【9/25、2巻発売記念】思いがけない先客 ***ルーチェ
町に入ったところで、商隊とはお別れよ。彼らは刈り取った麦を買ったり、持ってきた商品を売ったりするの。商売で訪れる人は、用意された宿舎がある。自警団がある建物の隣だった。そちらへ分かれていく人達に手を振る。
不具合のあった荷馬車は壊れることなく、無事に町まで走った。ここで修理して帰れば、安心ね。
「よく来たな、疲れただろう。二人とも中へ入りなさい」
お祖父様が低い声で促す。促されて中に入ったら、思わぬ先客がいた。
「パストラおば様?!」
「お久しぶりね。大きくなったわ」
パストラおば様はお母様の友人で、元王女様だ。いまは侯爵家を継いで女侯爵様だった。イネスおば様もそうだけれど、いつも微笑んでいる。この一帯は元々枯れた土地で、領地の生産力を増すためにお祖父様が開墾を指導した。お母様に譲ってからは、ここと屋敷を行ったり来たり。
小さな別荘は木造で、大きな部屋が一つ。上に小さな部屋がいくつかあって、あとから増築した分が少し。三角になった屋根の真下で寝るのが楽しいの。今日もその部屋を用意してあると聞いて、嬉しくてお祖父様に飛びついた。
「昨日からお邪魔しているのよ。もうすぐ夫も帰って来るわ」
お祖父様はワインを探し始めた。運んできたお土産からワインを出したお父様が「ありますよ」と声を掛ける。今度はグラス探し、これは私も手伝った。パストラおば様はお酒を飲まないので、今夜は私と一緒に休んでくれる。
おば様の旦那さんが帰ってきて、皆で食事をした。すぐにお酒が出て、干した肉や魚が並んで……大人の飲み会になる。パストラおば様と一緒に二階のさらに上、屋根裏の部屋で寝転がった。立ち上がって歩くには天井が近い。中腰で移動するから、大人は大変みたい。
「おば様はお仕事?」
「ええ、収穫の手伝いをしたくて。ルーチェはどうしたの?」
「お祖父様に聞きたいことがあったの」
最近の出来事や雑談も交えて話すうちに、ふと口から出てしまった。
「カリスト伯父様は、どうして結婚しないのかしら?」
パストラおば様はごろりと横になり、屋根を眺めながら大きく息を吐いた。
「マウリシオ様に聞いて。他人の私が教えていい話ではないわ」
おば様も知っているなら、私の周囲の大人は皆知っていると考えてもいいの? 伯父様は優しいし、仕事もできるし、カッコいい。キラキラした髪も微笑みも好き。絶対にモテると思うの。私だって血が近くなければ、結婚したいくらい素敵だもの。
並んで転がり、同じように天井へ目を向ける。知りたくてここまで来たけれど、私が知ってもいいのか不安になってきたわ。




