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帝国侵攻の残滓。 残留思念の魔物化



『指揮官先頭にて、冬季中層域の予備調査』は、皆の協力の元、実行に移された。 拠点を出て、北に向かう。 滝の上流に向かい、部隊を進める。やや散開した散兵線を構築しつつ、輜重隊の工兵達が作り上げた簡易道(運搬道)を征く。 周囲に注意深い視線を投掛け、周囲に棲む魔物魔獣の気配を探る。 索敵距離は出来るだけ長く鋭敏に。 隧道迄の道程こそ、この予備調査の骨子でも有る。



 “観測長より指揮官殿へ。 現在、中層域を走破中。 三百ヤルドに魔物魔獣の気配なし。 繰り返す、魔物魔獣の気配なし”


「了解。 引き続き、索敵に留意せよ。特に行軍方向の左右。森に潜むモノを探せ」


 “了解。 進行方向、進行方向左右、遠距離索敵を随時発動し、魔物魔獣の分布を同定”


冒険者組合(アドバンギルド)』の冒険者(ギルメン)や、狩人、採取人、樵人等が森に入るのとは訳が違うのだ。 定期的に行き交う輜重の為にも、この簡易道(運搬道)の保全と安全確保は、冬季と云う厳しい季節に於いても手を抜く事は許されない。 我が佳き人の進言を受けるまでも無く、その事に付いては色々と考えを巡らせていた。が、危険度の高さから、兵達に無理強いするのを戸惑っていたと云っても良い。


 兵達の…… 射手隊と観測隊の面々の士気は高い。冬季の森に於いて、行動を不安なく完遂できる程の錬成を成し、この作戦の骨子を完遂する為の能力を遺憾なく発揮している。それは、凄まじい技能ともいえる。生来の『技巧』を研ぎ澄ませ、自身の能力を精一杯に上げた兵達は、もはや精鋭と呼ぶ事すら烏滸がましい。


 索敵探知距離、索敵精度、脅威度判断、接敵予測…… 何をとっても、超一流と云えるのだ。 冬季の中層域は『死地』 降雪が有れば、視界は塞がり、風が吹けば『白い闇(ホワイトアウト)』による、自位置喪失の危険性まで孕むのだ。 そんな危険な自然環境の中、彼等の行動は積み上げに拠る安全確保に徹し、虱潰しとも言えるような地道な行動を継続する。


 個人個人の能力の高さは勿論の事、その能力を有機的に連携させ、より広範に詳細索敵を熟して行くのだ。 征く道の正面は未知なれど、背後の道はある程度の安全が保障される。 ……ふと、前世の対ゲリラ戦闘の『古い記事』を思い起こす。大戦を制した巨大な国家が、弱小とも云える国を制圧する事がどれ程困難であったか。娯楽番組とも云える深夜のテレビドラマを視聴した時の事を思い出していた。


 何故、装備の充実した強大な正規軍がゲリラ戦を仕掛けられ、何故惨敗と云ってよい損耗を強いられたのか。


 高度な武器や移動手段を持つが故の陥穽とも言えた。対して、装備が十分では無い軍の方が、対ゲリラ戦に対する能力が高いのは何故か。 高度な装備装具が無いが故に、「足」を使った、面的制圧に重点が置かれるのだ。 当然時間は掛かるが、安全地帯を広げるやり方は、ゲリラの潜伏地点を潰して行き、最後に残った場所にゲリラ達を追い込むようなモノだった。


 面的制圧……


 今まさに、私が指針を示した作戦骨子なのだ。 運搬道を中心に左右三百ヤルドに存在する、危険因子を発見し、時に排除し、時に要観察と指標(マーカー)を設置する。 要所要所に「鳴子残響器(エコー)」や、「魔力濃度測定器」を設置し、更なる情報収集の為の魔道具を設置する。 この事により、より詳細な索敵圏を完成し、軍事行動に不安と遅滞の可能性を除去する事と成るのだ。


 其処が、民間と軍の大いなる差と云える。 我等は、冒険をしているわけでは無い。 日常を非日常に持ち込んでいるのだ。 その為には、自身の能力の限界に挑戦せねばならないのだ。 大きな負担を掛けているのは理解している。 が、再度確認できる。 兵達の士気はとても高いのだと。 そして、その高い士気から、揺らぎの様な鬼気が索敵網に濾し取られたのだ。



 “前方に、魔力反応、感アリ。 脅威度『中の下』 魔石の反応は有りません。 が、強く魔力反応が見て取れます”


「観測班は追跡。 射手班と、付随の隊はその場で停止。 観測班、詳細を求む」


 “観測班、了解”


 “射手班、了解”


 “工兵、了解”


 “衛生分隊了解”



 観測班はその場にとどまり、対象を実に良く追跡監察を続けてくれた。続々と集まる様々な情報。その情報に含まれる、不穏な現状。考察すべき事柄は多々あり、一定の方向性が脳裏に浮かぶ。 しかし、私の脳裏に浮かぶ現実には、どこか現実感が薄いのだ。 決定的な観測が生まれたのは、対象が漂う空間の場所。 気が付いたのは、私の隣で私の護衛を兼務している射手長だった。



「あの場所は…… たしか…… 帝国兵の亡骸を埋葬した場所ではないでしょうか?」


「ん? ……そうか、それだ。 ふむ、では、あれは……」


「予測としましては、魔物に形態変化(メタモルフォーゼ)する前段とも、考えられます」


「君も、その結論に至るか」


「はい。 『魔の森』の…… それも中層域の様な魔力濃度の濃い場所に於いては、生物の『形態変化(メタモルフォーゼ)』が観測されています。家禽が顕著であるとは流布されておりますが、家畜もその範疇に含まれます。 そして、『森の端』の邑では、墓地の場所を厳選します。 出来る限り川筋を含む流水の有る場所か、ため池の近くであり、且つ、森から出来るだけ離して作るのです。 墓地に埋葬される前には火葬し灰に聖水を含ませたうえ、埋葬します」


「そうだな。 騎士爵家支配領域の街でもそうだった」


「あの場所は、出来る限り埋葬場所を厳選しました。 川筋の近くであり、簡易的ではありましたが火葬もしました。 が、大きく違うのは、この魔力濃度の濃さです。これを合わせて考えますと……」


「アレは……『リッチ』の前段。 この世に未練が残る魂に魔力が集まり実体を伴う魔物と成り掛けている…… と?」


「可能性は大いに」


「私の考察と同じだ。 少なくとも二人、この考えに至るのだ、まだ、誰か同じことを考えている可能性もあるな」


「狩人であり、観測班や射手班…… 衛生兵分隊も、同様の考えを浮かべると思われます」


「分かった。 では、ホンモノの魔物に成る前に対処する。 物理攻撃が通らない『リッチ』への対処は難しい。 君がその考察に至ると云う事は、対処する方策は有るか」


「お任せを。 射手班! 前に」



 射手長は配下の射手を前線に投入する。 並ぶ射手達は過たず射手長の意図を見抜いていた。 背負う『銃』を取り出す事も無く、利き腕に装備している「スリング」を取り出す。 腰の腰鞄から『魔弾』を取り出していた。 そう、射手長が随分と昔に私に開発を願った物だ。 簡単な構造で、直ぐに開発出来たのは幸いでは有った。


 しかし、あの後、探索行に出てから、色々な追加の発動条件が射手隊から願われた。 勿論、難しいものではない。 対象が魔物魔獣でない場合は、自壊の術式が発動する。 それを、少しだけ推し進めたような願いだった。





 “射手隊、発動時間を二、または三に合わせ。 発動は打ち出しと同時。 距離、速度に注意。 包み込むように狙え。 ……撃て(てー)






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