【9/25、2巻発売記念】愛も恋もわからないわ ***ルーチェ
お祖父様のいる地域は、かつてのフェリノス王国の辺境地帯なの。開拓事業を始めたのがお祖父様で、ほかにも何人か同行していると聞いた。前宰相閣下とか、騎士団の偉い人とか。お祖父様と親しかった方だから、皆、もうご高齢よね。
お母様は深く聞かずに、お祖父様へ会いに行くことを許可してくれた。ただ、代わりにお父様を連れていくよう条件を付ける。お父様を大好きなお母様だから、伯父様かも? と思ったけれど。甘やかすからダメとお母様が首を横に振った。
でもね、お母様。お父様も私にすごく甘いのよ。着替えや食料、それからお土産もいっぱい詰めた。この三角の金属がついた棒は何に使うのかしら? 不思議に思いながら詰め込まれる品物を眺めた。私の乗る馬車が一台、荷馬車が三台、それから商隊の馬車が続く。
「商隊の護衛もお願いね、あなた」
「ああ、君も気を付けて……アリーチェ」
お父様は本当にお母様が好きなんだわ。口づける挨拶が終わると、私にも「気を付けてね」と頬にキスをくれた。見送るお母様の斜め後ろに、伯父様が手を振る。馬車の窓からめいっぱい振り返した。
「何を知りたいんだい? 可愛いルーチェ」
屋敷が見えなくなる頃、笑顔のお父様が切り出した。なるほど……お母様がお父様の同行を希望したのは、私が話しやすいようにだったみたい。
「お母様にフェリノス王国の話を聞いたの。滅びた国の王子様が、お母様を殺そうとした話よ」
「……ああ、知っている」
「その時に伯父様の話をしたら、変な顔をなさったわ。私が伯父様に恋をしたらダメなのはわかる。血が近いでしょう? 勉強した中に、いとこ以上に血が濃い関係はダメと書いてあったから……そう伝えたら、何か言いかけて呑み込んじゃったの」
そっか、お祖父様でなくても……お父様でも知っていたのね。商隊の護衛も兼ねているし、お土産もあるからいいけれど。久しぶりに会いたかったし。ひいお祖父様は馬を見ていて、そのまま眠るように亡くなったわ。人って突然会えなくなるから、会える時に会わないとね。
「その話なら、私からもできるが……どうする?」
「せっかくだから、お祖父様に聞いてみるわ。お父様も一緒にいてね」
「ああ、わかった」
お父様はいつも一歩引いている。お母様がお姫様で、お父様が騎士だったから? 物語の中ではよくある、結婚して幸せになる組み合わせよ。攫われたお姫様を助ける騎士の話は多いもの。もっと前に出て、お手伝いもすればいいのに。
身振り手振りも交えて話した私に、お父様は一言も口を挟まなかった。全部聞いてから、穏やかに諭される。
「アリーチェが表に立つと決めたなら、私は後ろに立って守る影でいい。逆である必要がないのだから」
これが愛や恋の結果なの? よくわからないわ。




