常在戦場と見敵必殺は少女士官の合言葉
国際的防衛組織である人類防衛機構の幹部士官である特命遊撃士となるべく、私こと生駒英里奈は小6で養成コースに編入したのですが、そこでの個性豊かな方々との邂逅は生涯に渡る資産と相成りましたよ。
中でも軍人家系の三代目という来歴を誇る吹田千里准尉は、私の無二の親友であり武人としての模範でもあるのです。
この日も私は千里さんと連れ添い堺市立土居川小学校へ登校していたのですが、道中の話題は前日に支局で受講した座学の復習だったのです。
「常在戦場にして見敵必殺。教官殿も仰せだけど、市街戦の白兵要員でもある特命遊撃士はこれが合言葉なんだ。前身である大日本帝国陸軍女子特務戦隊から続くこの心構えがあってこそ、有事に即応し国民と国土を守れるんだよ。」
「守る為の有事への即応…然りですね、千里さん。」
伯爵家の長女である私にとって、民草を守るのは高貴な者として当然の務め。
そう理解しているつもりでした。
しかし、それはあくまで理論上の話。
千里さんはより深く内面化されていたのです。
「そうだよ、英里奈ちゃん。例えば、こんな風にね!」
そう笑いながら、千里さんが黒いツインテールを揺らした直後でした。
「えっ!?千里さん!」
サッとジャケットの内ポケットに手を入れた次の瞬間、空に銃口を向けた自動拳銃が乾いた銃声を轟かせたのです。
「なっ!これは?!」
重い墜落音がした方を向いた私は、思わず目を見開いてしまったのです。
血塗れになって苦悶する細長い身体は、害獣として駆除対象に指定されている人食いスカイフィッシュに他ならなかったのですから。
「しぶといな、コイツ。手を貸して、英里奈ちゃん。」
「承知しました、千里さん。皆さん、御下がり下さい!ここは我々が対処致します!」
とはいえ通勤通学途中の群衆には、私の避難誘導よりもその後に立て続けに鳴り響いた銃声の方が効果覿面だったようで御座います。
そうして軍用スマホで要請した処理班による害獣の亡骸の凍結処理と回収作業を見届けると、私共二人は学び舎への歩みを再開したのです。
「ほんの微かだけれど、スカイフィッシュ特有の飛行音が聞こえたからね。後は自然と身体が動いたんだ。」
「それが常在戦場と見敵必殺の合言葉なのですね、千里さん。私も必ずや、その合言葉を内面化出来るよう励む所存です。」
この頼もしい親友が安心して背中を預けられる優れた士官となりたい。
そう改めて誓った、初夏の早朝の一時で御座いました。





