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――― 痛む心 と 成長 ―――

 


「……若がコレを作ったのならば、元に成った鉄塊(インゴット)、いや(けら)でもいい、見せろ」


「あぁ…… まぁ、いいが。 ちょっと待っててくれ」



 親方の琴線に何が触れたかは判らないが、職人気質が強固な親方が言い出したのだ、言葉を撤回する可能性は低く、わたしが鉄塊(インゴット)を持ってこなければ梃でも動かないだろう。 そう云う人だ。


 研究室に行き、アレを作った時に作り出した幾つかの鉄塊(インゴット)を取り出した。 満足のいくモノや、そうでも無いもの、研究の過程が見て取れる様な鉄塊(インゴット)を手に取り、親方の元へと戻る。



「基本的には黒鉄のインゴットだ。 親方はわたしの技巧(スキル)は知っているな」


「工人だろ。 『炉』を使わずに金属を目的の形にしちまう事も出来るとんでもねぇ技巧(スキル)だしな、知っている。 俺から言わせりゃ、形だけ真似たもんだがな」


「まぁ、そう云うな。 形だけとはいえ、機能はする。 『取り敢えず』ならば、つかえるのだよ。 そう、親方の持っている『小刀(ナイフ)』のようにな」


「…………気に入らねぇが、まぁそうだな。 で、” そいつ ” が ” こいつ ” の元か、見せて見ろ」



 手を差し出す親方。 その手に持って来た幾つかの鉄塊(インゴット)の内の一つを乗せる。 ほぼ、ひったくる様にしてから、その鉄塊と『小刀ナイフ』を見比べているのだ。 たしか、あの色は…… 同じ塊を作った時のだから、『元』と云って間違いはないのだが……



「若よ、これを何処で手に入れた? 『黒鉄』とか云うが、そんなもんじゃねぇだろ。 何をしやがった」


「いや、手に馴染む様にと色々と混ぜ込んだ。 それだけだ」


「…………見たことがねぇんだ。 だが、この感触は知って(触って)いる。 間違いはねぇ…… ねぇんだが、違う。 そっちはなんだ?」



 わたしが手に持っている別の鉄塊(インゴット)に視線を向けた親方。 隠す必要も無い『終わった』研究の中途の成果物なのだから、正直に答える。



「試行錯誤の結果の産物と云っても良いかな。 混ぜ込んだモノの配合量や種類が違うだけの代物だ。 要るか?」


「見せろ。 ついでに俺に預けてくれ。 色々と調べたい」


「まぁ、親方がそう云うのなら。 あぁ、『小刀(ナイフ)』は返してくれ。 こっちの小剣は返すから」


「気に入らねぇのか?」


「『業物』なのは判るが、削れんのだ。 すまんな」


「虫型魔獣の甲殻を貫くか…… やはり…… 若、また来る」


「あぁ、そうだな。 忙しい親方がギルドの連絡に来る方がおかしい。 ” 遣い ” でも良いのだぞ」


「そんなんじゃねぇよ、確定してから話してやる。 そんじゃな」



 なぜか憮然として『砦』から帰って行った。 まぁ、鍛冶師の親方に兵の武装に関する相談も出来たから良しとする。 武器屋には既に話は通してあったが、現状では難しいと云われていたから、途方に暮れていたのも又事実なのだ。 故に、親方と話せた事は、わたしにとって『善き事』なのだ。


 何の『解決策』も見つけられない内に、時は過ぎていく。 初陣から、父上、長兄様から『魔の森』の魔獣動向の調査命令が何度か下された。 『索敵魔道具』は万能ではない。 『浅層の森』の地面には、それまでに討伐された幾多の魔獣の魔石が放置されているのだ。


 目に映る全ての反応が、生きている魔物魔獣では無いのだ。 反応が薄い事が見分け方の一つではあるが、それでもチラチラと映り込む、残置魔石の反応には兵達の苛立ちも増す。 冒険者ギルドに出した、恒常依頼はちゃんと受理され、それなりの成果は上げている。 森の入口から程近い場所では、かなり残置魔石の反応は薄くなってきている。


 が、それも少し奥に入るまでの事。


 駆け出しの冒険者の仕事として認識されているのか、実力を付け出した冒険者が入る辺りには、まだまだ多いのだ。 森を進み、『中層の森』近くに成ると、残置魔石の反応は薄くなっていく。 食物連鎖の関係上、被捕食者は捕食者に喰われる。 内臓など彼等にとっては御馳走なのだから、自然と食物連鎖上位の魔物の胃袋に入るのだ。


 中型、大型の肉食魔獣の糞を確認するとそれが良く判る。 糞に『魔晶』が多く見られるのだ。 きっと魔物の体内に入った『魔石』はその内包魔力が吸い取られ、自身の魔力蓄積器官に蓄えられているのだ。 まだまだ、学者たちの中でも魔物魔獣の生態については不明な点も多い。 実際に実物を確認している我らの方が、何となくだが彼等に対する知識量は多いと思われる。



      ―――――



 どんなに注意していても、やはりそこは戦場とも云える場所。 いや、遊撃部隊にとってそこは紛れも無い戦場なのだ。 故に偶発的な遭遇戦も起こり得る。 何度も出撃して行くうち、『慣れ(・・)』も発生する。 確認がおざなりに成り、良く見ず良く聞きもせず『脅威無し』の報告を上げる兵も出て来る。


 そして、その行きつく先が……



「前衛がやられたッ! 衛生兵ッ!! 保護ッ!!」

「うわぁぁぁ!! た、助けてくれぇぇぇ」

「な、何が起こったッ! 脅威は何処から来たッ!!」


「落ち着けッ!! 右翼は引け。 本隊は進出、魔物の側背を突く。 左翼は本隊の背後の警戒。 『全武器使用(オールウエポンズ)許可(フリー)』、繰り返す、『全武器使用(オールウエポンズ)許可(フリー)』! 右翼を守れ。 走れッ!」



 今回の索敵作戦に於いて、確認できた高脅威度の魔物。 長い手で樹々を飛び移り、尾で攻撃もする、森の暗殺者。 『ジンパジー』 小型の魔物が、『魔の森』中層部から出て来たと、そう狩人達からの報告で動いていたのだが、目撃現場に到着した途端に襲撃された。


 試験的に何人かの兵に銃を持たせてはいたが、『ジンパジー』の動きは速く捕えきれない。


 魔物の中でも小型ながらに『ジンパジー』は頭が良い。 小型とはいえ、大型犬程の体躯を持つ。 使用してくる『魔法』も多種多様で捉えづらい。 脚を止めねば狙撃する事も出来ない。 直率(ちょくそつ)する遊撃本隊が足止めを担うしかない。


 樹々の間を跳梁する『ジンパジー』を追う。 『爺』直伝の対処方法は長年『森からの脅威』から人々を守って来た者達の英知の結晶。 遺憾なく機能する。 側背から『ジンパジー』に接敵、追い詰めるように投擲武器が投げられ、一点に追い込む。


 少々開けた『森の下生え』が露呈した場所。 周囲に直ぐに掴める樹々も無く、地面を進むしか無い場所。 そんな場所に追い込んだ。 すぐさま四方から捕縛用の分銅付き鎖が投擲される。 わたしもその中の一人だ。 敵の足を止める為に訓練場で鍛練を重ねた。 


 過たず『ジンパジー』の身体に巻き付く。 四方からの捕縛鎖の投擲で、敵の行動に相当な制限が加えられた。


『爺』の戦術では、此処からが長い。 相手は『魔法』を使う『魔物』だ。 距離を取らねば、此方の被害が増大する。 時として三日以上かかる持久戦と成ると爺はわたしに伝えてくれていた。 



   ―――― パシュ



 大きな溜息の様な音が聞こえた。 奇襲された右翼側の射手が銃を使用したのだ。 『全武器使用(オールウエポンズ)許可(フリー)』は、発令してある。 右翼の『観測手』が好機を見出し、『射手』が発砲したのだ。 遠距離射撃の観測手と射手の『連携』は上手く取れた。



 『弾丸』の弾道は真っすぐ『ジンパジー』まで線を引き…… その肩口に撃ち込まれたのを ” わたし ” は見詰めていた。




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― 新着の感想 ―
何とかして秘匿する為かと思っていたんですが結局兵士に銃を持たせるなら何故先の装備の考察の際に接近戦用の銃を作る発想がなかったんでしょうか?
自分の貸した刃物が機能してないのを視界の端で確認できない程度の親方か うーん。実力者として位置付けたいなら描写変えた方がええな。 ポンコツヘイト老害としてのポジならそもままでおk
やはり接近戦用にショットガンが欲しい所。 面で射撃出来るから動きの早い相手でも当てやすいしね。
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