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書籍化【完結】私だけが知らない  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!
番外編

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(元お取り巻き)誰もいけないと言わなかったんだもの

 蛮族の血が混じった下賤の女が、公爵令嬢として幅を利かせている。しかも王太子殿下の婚約者の地位を金で買い、偉そうに奢り高ぶった態度でリベジェス公爵令嬢やトラーゴ伯爵令嬢を押しのけた。そう聞いて、すぐに信じた。


 家同士で取引のあるドゥラン侯爵令嬢が口にしたから。付き合いのない他国の血を引く公爵令嬢と、普段からお茶会などでご一緒するドゥラン侯爵令嬢ミレーラ様、どちらを信じるか。家同士の付き合いを優先するのが当然だ。たとえ相手の爵位が自分達より上であろうと。


 社交界は女性の戦場であり、隙を見せた方が負ける。爵位や美しさだけで頂点に立てないのは、誰もが知っている。王妃殿下や王女殿下であろうと、この国では異国出身の貴族女性に過ぎなかった。名家と呼ばれるのは、リベジェス公爵家やドゥラン侯爵家だ。


 フロレンティーノ公爵家は、先代に異国の血を入れたので扱いは落ちた。侯爵令嬢ミレーラからそう聞かされ、すっかり信じ込んだ。他に確認する相手がいるわけでもない。学院で一人授業を受けるアリーチェに、私は「調子に乗り過ぎなのよ、あんた」と乱暴な口を利いた。


 いつも一緒に行動するイニエスタ伯爵令嬢とレンドン子爵令嬢も、同じようにアリーチェを貶す。私だって由緒あるグリン侯爵家の娘だ。もし反発して口答えするなら、相応に言い返すつもりだった。だがアリーチェはちらりとこちらを見たきり、一切反応しなかった。


「なんて可愛げがないの。王太子殿下もこのような女が婚約者だなんて、迷惑でしょうね」


 言葉の暴力は知っている。傷つけるために、わざと嫌がりそうな言い方を選ぶ。それでも無視され、苛立ちが募った。止めに入ろうとしたアルベルダ伯爵令嬢へ、吐き捨てるように忠告する。


「あなた、この蛮族の女を庇うなら王家を敵に回すわよ」


 その言葉に初めて、アリーチェが反応した。美しい銀髪と鮮やかなピンクの瞳、その美貌は公爵家という高位貴族に相応しい。まるで人形のような彼女が、初めて咎めるような眼差しを向けた。ここがあなたを傷つける部分ね。友人だったかしら。


 アルベルダ伯爵令嬢とブエノ子爵令嬢。この二人を攻撃したことで、溝ができたらしい。顔を合わせても挨拶や会釈すらしなくなった。数少ない友人を失って嘆く姿を見せてほしいのに、平然と振舞うのが腹立たしい。私達はさらにエスカレートした。


 少しやり過ぎかもと思いつつ、王太子殿下やトラーゴ伯爵令嬢は容認している。ドゥラン侯爵令嬢はさらに攻撃するよう示唆してきた。恐れていたフロレンティーノ公爵家からの抗議もない。






 王家が倒れるなんて、誰が予想したか。少なくとも想像を口に出すことさえ不敬罪になる状況だ。それが目の前で起き、私は断罪されている。過去の振る舞い、言動、脅迫……そのすべてが返ってきた。両親や一族を巻き添えにして、貴族としての爵位を剥奪される。


 由緒正しいグリン侯爵家は、お父様の代で断絶となった。私のせいだ。弟が継ぐはずの家はなくなり、ご先祖様への面目も立たない。この家を盛り立てるはずの婚約も破棄された。屋敷もドレスも宝飾品も、すべてが没収となる。その上、今後は使用人すらいない生活が待っていた。


 あかぎれの指に息を吹きかけながら、洗濯を行う。今までしたことがない仕事に、自慢の細い指はあっという間に切れて血を流した。食器洗い、洗濯、床の掃除。一日中頑張って働いても、パンがひとつ買えるかどうか。


 大切にパンを抱えて帰った家では、家族に罵られ言い争いになる。優しかった父は血相を変えてパンを奪い、母がそれを横から毟り取る。怯える弟は痩せ細り、最近では髪も抜けてきた。


「全部、お前のせいだ。この疫病神が!!」


「やめてよ! お父さん達だって横領をしていたでしょ! 私のせいだけじゃないわ」


 薄い板がかろうじて視界を遮る程度の粗末な小屋は、外へ声が届いてしまう。それでもケンカをやめられなかった。隣の小屋でも似たような騒ぎが起きている。隣はレンドン元子爵家だったっけ……きっとイエニスタ元伯爵家も似たような状況だろう。


 頼れる友人もなく、学院時代の顔見知りは全員が手のひらを返した。必死で取り返したパンの欠片を口に押し込み、窒息しそうになりながら私は涙を拭う。あんなこと、しなければ良かったわ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 元高位貴族の令嬢なのに、視野が狭過ぎですね~。 王族派の貴族の情報量はこんなもんだったのでしょうか?
[良い点] 貴族であって貴族でなかった(;´∀`)大国の事を知らなかったのかな?(>д<*)小国だから疎かったとかうきゃか?(´・ω・`)? [一言] 小人と作者猫さん、パンをアリーさんからもらって仲…
[一言]  他人の評価や言動に判断を委ねるからこうなる。  少なくとも残された貴族派の子息達はちゃんと頭を使っていただろうにと思う。
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