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書籍化【完結】私だけが知らない  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!
番外編

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(夫1)三年前のハンカチから始まった

 婚約破棄から広がった騒動――主家であるフロレンティーノ公爵家を揺るがす、大きな事件だった。隣国ロベルディの女王陛下の姪であるお嬢様は、ひどく傷つけられたと聞く。故に、お嬢様の護衛に命じられた時に「必ずお守りする」と心に誓った。


 流れる月光のような銀髪、ピンクサファイアに似た鮮やかな瞳、柔らかな笑みを浮かべるお嬢様はどこまでも美しい。女神のような女性だった。騎士に対しても礼儀を守り、淑女の鑑というべき振る舞いを自然に行う。お嬢様が見せてくださった優しさは、三年経った今でも忘れていなかった。


 厳しい訓練の中、ケガをする者がいる。真剣は使わないが、刃を潰した古い剣で戦うのだ。金属の棒で訓練すれば、手が滑って血を流すことも珍しくなかった。公爵家の騎士は、実力主義だ。この国では珍しく、爵位の有無を問われなかった。代わりに平民や下級貴族出身の騎士は、礼儀作法を叩き込まれる。


 私もその一人だった。子爵家の三男、穀潰しと言われぬよう早めに独立した。実力でのし上がれると聞いて、フロレンティーノ公爵家を目指したのは十五歳の頃だったか。将来有望な見習い騎士として雇われ、朝から晩まで訓練に明け暮れた。


「血が出ているわ」


 訓練中のケガで、一時的に休憩を取らされた。手の甲を掠めた攻撃が手首に当たり、表皮が切れたのだ。大した傷ではないため、清水で洗って戻るつもりでいた。そんな私に、愛らしい少女が話しかけてくる。心配そうな表情で、猫の刺繍が入ったハンカチを巻いた。


 シンプルだが上質なワンピースを着た少女に跪いて礼を告げれば、頑張ってねと笑う。その笑顔に胸が満たされた。もっと強くなろう。彼女も含め、誰も傷つけられないように。その願いは思わぬ形で打ち砕かれた。


 フロレンティーノ公爵令嬢が王太子殿下に婚約破棄され、王宮内で毒を飲まされる。一報が入った時、怒りで目の前が赤くなった。恩義のある公爵家が軽んじられたこと、無力なご令嬢を殺そうとしたこと、一方的に婚約破棄を叩きつけた無礼。様々な怒りが湧きおこる。


 後日、婚約破棄した王太子の処分を聞いた。もう敬称をつける気にもならない。これは騎士団全体が同じ意見だった。主家を軽んじる王家など、滅びればいい。尊重するに値しない存在だった。ただの謹慎、そんな軽い罰で許されるのか? 浮気をして人一人殺そうとしたのだぞ!


 一部の騎士からは、主家の名誉のために辞職して突撃すべし。強く恩を感じる平民出身の騎士から、過激な意見も出た。感情的に賛同するが、理性はダメだと判断を下す。たとえ辞職していても、王家はフロレンティーノ公爵家を責めるから。仲間にも言い聞かせて諦めさせた。


 王宮へ乗り込んで戦うと決めた主君に従い、離宮まで護衛を行う。その際、初めて「公爵令嬢」にお目にかかった。まさか……あの時に手当をしてくれた少女? よく似た顔立ちだが、あの日は帽子を被っていた少女の髪色を知らない。確信はなかった。


「まさか……」


 下りるご当主と令嬢を見送り、茫然と呟いた。あの日頂いたハンカチは、血のシミを落として大切に保管している。侍女の一人なら、私にもチャンスがあると思っていたが……。ご令嬢だったなら、この淡い恋心は封印するしかなかった。高嶺の花すぎる。


 ロベルディの女王陛下が訪れ、フロレンティーノ公爵家の味方に付いた。これほど安心できることはない。美しくお優しいお嬢様を傷つけた愚か者共を許さない。二度と傷つけさせない、と決意を新たに護衛の任に就いた。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  ヒーロー視点来た!  やはりまっすぐな人間の感性って憧れるし腐った話の多い現実に痛んだ部分が癒される。  ヒロインを幸せにするためにヤンデレ成分も俺様成分も要らんのです。  ただただまっ…
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