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その93.正義の違い

 振りかぶった右手は空を切る。

 会長が後ろに飛んだのだ。


「こ、こんにゃろ!」

 続けて前に出て拳を振るう。

 当たらない。

 ちょこまかと……!


「どうしたどうしたァ? 正義の鉄槌とか言ってる割には大した事無いなァ」


 ……! この!


 挑発だと解っていてもアタシの憤りは増す一方だ。

 立て続けに拳を繰り出す。

 ……当たらない。

 ちょこまか、と……!


 会長はあざ笑う。

 アタシは挑発を受けながらも前に出る。

 怒りに任せて動き回る。


「アタシは……! アンタの事が大嫌いだ!」


「奇遇だなァ? 私も嫌いだ」


 アタシは声を荒げる。

 コイツとまともに喋った事なんて無い。

 だけど入った時から近いものは感じた。 だけど決して一緒では無い

!!

 近いからこその犬猿の仲。

 近いからこそマトモに喋った事は無い。


 だからこそ初めてだ。

 コイツと喋るのは。

 一方的に、今まで溜めてたコイツに対する怒りを叫んでいるような感じだけど。


「アンタは! やり方が違うまでも、正義を目指していた! 胸糞悪いその行動も悪に対しての虚勢になっていた! 必要悪! アタシは全ての悪を否定する気は無い!!」


「ほぉ? 貴様は私の行動が一切嫌いだと思っていたが?」


「嫌いだ! アタシはきっともっと良いやり方はあると思ってる! だけどアンタのそれもまた一つの正義の形!」


「何だ貴様、唯の偽善者気取りの馬鹿な女では無かったか」

 余裕を見せながら攻撃を避けているこの男は何なんだ。

 なぜ笑っている。

 なぜ笑える!!

 認めているわけではない。

 だけど、少なくともやり方は違うけど……同じように正義を目指しているんだと思っていたのに!

 こんな奴と似ている部分はあると思っていたのが恥ずかしい!!!



「必要悪というのに、意味があったとしても」

 そこで言葉が詰まる。

 あのボロボロの姿を思い出して、泣きそうになってしまう。

 涙声でアタシは叫ぶ。

 そして、当たらない拳をがむしゃらに振るう。


「へーじのアレは『必要』では無い!!! あそこまでする『必要』なんて、思いつかない!!」


 下がってばかりの会長は壁に背中をぶつけた。

 もうこれ以上は下がれない。

 顔面に向けて右拳を振るう。

 ドガァ! という砕ける音はコイツの頭蓋骨を砕いた音では無かった。

 首をかしげる様にアタシの一撃をアッサリかわしやがった。

 壁のコンクリートが捲れた。


「……オイオイ学校の壁を壊さないでくれよ」


「じゃぁ避けるんじゃ無いわよ!」

 そう言いながら逆の左拳を作る。

 次は逃げられないわよ!


 振りかぶった拳は。


 アッサリと止められた。


「へ?」

 間抜けな声が出た。

 自分の拳を止められるとは思わなかったのだ。

 過去に止めたのは兄貴だけ。

 アタシの滅茶苦茶な力で普通なら掌が砕けるのだ。


 会長はニヤァ……と嫌な笑みを浮かべた。

 捕まえられた拳は強く強く握られる。

 無理矢理に指を広げてくる。


「恐ろしい力だな。こんな華奢な細い指のクセに……何処から出てくるんだ? そのバカげた力は」

 執拗に指を見る会長に寒気が走り、慌てて手を抜き取った。


 二歩三歩後ろに下がる。


「な、なんなのよ気持ち悪い!」


「いや? あまりにも綺麗な指だからついな?」

 今がどういう状況かわかってるの!?

 ふざけやがって!!

 無理矢理その手を抜き取った。

 

「まじめにやりなさいよ! コッチは殺す気で来てるのよ!?」


「そうだ、それで良い」

 会長の不気味な笑みがアタシを見据える。


「いつからお前の拳から殺意が消えた? 悪・即・斬 貴様はバカだがそこだけは素晴らしかった!

あの男が貴様の魅力を消し去ったのか? あんな男の言葉を信じ、この異常なまでの力を使わないとはバカげているとは思わないのか?」

 

「へーじを、悪く言うな!」

 怒りに任せた拳はやはり空を斬る。


「その貴様の大好きな男が何故あんな風になったと思っている?」


「アンタが! やったんだろうが!!」

 空を切る。


「そう、私がやった。だが、何故そんな事をしたと思っている?」


「そんなの! 知るわけ無いじゃない!」

 当たらない……! 何故!? こんなにも、怒りに震えているのに!


「貴様のせいだよ」


 その言葉に、私はとまった。

 いや、固まった。

 何を言ってるのよコイツは……私のせいなわけないじゃない。

 そうよ。

 コイツがやったからじゃない。

 あたしが関係あるわけないじゃない!!


「正直風紀委員なんぞ貴様さえ居なければ私にとってはゴミ同然だ。だから貴様の大事な弱点に制裁を下した、貴様が抵抗するまで私はまたあの男に手を上げる何度でもだ、あの男が帰ってくる度に病院に送り返してやる」


 ゾッとする言葉の意味。

 まるでアタシのせいだって……言ってるみたい。

 アタシは絶対に悪くないのに。

 きっと……。



「そ! そんなの! アタシがやらせない!!」

 あわてて自らを奮い立たせる。

 コレがアイツの手段じゃない!! 

 この男に合わせちゃダメだ!!


「やらせない? 不可能だ。 貴様がどれだけ頑張ろうと隙は必ず出来る。それともあの男に付きっ切りでいるのか? 他の悪を全て見逃して?」

 その言葉は。

 アタシの根本を揺るがせる。

 そして……へーじがアタシに言ってくれた言葉を思い出した。

 全てを守るアタシを。

 アタシ自身を守らない代わりに。

 代わりにへーじが守ってくれるって、アタシが背ける闇の部分から守ってくれるって……

 それが死ぬほど辛い事なんだって知っていながら。



「ち、違……」

 グルグルと頭の中が回転する中。

 会長は更に追い打ちをかける。



「そこらじゅうを正義の為に走り回る貴様に出来るか? 無論私を殺せばソレは無くなるだろう、だがソレが出来るか? 幾ら強くても一般の女子高生が警察に勝てるか? そこまでしてあの男を守るか? 貴様が捕まればあの男を守る事も出来ず、私亡き他の物が全力であの男の人生をズタズタにする」


 現実論。


 空虚なまでの現実論。


 幻想を追い求める正義に対してこの男のソレは現実的な正義論。


 似て非なるアタシと会長の関係。


 もっとも違う大きな部分は。


 へーじが居て……アタシの幻想は意味を成す。


 だからこそ...。


穴見縁あなみゆかり お前は以前の件で強くなってなどいない。寧ろ弱くなった。分り易い弱点までそこにあり、漫画のように狙われないとでも思ったか? お前のその考えに虫唾が走る」


 体がビクッと揺れる。

 心は更に揺れ動く。


 

「フン、もっと分り易く言ってやる、漫画みたいに最高に悪役でなァ?」

 どこまでもぶれない。

 認めたくはないけど、この男の強さ。


「あの男を守りたいならば、そのロザリオを自らの手で私に渡せ」

 その意味を成す事は分っている。

 へーじ以外の誰にも触らせたことがないロザリオを渡す意味。

 一番の敵に渡す意味。

 アタシの心を完全に折るための行い。


「忘れるな 貴様のせいであの男がああなった事を」

 ギュッとロザリオを強く握る。

 そんな筈が無いのは解っている。

 そんなの只の屁理屈だ。

 だけど。

 へーじを守るためだけに全ての正義を投げ出す?

 へーじと決めたアタシの決意はどうなる?


 欲張っていると言われても一つを選べないのがアタシだ。

 この男とは違うから。


 両方守るために……今すべき事。


 …………。 

  

 震える手で差し出された手の上にアタシとへーじの絆を置く、 



「……あの男と言い、貴様と言い……こんな石如きで良くも必死になれるなァ?」

 嫌な笑みだ。


「た、ただの石じゃない!」

 負け惜しみなのは解っているけど、言い返したかった……。

 大切な物を石呼ばわりされた怒りが。

 そんな奴に渡してしまった悔しさが。

 どこまでもアタシの心に押し寄せる。

 コレが敗北……。

 負けた者の言葉なぞ何の意味も持たなくて。

 只絶望だけが、ひたすらに……。



 へーじのためだって解ってても悔しくて……へーじとアタシが一緒にいたからへーじはあんな目に。


 あた、しが……我慢すれば……。


 へーじを……傷つけさせない……。


就活忙しっ!Σ(・□・;)

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