偽りの祈りと、世界の真実への誓い。
……故に……
教会の権力は王国上層部に於いても無視出来よう筈も無い。 強く信仰を護り、人々の安寧を想うのならば、私は何も言わない。 聖職者とはそう云ったモノ達なのだと、心からそう思うのだ。
――― だが、現実は違う。 魔法学院に於いて、王都の生活を肌身で感じて、私はその結論に至った。 教会の聖職者たちの言動に、不穏で邪なモノを感じてしまったのだ。 王国に於いて『権力』や『発言力』が強くなり、強固な教義が作り上げられると、其処には恣意的な『神の意思』や、人に都合の良い『世界の成り立ち』などが、自然発生的に生まれ、それが支配的な考えと成るのだ。
その弊害は既に各所に存在する。 如実な実例すら有るのだ。 教会に於いては、王国中央、特に王都周辺では空間魔力の存在すら否定している。よって、魔力の充満する土地は穢れているとまで言葉にし『聖典』にすら記載している。 果たして、それが真実なのだろうか。 朋は言った。 王宮魔導院の魔導士たちはその見解を否定していた。 しかし、その真実を口にする事は、自身の地位を著しく危うくすることに他ならないのだ。 よって、禁忌の研究として封じられていると……
そして、多くの庶民が利用する魔道具に対しての偏見も、強く存在する。 教会は市井の下々の者達へは、監視の目を向けないが、王侯貴族に対しては魔道具の利用に嫌悪を示している。 魔法術式を駆使して、生活を豊かにしている事は、王都に在する市井の人々は肌感覚で知っている。
清貧を旨とする教会が殊更に魔道具を忌避するのは、その生活に於いて、『楽』が出来る為だろうか。いや違うな。 高位神官達が自身が持つ魔力による『奇跡』の効果が薄まる事を危惧しているのだろう。 魔法学院で各種の礼典に於いて列席する高位神官達の様子を見て来た私には、そうとしか思えないのだ。
教会での儀式で使用する『灯火』や『浄化の炎』は、神官達が自身の魔法を用いた火種を使用する。 聖別された、清らかな炎だと彼等は云うのだ。魔道具が駆動力として使用するのは、魔物魔獣から得た魔石。 人に仇成すモノから得た魔力は、汚れているとそう言いたいのだろう。 辺境に生まれ、辺境に生きる者にとって、その考えは頂けない。 いや、嫌悪感すら感じる。
何故なら、我等辺境に生きる者にとって魔物魔獣はもっと生活に近い存在なのだから。 魔石を取り、魔物由来の素材を利用し、その血肉は我等が糧となるのだ。邪悪な存在と云う言葉には一定の理解はしている。人に仇成す者である事は間違いない。が、人の生活に役立てる事まで禁ずるのは、こと辺境域に於いては無謀とも云える。 魔の森との共存を目指している私には、その点に於いて教会とは相いれないのだ。
——— よしんば、『教義』がそうで有るのならば、教会内部だけで適用すればよいのだ。
個人が信仰する分に関しては何も言わない。誰しもが信ずる神により、力と加護を与えられているのだから。 だが、ただ一つの教義でそれを縛るのは間違いだと思うのだ。 神の意思を伝えると云うのならば、その言葉をすべて開示して欲しいものなのだが、神秘に属する事は、教会は開示しない。 神勅があり、神より御意思を戴いたと、高位神官達が公布する事柄は、妙に世俗的で…… 既得権益と何ら変わりは無いのだ。少々不安に思う所でも有る。
これ程、神が近い世界に於いて、その意思を捻じ曲げるような行いに対し神が、世界の理に照らし合わせ、いずれ何らかの神罰を下されるのではないのかと、そう思うのだ。
コレは私が他の世界からこの世界に誘われた魂の持ち主だからなのだろうか。 父上や母上は敬虔な信徒であるし、兄上達もそうなのだ。倖薄き北辺の民達や、私の親族は敬虔な信仰を胸に抱いている。どんな困難に直面しようと、折れぬ心の支えとなっているのは、神への感謝と加護なのだからな。 教会の権威を疑う様な者は、私一人。 騎士爵家の支配領域の中で『異端』とも云ってよい。
――― だから、黙っているのだ。
深く信頼し愛すべき仲間である『探索隊』の彼等にも、この思いは口にはしない。 信仰とは、個々の人の心の中に有るべきものだと、常々思っている。 彼等の思想信条は、彼等のモノなのだし、私が何かを告げて彼等の純粋な思いを枉げる事はしてはならない事だと認識しているのだから。 前世世界の神に罰としてこの世界に投じられはしたが、この世界の神様に受け入れて頂いた事は、私が「技巧」を得た事で理解している。
この世界では神は人の近くに存在していると感じても居るのだ。 私の中にも相反した感覚が有るのだ。
この想いは誰にも告げる事など出来よう筈も無い。
神様の御心に従い、この世界の理を探す手段としての探索行は、『神の意思』でも有るのだ。 そして、その探索行に関しての皆の考えを聴き、深い満足を覚え、今冬季の指針を固めた。
鍛練と索敵を主眼とする。来春から始める『探索行』を十全に全うできるように、皆でより一層鍛え上げるべきなのだ。 冬の雷が轟音を轟かせ、砦を震わせた。 薄暗い執務室。 皆の瞳に紅輪が浮かび上がる。 そう、何か強い意志をその胸に刻み込んだように。 それが故に……
私は…… 自身の責務を、自身の魂に刻む。
この愛すべき者達を、必ず彼等を『彼等が愛する者の下へ』、『彼等を愛し待つ者達の下へ』帰還させねばならない義務を背負ったのだと。神を信じ、神を崇め、神を畏れる『この世界』に、生まれた者として、私は義務と責務を背負ったのだ。
コレは、信仰では無く、『この世界の理』と、私をこの世界に受け入れて下さった神様への『誓約』である事を……
―――― 私は誓ったのだ。
少々短いですが、本年最初の投稿と成ります。
宜しくお願いもう上げます!
龍槍 椀 拝




