第四話『沈黙する犯人』
『ここまでの集計結果を発表します。
シュウ、2点。
ケイ、3点。
ライト、3点。
Saya、4点。
タクマ、4点。
ラッキー、4点。
……以上です。それでは休憩後、第五試合を開始します』
以降の試合でラッキーさんは立て続けに最初の犠牲者となった。1点でも獲られてしまえば彼女の優勝が決まるため、当然の展開と言えた。
第二試合、第三試合は被害者陣営が勝利。途中〝用心棒〟の大会ルールで追加得点したタクマさんがリーチ。第四試合でSayaさんが犯人役として勝利したことでリーチが三人並んだ状況。
迎えた第五試合。周りに一歩遅れている僕が優勝するには、犯人役での勝利、または【大会ルール】による加点が条件になる。割り当てられた職業は…… 〝用心棒〟よし。まだチャンスはある。
最初の議論では誰も職業を明かさず、行動パートでも犠牲者は出なかった。六人全員が揃う二回目の議論パート。ラッキーさんがとんでもない発言で口火を切った。
「アタシ〝探偵〟で能力使って不発だったから、追放してくれて大丈夫でーす」
指で毛先を弄りながら投げやりな様子の彼女に、ライトさんが慌てて注意する。
「ちょっと! 真面目にやりなよ……えっと、ボクは〝警察官〟で、ラッキーさんを診断した。本人の言う通り〝探偵〟だったよ。後出しになるけど一応ね」
「証明ありがとねー。みんな聞いたでしょ? これ以上殺されるのは嫌だから、追放を希望します」
最初の勢いは何処へやら……立て続けで初日に殺害され続け、萎えてしまったのだろうか?
「おし! じゃあ今回は、ラッキーちゃんに投票しよう」
心配する僕をよそに、タクマさんが相変わらずのテンションで反応した。投票ボタンを押そうとする彼をケイさんが制止する。
「早計ですよ。人数が減れば、単純に被害者側が不利だ」
「そうか? 容疑者が絞れていいじゃねぇか」
そう言って笑うタクマさんに、ライトさんが苦言を呈する。
「本気? ここで彼女を追放したあと、誰か殺されたら残り四人。次の議論で犯人を当てれなきゃ、勝負が決まっちゃうんだよ?」
「ライトさんの言う通りですよ。それに、まだふたりからも情報を聞けていません」
ケイさんがSayaさんと僕を見た。
「わ、私は部屋から出ませんでした。職業は伏せさせて下さい」
「僕は〝用心棒〟で、ラッキーさんの警護をしましたが、特に何も起きませんでした」
僕たちの発言を聞いて、タクマさんも投票を止めて応じた。
「オレも話しとくか。〝塗装屋〟でSayaちゃんの部屋にペンキを塗った。部屋から出ていないのは確かだ。つまりケイ、お前が〝医者〟で誰かの『蘇生』に成功してない限り、犯行は起きてないってことだ」
ケイさんは一瞬、躊躇ってから喋り始めた。
「わたしは……ええ。〝医者〟です。ワタシもラッキーさんの部屋に向かいましたが、何もありませんでした」
「ほらな! 分かりきってたことだ。この点数状況じゃ被害者陣営が勝利したときにほぼ優勝が決まる。きっと犯人は人数が減るまで犯行を起こさないつもりだろうよ。幸運ちゃんを追放して、やる気を起こさせてやろうぜ」
あと1点で優勝が決まるとあって、タクマさんは決着を急いでいるようだ。僕はどう立ち回るべきか考えた。優勝まで残り3点。『防衛』を二回やって生き残れば、僕も優勝に手が届く。失敗したときのリスクは大きいが、優勝争いに参加できないよりはマシに思えた。ここが正念場だと意を決して発言する。
「僕もタクマさんに賛成です。このままじゃ膠着状態だ。勝負を先延ばしにするのは不毛だと思います」
「よく言った! シュウ、お前は味方だと信じてたぜ」
タクマさんに見つめられ思わず背筋が伸びる。彼は一見笑顔だったが、目だけが虎のようにギラついていた。
相手の一挙手一投足を見逃すまいとするその目は、心の中まで覗こうとしているような……間違いない。彼はゲームな理論ではなく、直感で犯人を見つけようとしているのだ。
僕が内心ビビる間に、ケイさんとライトさんが口々に反対する。
「もし本気でそのつもりなら、わたしは貴方に投票しますよ。利敵行為が過ぎます」
「ボクもそうするよ。頼むからスキップしてよ」
ふたりをじっと観察し、タクマさんは牽制に屈したように大きくのけ反って投票ボタンから手を離した。
「……そうかい、分かったよ」
目まぐるしい攻防戦。この一連の大立ち回りで、タクマさんは何かしらの確信を得たらしい。僕には真似できない力技だ。
「ありがとうございます。では皆さん、投票スキップを……」
ケイさんが安心したように言った瞬間、唐突にSayaさんが投票ボタンを押した。
「け、ケイさんが犯人です。間違いありません」




