッ!!(=`ェ´=)…
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