第七話『決着』
『優勝はラッキーさんです。おめでとうございます! 』
一瞬の、完全な静寂。やがて、四人の絶叫が響いた。
「「……はああああぁぁぁーーーーッ?」」
彼らは完全に油断していた様子で、誰も彼もが目を白黒させている。僕だって気づかなければ、同じリアクションをしていたはずだ。
「いっ、いったいなにが起こってるんですか?」
「おい運営! 集計結果がバグってるぞ!」
慌てふためく彼らを満足そうに眺めつつ、ラッキーさんは余裕の表情で僕に語り掛けた。
「あはは! バグじゃないよ。シュウさんは気づいてくれたみたいだね」
「えぇ……的外れな突っ掛かり方をして、すみませんでした。ラッキーさんの考えが読めなくて」
「気にしないで! 仕方ないよ。それにあの時は勘付かれたかと思ってポーカーフェイスしただけで、全然怒ってないからさ」
彼女は白い八重歯を覗かせてカラッと笑った。思わず見惚れていると、タクマさんが僕の肩を掴んで大きく揺さぶる。
「どういうことだ! シュウ、教えてくれ!」
「タクマさん! 説明しますから、落ち着いて下さい!」
「む、すまん!」
彼の拘束から逃れ、ひと呼吸置いて説明を始める。
「……ラッキーさんは〝探偵〟の能力を二回目の行動パートで使ったんです。最初に使ったと言ったのはウソだったんですよ」
「なるほど、最初から全ての行動が布石だったというワケですか……」
ケイさんが頷く。
「点数がどう処理されるかは賭けだったけどね。ヒヤヒヤした〜」
胸を撫で下ろす彼女に、ケイさんは新たな疑問を投げ掛ける。
「ですが、もし最初に追放されたらどうするつもりだったんですか?」
「その時は本当にサドンデスになるだけだよ。どっちも賭けだったんだ」
ラッキーさんは当たり前、という風にさらりと言ってのけた。ライトさんが意地悪そうな顔で横槍を入れる。
「賭けなんて言ってるけどさ、両方とも確実にサドンデスには繋げられるわけでしょ? イチかバチかじゃなくて、安全保証付きの賭けだったわけだよね。ズルいなぁ」
「にゃはは……お見通しですか」
鋭い指摘を受け、彼女は照れ隠しで頭に拳をコツンと当てて、おどけて見せた。
「あっはは。冗談冗談! 凄かったよ。おめでとう」
ライトさんはしたり顔で笑うと、満足したように健闘を讃えた。
「っかぁ〜! 負けた負けた! 賞金は惜しいが、楽しかったぜ!」
「お、おめでとうございます。健闘に見合う勝利だと思います」
「最初から最後まで、貴女はわたしの計算外でした。機会があれば、またお手合わせ願いますよ」
みんなに続いて、僕も素直な賛辞を贈る。
「決勝戦に相応しい戦いだったと思います。本当に、おめでとうございます」
「ありがとう。アタシもとっても楽しかった! みんな、また遊ぼうね!」
――こうして、VR人狼ゲーム『ドミトリー館の殺人』の記念すべき第一回大会は幕を閉じた。ラッキーさんの鮮やかな優勝が話題を呼び、配信データは瞬く間に世界中を駆け巡る……その五年後に、僕たちがまさか本当に、再び合間見えることになるとは、このとき誰も予想していなかった。
2042年7月18日――その日、全人類のうちのたった六人に、あるメールが届いた。
“伝説の六人様
突然のご連絡失礼します。
株式会社ハンドアウト 代表取締役の森明源と申します。
この度、我が社は新時代を担う新たなゲーム体験として『もつれ館多重殺人事件』を企画・開発いたしました。
リアル脱出ゲームとマーダーミステリーの融合による体感型シナリオゲーム……つきましては是非、テストプレイにご招待したく連絡を差し上げた次第です。
五年前、『ドミトリー館』第一回大会における皆様の活躍は素晴らしいものでした。あの体験を超える挑戦を、共にしませんか? 無論、多額の報酬も用意しております。
ご興味がございましたら、返信をもって詳細をお送りさせていただきます。
それでは、良いお返事を心よりお待ちしております。”
宛名の〝伝説の六人〟とはケイ、Saya、シュウ、タクマ、ライト、ラッキーの六名。
五年のうちに、彼らはそれぞれの人生を歩んでいた――




