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書籍化【完結】私だけが知らない  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!
本編

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24.アルベルダ伯爵令嬢の言い訳

 お茶会は招待した者、続いて下座から埋まる。最後に上座の客が座り、揃った一堂の前で開催者が挨拶して始まるのが常だった。子爵令嬢であるリディアがこの慣習を知らないはずはない。


 もし、アルベルダ伯爵家でお茶会が催されたとしても、彼女が先に入場することは確定だった。なのに、遅れてくる。それも大事なお茶会だと知りながら……?


 違和感を覚えたのは、アルベルダ伯爵令嬢も同じだ。用意された向かいの席をじっと見つめる。私はサーラを手招きし、カミロ経由でお父様に話すよう伝えた。単純な遅刻ならいい。いえ、良くはないかしら。


 我が公爵家を蔑ろにする行為だもの。序列社会にケンカを売るに等しい行為だけに、こんな愚かな失態をする貴族はいない。事前に遅れることが判明すれば、使いを走らせれば済んだ。


 現状で考えられる中で可能性が高いのは、事故。車輪が壊れた、馬がケガをした。そんな理由で馬車が立ち往生し、動けなくなる。すでに家を出た後なら、使いが出せなくておろおろしているでしょう。


 助けの手を差し伸べておいて、損はない。冷たいようだけれど、彼女は手紙で私に詫びた。後ろ暗い行いをしたか、または助けなかったか。私に負い目を感じているのは間違いない。こちらに記憶がない以上、情けのかけようがなかった。


「ブエノ子爵家へ使いを出します。先にお茶をいただきましょうか」


「はい。本日はお招きいただきありがとうございます。アルベルダ伯爵家次女イネスでございます」


 一般的な挨拶を終えたあと、彼女は迷いながら付け足した。


「王家主催の夜会では、お助けすることが出来ず……申し訳ございません。あんなに恩を頂いたのに、仇で返してしまいました」


 ピンクに染めた唇がくっと歪む。引き結んだ口元がぴくりと動き、緑の瞳は潤んでいた。泣いてはいけないと自制したのか、何度も不自然な瞬きをして肩で息をする。


「ゆっくり話をしましょう。時間はあります」


 そう切り出した私は、あの日の話が知りたい。けれど、記憶がないことを暴露すべきか。それとも切り札として温存するべきか、迷っていた。ひとまず様子を見ましょう。彼女の仕草から、かなり追い詰められた感じがした。


「一緒に学院へ通い、仲良く過ごせていたと思ったのに」


 どうして? そんな濁し方で話を誘う。水を向けられたアルベルダ伯爵令嬢は、手にハンカチを握って俯いた。執事カミロも侍女サーラも、アルベルダ伯爵令嬢とブエノ子爵令嬢は友人だと証言している。何度も遊びに来たことがあるし、爵位の垣根なく親しくしていた、と。


 公爵令嬢を敵に回す状況に追い込まれたなら、王太子の指示かしら。それとも物理的な隔離などの強引な手法? まさか、ただ様子見をしたわけじゃないわよね。


 社交用の冷たい微笑みを浮かべ、私はアルベルダ伯爵令嬢の「言い訳」を待った。


「学院で親しくしたこと、お忘れではないでしょう?」


 裏切ったのなら白状なさい。匂わせた裏の言葉に気づいた伯爵令嬢が青ざめた。このまま黙っているなら、帰そうかしら。そう思ったところで、ようやく口を開いた。


「夜会の数日前でした。王太子殿下の側近であるドゥラン侯爵令息より、呼び出されたのです。次の夜会では大人しくしていろ、もしアリーチェ様に味方したら家を潰すぞ。こちらには王家が控えているんだ、と」


 勢いをつけてここまで言い切り、慌てた様子で頭を下げた。


「申し訳ございません。以前にお許しいただいたので、フロレンティーノ公爵令嬢のお名前を呼んでしまいました」


「それはいいわ」


 名を呼ばせていたなら、爵位の枠を超えて仲良くしていたのは事実だろう。


 ドゥラン侯爵家は嫡男クレメンテと、妹で長女のミレーラのみ。以前に手紙を寄越したのは、ミレーラのようだ。このまま聞き出せるといいけれど。

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