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書籍化【完結】私だけが知らない  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!
本編

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121/145

121.それぞれの未来へ向けて(最終話)

 有能な執政官となったイネスが顔を出す。名目は一応「監査」だった。数日前に連絡があり、兄カリストは寝不足の隈を作った顔で出迎える。


「何か隠しました?」


「いいや……」


 隠す必要なんてないと言いながら、徹夜で何をしておられたのかしら。ふふっと笑う私に、イネスも笑顔を見せた。不正隠しではなく、乱れた覚え書きを清書していたのでしょう? 知っていると告げてお兄様を擁護する。夫と共に子ども達が飛び出し、クラウディオは初恋のイネスにべったりだ。


 監査する書類を見ている間も、食事の時も、隣に陣取って離れない。イネスは年の離れた弟が出来た様な感覚で、可愛くて仕方ないと笑っていた。


 お祖父様に鍛えられるお父様の稽古の音が響く庭で、伯母様から届いた手紙を広げる。近々、王太子夫妻に仕事を押し付けて遊びに行く。そんな文面に慌てて日付を確認した。前回もそうだけれど、突然到着されるので手配が忙しい。今回はまだ余裕があった。


 きっと王配のフェルナン卿が進言してくれたのだろう。ほっとしながら、サーラに予定を伝えた。三日後に到着は早いと思うけれど、前回のように明日着くの連絡よりマシだ。同じように思ったのか、サーラもくすっと笑みを漏らした。


「前回は大変でした」


「ええ、屋敷の皆に三日後……念のために一日早く準備するよう伝えて」


 早駆けしたら、予定より早く到着したと言いそうだもの。慌てて伝えに行く侍女長のサーラを見送り、手紙に添えられた報告書に目を通した。すでに兄カリストは目を通しているはずだ。


 書かれていたのは、罪人たちのその後だった。顔を焼かれたフリアンとヴェルディナは、離島の採掘場に送られた。側近だった三人も同様だ。採掘場では金が採れる。そのため罪人や犯罪奴隷が働かされる場となっていた。賃金を賠償金に当てるためである。彼らもそれに倣った形だった。逃げ出すことも出来ず、黙々と働いているらしい。


 両手首を切り落とされたカサンドラは、ライサネン王国へ引き取られる。元嫁ぎ先だが、罪人としての刑罰が終わっていないのが理由だ。国家転覆を試みた罪人を引き渡すことで、国交断絶が解消されている。再び砂漠へ放り出されたカサンドラは、商隊に死体となって発見された。


 元国王オレガリオのその後も記されている。彼はお祖父様の緩衝材としてロベルディへ送られたが、受取人不在で送り返された。往路は荷馬車で、復路は徒歩だったようだ。途中で力尽きて倒れ、そのまま引きずられて死亡と締め括られていた。一国の王であった人とは思えない最期だ。それでも同情はなかった。


 淡々と読み終えた後、添えられた別の便箋に気づく。元王妃カロリナ様からのお手紙だった。公爵家を興した彼女は、パストラ様が結婚するのを機に代替わりする。最後に筆跡の違うパストラ様の一文が添えられていた。


 結婚式にご招待してもいいでしょうか。素敵だわ、すぐに返事をしなくては。夫と腕を組み、お兄様とも手を繋いで、三人で参加出来たら最高ね。ロベルディ側から、親族席にお祖父様や伯母様の参列もお願いしてみましょう。


 お父様達がぞろぞろと戻ってくる。お祖父様が腰を痛めたので、訓練はこれで終わりらしい。お年を考えずに無理をなさるからよ。そう叱った私に、お祖父様は眉尻を下げる。


「ここにいたのか、伯母上の手紙は読んだか?」


 お兄様と並んで、夫が娘を抱いて現れた。二人とも執務を一段落させたのね。財務、運営、公共事業、交易……様々に分類される執務は多岐にわたる。分業した方が効率が良いのだ。


「ええ、読みましたわ。お茶にするならイネスも呼びましょう」


 侍女が走っていく。まだ若い彼女もサーラの指導でかなり洗練されたと思ったけれど、まだまだ元気いっぱいの村娘ね。くすっと笑った。


「おかぁしゃま」


 幼い呼び方でルーチェが手を伸ばす。夫の腕の中にいる娘は、じたばたと手足をせわしなく動かした。まだ二歳になったばかりなのに、お転婆だこと。何よりも元気なのはいいことだわ。立ち上がって、ルーチェを受け取る。座って膝の上に下ろせば、満足そうに首へ手を回して抱き着いた。


「おじしゃまがこっち」


 兄を隣に座らせ、満足そうだ。


「お父様はどうしたらいい?」


 夫が尋ねると、少し考えて私の左側を指差した。


「ここ」


「ルーチェらしいな」


 笑うクラウディオが芝の上に寝転がる。お父様やお祖父様も一緒に座り込んだ。


「ここの領主家の皆様は自由ですこと」


 呼ばれて到着したイネスが最後だ。全員揃ってお茶を飲み始めた。いつも通りのハーブティに、檸檬の輪切りを浮かべる。途端に、ざわっと周囲の注目が集まった。


「まさか……三人目か?」


 頬を染める私に兄は嬉しそうな顔で「おめでとう」をくれた。新しい家族が増えて、もっと賑やかになるわね。そう思った矢先、先触れの馬が来たと騒ぎが起きる。伯母様の到着は明日になりそう? あらやだ、お茶を飲んでいる場合ではないわ。


 大急ぎで全員が動き出した。そんな中、私だけはゆっくりと足元に気を付けて歩く。この幸せを壊さないように。









終わり












*********************

 本編完結です。この部分はなくてもいいかな? と考えましたが、付け足しました。実はメリバ?バージョンもあったんですよ。書いたんですが掲載するのに躊躇われ、結局お蔵入りです_( _*´ ꒳ `*)_仕方ない。いつか公開するかもしれません。捨てられなかったので。


 リクエストを頂いた他視点は、これから数日掛けてUPしていきます。お楽しみに! ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。また別作品でお会い出来ますように(人´・ω・`o)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 完結おめでとうございます。罪人のその後知れて納得しました。 アリーさんも幸せそうで安心です(*>ω<*) [一言] 猫作者さんの口に咥えられて屋根に乗る小人。 長閑な毎日に安心だきゃ(*…
[良い点] 完結おめでとうございます。 [気になる点] アリーチェの夫の名前が最後まで出てこなかったことですね。 まぁ、必要ないと言われればそれまでなんですけどね。 [一言] クソ元王子も泥棒猫も女狐…
[良い点]  祝完結!  程よい謎を散りばめながら進んでゆくストーリーを楽しませて頂きました。  ありがとうございました! [一言]  愚者には相応しい結末があったようで一安心。
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