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【書籍化】騎士爵家 三男の本懐 【二巻 発売中です!】  作者: 龍槍 椀
第一幕 『魔の森』との共存への模索
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――― 心の錘、思考の先 ―――


 

 前世の記憶を持つ私には、一部の『優れた者達』の末路を幾通りも記憶している。 歴史の表舞台に突如として現れる光の塊のような『象徴』は、一時期は持て囃され祭り上げられる。 そして、時の権力者は『その者』をどう見るかで、『その後』は変化する。


 取り込むのならばマシな方だ。 実際は目障りに成り排除される。 それを撥ね退け新たな王朝をたてるに至っても、続く者が出なければやはり断絶する。 私の知る多くの史実や物語に於いて、自身の成功と引き換えに、『優れた者達』の未来は滅せられるのだ。 『歴史の中の一瞬の光芒』なのだ。 その後を考えると、『一代』持たない。


 魔法と言うモノが存在するこの世界に於いて、この事実は加速する。


 それが理解出来ているからこそ、私にはそのような生き方が出来る訳はないのだ。 私は『持たざる者』なのだ。 無為に生きた代償に、この世界に生まれ直した者。 言い換えるならば、罪科を償う為にこの世界に『只人』として生きている、『持たざる者』なのだ。 


 エスタリアン達と同じとも言える。 故に彼ら同様『持たざる者達』が生きていく様に、地道に一歩一歩進める事が肝要なのだ。 無理など出来ないし、しない。 


  ―――


 『砦』に帰り、今回の探索行について纏め上げる。 文字に起こす事は、事象を確定する上に於いて非常に有効な手段だ。 時を置かず始めたのは、記憶が曖昧になる事を防ぐ為だ。 記録を詳細に取り、集める。 それが此れからの探索行に対する、土台となるのだ。 高く大きな建物を建てるには、深く広く強固な土台を準備せねば、簡単に倒壊する。 判っているからこそ、疎かに出来ない『仕事』なのだ。


 自分の執務室で、幾枚も幾枚も思い出す限りの事象を書き連ねていく。 時系列に合わせ、何が起こりその結果何をしたのか。 その時の自身の考えや、特任部隊の反応も。 見えないモノを見える様にする為に。 様々な情報を詰め込んだ『探索地図』は、今後も大いに役立つだろう。


 そして、征く道を塞ぐ最大の要因を記す。


         “ 高密度空間魔力量 ”


 コレを乗り越えなくては、どうにも先には進めない。 さて、どうしたモノかと、一連の覚書を書き終えた後に深く考えを巡らしていた。 風が執務室の中を抜ける。 穀物の香が鼻を(くすぐ)る。 そうか、もう収穫時期に入ったのか。


 耕作地のあちこちで、大地の恵みを収穫する為に農民たちは忙しく働いている。 食料の生産高は、その地域の経済力に直結するのだ。 御座なりには出来ない。 私も騎士爵家に連なる者である。 支配地域を支える基本的な事柄にも拘わらねば成らないのだ。 故に、政の一端も担う。


 大兄様が継爵された(みぎり)には、その役割も更に拡大する。


 もし…… もし、私に伯爵級の内包魔力が無かったら。 王都の魔法学院へ学びに行く事も無く、騎士爵家において兄上二人の補佐として、頑張っていただろう。 武勇に勝る兄上達が騎士爵家を率い、私はその足元を固めていただろうなと、そう思う。 思考が様々に飛び散らかり、ボンヤリと天井を見上げていた。 突然、声が掛かる。 拡散していた意識が、一瞬で収束しその声の主が誰であるのかを認めた。



「無事の帰還を言祝ごう。 神と精霊の聖名に於いて、貴様の帰還を心より祝福する」


「ありがとう。 祝福の言葉嬉しく思う」


「……どうした? 呆けた顔をして。 なにか、困った事でも有ったか?」



 いつも通り、遠慮なしに私の執務室に突入してくるのは朋。 背後に彼の侍従が控えている。 『女性』の外見が固定化しているのだが、精神的には『男性』のままの朋は、相変わらず魔法学院の時のまま、行動に迷いがない。 侍る従者の苦労を慮ると、彼等に黙礼を差し出すのは、今や常態と化している。



「探索行を阻害している要因に付いて考えを巡らせていた」


「濃い空間魔力か?」


「ほう、判っていたか」


「行く道の近くまで同道したのだ。 その位、理解出来んでどうする」


「貴様ならば、そう云うだろうな」


「で、『面体(マスク)』はどうだった?」


「使用感の報告書は纏めてある。 あとでそちらに持って行こうと思っていた」


「今聞きたい。 おおむねどのような感想だった?」


「上々の検証結果が出た。 濃い空間魔力の中、長時間動き回っても『魔力酔い』の症状は出にくくはなる。 有用な『魔道具』と判断できる」


「今後も使用し続けるか?」


「探索に同行する特任部隊には必須の装備となると判断している」


「ふむ…… 量産し、遊撃部隊全体に支給できるよう、数を作っておく」


「頼む。 それと、今回の探索行にて様々な素材を持ち帰る事が出来た。 コレは、私事であり公務でも有るので、これらの素材の所有権の在処を特定するのは難しい。 魔晶石に関しては、上級伯家に提出せねば成らないが、素材に関して言えば…… こちらで処分しても何ら問題は無い」


「もって回った言い回しだな。 何が言いたい」


 

 何が言いたいかは、もう理解している筈。 なのに、それを口に出させようとするのは、言質を取るため。 貴族的言い回しは、朋にとっては面倒なだけなのは知っては居る。 だが、彼の従者もまた、貴族家出身の者達なのだ。 故に、其方にも気を使わねばならない。


 朋を敬う態度を取らねば、彼等の反感を買う。 そうなれば、背後に居られる魔導卿が乗り込んでこられ収拾が付かなくなるのは明白だ。 朋にとっては迷惑千万な話だが、貴族的階位は朋の方が遥かに高いのだから少しは我慢してもらいたく思う。



「素材を対価に朋にも、考えて貰いたいのだ。 濃密な空間魔力のなか、『魔力酔い』に成らない方法を」


「ほう。 研究の主題(テーマ)と言う訳か」


「一般の民草には全く関係は無い。 まかり間違えば、兵器とも捉える事が出来るのだ。 だからこそ、私からの『依頼』として貴様に願う。 対価を伴う『魔道具』開発依頼としたい」


「うん、善いな。 それは良い。 対価をともなう『依頼』 ならば、周りにブツクサ言われずに済む。 よし、その関連の資料は纏めてあるのだろ?」


「此処に」


「寄越せ」



 ひったくる様に、書き綴った『中層の森』の状況書を取り上げ、内容に視線を走らせる。 朋の瞳に光が灯る。 様々な知見が彼の脳裏を巡っているのだろう。 そのうち、ニヤリと黒くも妖艶な笑みが彼の頬に浮かび上がる。 何かを思い付いたのかも知れない。 いつもの癖で、唐突に『要求』を口にする朋。



「染色職人と服飾職人を、各一人ずつ 都合付けろ」


「『技巧』持ちがよいか?」


「その方が楽でいい」


「何を思い付いた。 良からぬ事では無いだろうな」


「『面体(マスク)』を研究していた時に出来た副産物を思い出した。 まぁ、まだ確証は持てん。 よって、試作する」


「……そうか。 手配して置く。 『砦』に来てもらうようにするか?」


「情報の秘匿を目的とするならば『是』だ。 高火力の炉を稼働させていたな、この『砦』で。 使わせろ」


「わかった。 親方に相談する」


「都合が付いたら呼べ。 その間予備調査をしている。 大船に乗った気でいろ。 なにせ私は『天才』なのだからなッ!」


 そそくさと朋は執務室を出て行った。 高位貴族の御子息の礼典則から逸脱した動きに、彼の従者は深々と陳謝の礼を差し出して来る。 苦笑いと共に手を振り、 “ 気にすることは無い “ との意思表示。 それが、朋の在り方なのだ。 それを私は許容しているのだ。 こうやって、忌憚なく会話が出来ると云う奇跡に感謝すら覚えているのだからな。



 上級伯家の御二男と、騎士爵家の三男という立場を持ち出せば、会話など成立する筈も無いのだから。



 朋の従者たちも、私の敬意の在り方を好ましく思ってくれている。 自由奔放な主人に、首輪をつけ監視してくれていると、そう捉えているのかも知れない。 烏滸がましいにも程があるがな。 何処かに飛んでいきそうな『朋』を繋ぎとめる錨には成るかも知れん。 それを以って感謝してくれるのならば、吝かでは無い。 そう云った意味での『私の在り方』を、認めてくれていれば良いのだ。


 王国貴族社会の中では、最下層のさらに下。 民草と変わらぬ凡人に貴族籍を持つ者がそう認識してくれるだけでも『御の字』なのだ。 少しばかり王国の貴族社会に嫌悪感が浮かび上がる。


 封建的な社会制度の中では理解していないと『死ぬ』。 生命的にも社会的にも。 前世の記憶を持つ私には、絶対的身分制度の中に組み込まれ生きていく事に強いストレスを感じざるを得ない。 かつて、私をこの世界に送り込んだ『神』とやらの言葉通り、何もかも自分の『自由意志』で動く事は儘ならないのだ。


 その点に於いて、『神』とやらの『言葉』は正鵠を射ていたと理解した。 鬱積する身分制度の(しがらみ)が、目に見えぬ鎖となり身体に絡みつくのを感じた。 そんな(わだかま)りを感じる心を払拭する為には、どうすればよいか判っている。




 私も立ち上がり、行く先を監視塔の最上階と定める。

     『異世界の記憶を持つ者』である『私』にとっての息抜きの場所。



 様々な要因が、探索行の征く道が収斂を齎していると感じてしまった。 『勅命』が、エスタリアンの古老達の『意思』が、そして私自身の『興味』の先が…… あの『塔』の在る方向へ向くよう、誰かに依って強く強制(・・・・)されている様な気がしてならない。 呼ばれているのか?


 そんな妙な錯覚が、私を捕らえて離さない。 一度、自分を見詰める為にも……




 ――― 心が『監視塔』に上がる事を欲しているのだ ―――




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― 新着の感想 ―
防護服かなぁ?核汚染された土地に入るようなやつ。 それなら侯爵級や王族級の場所もいけるかも? ふと思ったけれど 内包魔力が高い血統というのは、魔力が高い人間同士が交配していった結果なんだろうけれど …
[感想]                            深層の森の遺跡には【王冠をかぶった女神の頭】とか、、、
服飾が要るなら防護服からか ガンダムのノーマルスーツより動き易くて 防御能力が高いのが理想かな?
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