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書籍化【完結】私だけが知らない  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!
本編

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23.変ね、訪れる順番が違うわ

 お茶会の朝、私は明るいミントのシンプルドレスを纏った。ワンピースに近いがレースがふんだんに使用され、豪華な感じが気に入っている。締め付けられるドレスで戦いに臨むより、自分らしく立ち向かおうと考えた。父やサーラも反対しないので、マナー違反ではないと思う。


 最低限の生活に関するマナーや慣習は頭に入っている。思い出そうとしなくても、自然と体は動いたし挨拶や受け答えも浮かんだ。お茶会は問題なくこなせそうだ。


 ワンピースは裾の長さがやや短いものの、下に白いレースのスカートを纏うことで長さを調整できた。スカートは豪華なペチコートなのだけれど、マナー違反に該当しない。銀髪を結おうとしたサーラの手を止めた。


「こうして留めてくれるかしら」


 千切れた髪が目立つ左側を上げ、わざと傷んだ部分を見せつける。逆に右側をふんわりと髪留めで固定した。これを見てどんな対応をするのか。彼女達の反応が知りたかった。


 お見舞いに記された謝罪は、全面的に非を認めたと感じさせる文面だった。今回のお茶会の誘いに、彼女達は翌日には出席の連絡を送って来ている。誠意を見せる気があるのなら、私が置かれた過去の話を聞かせてほしい。そう綴っていたのに、彼女達は出席を選んだ。覚悟は決まっているはず。


 装飾品は控えめに、銀とパールの髪飾りと同じデザインの耳飾りのみにした。指輪は食器に触れるから邪魔だし、胸元に刺繍が施されたワンピースに首飾りは不要だ。さっと確認し、立ち上がった。玄関ホールで迎えるのは夜会や晩餐会のみ。お茶会は決められた会場で待つものよ。


 今回は温室になっている中庭を利用する。ここならば、お父様が確認しやすい。公爵家の屋敷の敷地は広いが、外部から侵入される心配もなかった。広大な屋敷を維持するため、侍従や侍女だけでなく騎士も多く雇われている。巡回を増やすよう命じる父に微笑んで足を止めた。


「お父様、行ってまいります」


「何かあればサーラに申し付けよ」


「はい」


 サーラが合図を出す役割を担う。その手筈も整えていた。一礼して通り過ぎようとしたところに、思わぬ声が掛けられた。


「アリーチェ、その……綺麗だぞ」


「あり、がとうございます」


 まったく予想しなかった褒め言葉に、ぎこちなくお礼を口にした。頬が赤くなる。嫌だわ、父親が娘を褒めるなんて珍しくないでしょうに。でもサーラは驚いた顔をしているし、私も照れてしまった。もしかして、普段はこんな会話はなかったのかしら。


 顔を上げて温室へ入り、用意されたテーブルの椅子に腰かける。残念ながら温室を利用した記憶もないため、心細さを感じた。深呼吸して自分に言い聞かせる。ここは我が家で、お父様やサーラが守る自陣よ。誰も私に危害を加えたり出来ないし、それを許さない。


「アルベルダ伯爵令嬢がご到着です」


 声に出さず頷くだけ。執事のカミロはやや灰色がかった頭を下げた。通されたご令嬢の名はイネス、美しい赤毛と緑の瞳を持つ。オレンジとイエローのグラデーションがかかったスカートを摘まんで、一礼した。礼儀作法も完璧ね。


「ようこそ、アルベルダ伯爵令嬢」


 手で座るよう席を指示する。長細いテーブルの突き当りに私が、反対側に令嬢達の席が用意された。距離を設けたのは、お父様の指示だ。入り口から遠い、私から見て左側へ彼女を座らせた。


 わずか数秒、彼女は驚いた顔を見せた。おそらくブエノ子爵令嬢が遅れているせいね。一般的にはお茶会の時間から逆算して、下位の貴族から訪問する。ブエノ子爵令嬢が遅れるなんて、何かあったのかしら。

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