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書籍化【完結】私だけが知らない  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!
番外編

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136/145

(エピローグ)溺愛もほどほどに

「ルーチェ、いけないよ」


 クラウディオが叫びながら追いかけるが、幼いルーチェは言うことを聞かない。嫌だとごねて、草の上に寝転がった。綺麗に飾ったドレスも髪飾りも台無しだ。


「あーあ、やってしまったか」


 呆れたと呟くお兄様が駆け寄り、手を伸ばすルーチェを抱き上げる。銀に僅かな金を混ぜたようなプラチナブロンドを手櫛で整え、刺さった草を引き抜いていく。だが手に負えなくて、苦笑いしながら戻ってきた。くすくすと笑うサーラに渡され、すぐに手直しが始まる。


「ダメよ、ルーチェ。今日は寝転がらない約束でしょう?」


 綺麗なドレスのような服を選んだとき、約束したはずだ。しかしルーチェは忘れてしまったらしい。いつものワンピース感覚で、草の上を転げ回った。女王クラリーチェ陛下を迎えに行くから整えたのに、そう口にする母に幼子はぺこりと頭を下げる。


「ごめんなちゃい」


 叱られたら謝る。素晴らしい習慣だけれど、この子は意味を理解しているのか。謝れば許す周囲の影響で、ただ言葉を声に出すだけだ。そこに反省はなかった。悪いと思っていないのは明白だが、誰が叱るか……となれば、全員が目を逸らした。


 アリーチェは仕方なく、嫌われ役を買って出る。


「ルーチェ、本当に悪いことなのよ。理解できないなら、お出かけは中止します」


 息を呑んで泣きそうな顔をしたのは、ルーチェではなくクラウディオだった。家族皆で出掛けるのを一番楽しみにしていたのは、長男クラウディオだ。唇を尖らせて俯く姿は可哀想で、気づいたルーチェが釣られて泣きそうになる。


「にいちゃ、ごめんちゃい」


 兄が悲しんでいるのは自分のせいだ。ここでようやく理解したらしい。ルーチェはずずずっと音を立てて鼻を啜った。すぐさま侍女サーラが拭きとる。


「そんなに怒らんでも」


「そうだ。ルーチェはまだ幼いんだから」


 お祖父様とお父様の言葉に、アリーチェは二人へ振り返った。斜め後ろに立つ二人は大人と子どものような身長差がある。きっちり目を合わせて睨んだあと、ドレス姿のアリーチェが溜め息を吐いた。いい大人がびくりと肩を震わせる。


「お二人とも、甘やかしたルーチェが我が侭姫に育ってもいいのですか?」


「いや……その、すまん」


「悪かった」


 具体的な例は出さずとも、察してしまう。フェリノス王家の愚王と馬鹿王子が脳裏に浮かび、二人は謝罪を口にした。一般的な貴族家ならば許さるかもしれないが、フロレンティーノ公爵家は権力がある。そこの姫が我が侭を振りかざし、周囲を混乱させれば……未来のルーチェのためにならない。


「女王陛下も到着される。アリーチェ、険しい顔はやめよう」


 夫のとりなしで、アリーチェも(いか)らせた肩の力を抜いた。ルーチェは抱っこする伯父カリストに笑顔を振り撒く。いつかお嫁さんになると口にしていた。一般的には父親のお嫁さんだろう、と笑ったのは数日前である。


「伯母様を待たせてしまうわ」


「急ごう」


 あれは待たされることに慣れていない。お祖父様の一言で、足を速める。公爵家の屋敷に続く道を豪華な馬車が走ってきた。見覚えのある紋章に手を振れば、手前で馬車が止まる。その陰から、騎乗した女王クラリーチェが現れた。


「久しぶりだ。おお、ルーチェも大きくなった。クラウディオ、おいで」


 忙しく子ども達を構う伯母に、アリーチェは屋敷へ入るよう勧めた。後ろをついてきたフェルナン卿が促し、クラウディオを抱き上げた女王は機嫌よく歩き出す。豪華な馬車を従え、一行は屋敷へと向かった。待ちかねた夏の休暇を楽しむために。







********************

 お付き合いありがとうございました。次のお話は書いたものの、メリバなので迷って消そうとした最終話です。本編121話の分岐バージョンなので、ハッピーエンドが好きな方は読まないことをお勧めします。

捨てるくらいならUPして、の声にお応えしての掲載ですので、くれぐれもご注意ください_( _*´ ꒳ `*)_




新作12/23公開

【宮廷占い師は常に狙われています! ~魔の手から逃げきってみせますよ~】

https://book1.adouzi.eu.org/n2371io/

宮廷占い師――他国にはない特殊な役職を代々引き継ぐ子爵令嬢リンネア。その的中率はほぼ100%を誇る。そのため国王陛下や宰相閣下の信頼も厚かった。同じ占い師であった母の跡を継いだリンネアは、常に狙われている。捕まえて利用しようとする者、邪魔だから排除しようと考える者……そして、彼女を穢そうとする者。純潔でなくては占えない。彼女は愛する人と結ばれるまで、お役目を果たすことが出来るのか!?

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― 新着の感想 ―
いいお話をありがとうございました。サーラ疑惑のエピローグにはハラハラしましたけれどハッピーエンドで良かったです。 あとコメント欄で繰り広げられる小人さんと猫作家さんのやりとりもほのぼので個人的に好きで…
[良い点] 完結おめでとうございますm(_ _)m [一言] >ルーチェは抱っこする伯父カリストに笑顔を振り撒く。いつかお嫁さんになると口にしていた。一般的には父親のお嫁さんだろう、と笑ったのは数日前…
[良い点] 小人はメリバを読めないきゅ(´;ω;`)すみませんきゃ。 幸せなハピエンで終わりにします。 [一言] ヾ(≧∀≦*)ノ〃小人も猫作者さんに飛び付く。
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