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書籍化【完結】私だけが知らない  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!
番外編

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(元側近)叶わぬ夢を見る

 ライモンド・フェリノス。王家の名を戴く私は、王位継承権を持つ。常に尊重され、敬われる立場だった。実際、今までそう扱われてきた。王太子に次ぐ王家の男児、従姉妹である王女パストラより継承順位は高い。


 王太子が生きて成人する見込みとなれば、彼を補佐するのが私の役目だ。そう信じて距離を縮めた。リベジェス公爵令嬢と親しい仲になったのも、トラーゴ伯爵令嬢と深く交友していることも知っている。これは側近だけの特権だった。交友関係を把握して、様々な便宜を図る。これで僕の地位も安定するのだから。


 フリアンの婚約者はフロレンティーノ公爵令嬢だ。彼によれば、蛮族の血を引く生意気な女らしい。学院へ入学するなり、上位の成績を取った。未来の夫であるフリアンより上位に立つなど、不敬なのではないか? この件で、私達は彼女に悪印象を持った。


 私は成績を調整し、五十位以内を保っている。フリアンが三十位前後なので、彼を立てて試験を終えるのだ。貧乏な男爵家や子爵家の愚か者が上位に並ぶのは、忖度を知らないから。次期王であるフリアンより高い成績を残し、文官としての道を開こうとしているのかもしれない。


 未来が限られているのだから、少しでも高い位置に上ろうとするのだ。仕方ない。平民とほぼ同じ連中に、言い聞かせても理解できないだろう。


 砂漠の国へ嫁いだリベジェス公爵令嬢が戻れば、正妃に。いま手許で寵愛を傾けるトラーゴ伯爵令嬢を側妃に据えて、国を大きくすると未来を語った。フリアンの話に、私達は呼応し共感する。この国で一番財を持つフロレンティーノ公爵家を取り潰そう。そんな提案も出た。


 金さえあれば、フロレンティーノ公爵に従う必要はない。生意気な女にフリアンが不快な思いをする理由も消える。嫌がらせは様々な形で行われた。いや、違う。あれは不遜な国賊への処罰なのだ。質の良い高価な文房具を奪い、相応しいレディに与える。


 呼び出して貶める発言をし、足を引っかけて転ばせようとした。不発に終わる場合も多いが、少しずつダメージは蓄積したはずだ。蛮族の血を引く女の周囲から、貴族令嬢の姿が消える。これが一つの成果だった。孤立し、そのまま引きこもればいい。


 己の行為がどういった結果を齎すか。考えもしなかった。隣国ロベルディの女王は気高く美しく、恐ろしい。私を高みから睨み、冷たい声で断罪の言葉を吐く。隣で銀髪を揺らすあの女は……その庇護下にあった。圧倒的な軍事力と財力、政治力、領土を誇る女王は、彼女の伯母だという。


 金髪碧眼、王族特有の整った顔立ち、貴公子に相応しく調整した細身の体。すべてが価値を失った。毒殺など知らないと訴えても、さらりと流される。言い訳は猿轡に塞がれ、暴れても押さえられる。一緒に捕らえられたカストやセルジョも断罪された。


「全員に服毒を命じる……もちろん、それで終わりはせぬ。安心いたせ」


 女王の宣言に、全身ががたがた震える。簡単に殺して終わりにしてやらないから、せいぜい苦しめ。そう言われたのだ。怯えない方がおかしいだろう。毒の種類が読み上げられ、ワインに溶かされた。どれも嫌だ。抵抗する私が一番罪が重いと断じられ、白ワインを口元に運ばれる。


「い、嫌だ……死にたくないっ! 嫌だ、やめ……」


 抗議しようにも口を開けた瞬間、飲まされてしまう。そう気づいて、恐怖から歯を食いしばった。引き結んだ唇にグラスが触れ、拒んだ口の端を刃で切られる。恐ろしさで小さな悲鳴を上げた隙間に、流し込まれた。


 吐こうとした意図は見抜かれ、喉を裂くと微笑む男。こんな頭のおかしい騎士を従える女王が、普通なわけはない。その姪であるアリーチェも。毒は容赦なく腹に収められ、肌が痛痒く感じた。醜い発疹が現れ、服にこすれて潰れる。自慢だった顔も、整えてきた肌も……すべてが壊れた。


 関節も筋肉も激痛に苛まれ、転がり回る。それでも死ねないと言われた。いっそ殺してくれたら……そう願いながら、採掘場へ送られる。ここで岩に潰されて死ぬなら、それも悪くない。ずきずきと痛む手足を引きずり、最低限の仕事をこなす。


 たまに夢を見る。王になったフリアンの隣に金髪のリベジェス公爵令嬢が立ち、トラーゴ伯爵令嬢もいる。私はその斜め後ろで、宰相の役割を与えられて賞賛を浴びるのだ。目が覚めて、虚しさに自嘲した。叶わない夢ほど、輝かしいものはない。

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― 新着の感想 ―
情弱と言う言葉はあまり好みではないのですが、 隣国の本来の姿も何も自ら確かめない男が宰相になって 称賛される夢を描いていたというのは とても皮肉が効いてて良いですね。
呆れるほど頭が悪い。
[一言] 喧嘩売る相手を間違えたというか……。 クソ元王子の側近という立場だったにも関わらず視野が狭いですね。 もう少し広い視野で見られたら、こんな目に遭わなかったかもねと思いました。
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