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その86.唯一の絆で

 結局更衣室で見つかる事は無かった。

 ロッカーを全て壊そうとしてまで探そうとする縁を必死で止めてクラスに連れ帰ってきた。

 明らかに凹んでいる縁は魂が抜けたように机に突っ伏していた。

 私を含めクラスの子達が心配そうに見つめる。


「どうしよう……どうしよう……へーじに嫌われちゃう……怒られちゃう……ずっと大事にしてたのに……」


 こんな時に言うのもアレだけど、落ち込んでる時のノリはまるっきりお兄さんと一緒だね……。


「ゆ、縁! 取り合えず今日の行動した場所当ってみようよ! もしかしたらどっかの落としてるかも知れないよ?」

 頑張って元気付けようとしてみるも様子が変わる様子は無し。


「志保ォ……うぇぇ…」


 ……上げた顔が涙と鼻水でボロボロだよ縁。


「と、取り合えず顔拭いておいで? その後一緒に探そ?」

 大好きなへーじさんに、こんな姿を見られたらそれこそ縁が色んな意味で発狂しちゃう。


「んんっ……」

 って、コラコラ服の裾で拭いたら汚いでしょ……。

 ハンカチを出して縁に手渡すと小さな声でお礼を言って顔を一生懸命拭いている。

 何か幼児化してる。


「っで、他に見に覚えは無いの?」

 そう言うと縁は一人うんうん、と考え出す。

 

 すると、思い出したかのように立ち上がった。

「そ、そうだ! もしかしたら生徒会室かも! ロッカーに行く前に行ったんだ!! もしかしたらそこかもしれない!!」

 縁はそう言うと、もの凄い勢いで教室を出て行った。


 本当に必死なんだ。それ程に、あのロザリオは縁にとって大切な物らしい。

 あの冬の日や、へーじさんとの出会い、あの時の思い出を形にしたような物なんだと思う。

 今でも縁は偶にロザリオを眺めてニヤニヤとしていたのを私は実は知っている。

 言っても凄い否定してたけど……。


 取り合えず今は縁を追いかけよう! あの子の大切な思い出を一緒に探さなきゃ!


 追いかけようとした時、後ろから嘲笑うような笑い声が聞こえた。

 小さな声だったけど、それはハッキリと聞こえた。

 その声に私は振り返る。

 そこに長い髪を弄りながらコチラに笑みを向けている茜が居た。


「無理だと思うけどナー?」

 そう言って茜はクスクス笑う。


「何で」

 私は無意識に茜を睨んでしまう。

 何故ならこの子が過去に縁にした事を私は知っているから。

 この子が、縁の味方をするわけが無いのだ。

 縁が昔、クラスで馴染めなかったのは茜のせいだと言うのを知っている。

 縁には言えないけど。

 私は人に対してあまり負の感情を感じる事は無い。

 だけど。

 大好きな親友を汚されると合っては別。


 私のお姉ちゃんが一度お灸を据えてから大人しくなっていたのだけれど……。


 茜は私にゆっくりと近づくと小声で私に話しかけてくる。


「今ね? 生徒会の役員で生徒会室に続く全廊下を封鎖してるの。 生徒会室の辺りの廊下が古くなってて人を近づかせない為にね? 態々人を置いてまで他の生徒達の安全を守ってるから生徒会室には行けないよ?」


 嬉しそうにそう語る茜の姿を見て、疑っていた気持ちは核心に変わった。

 この子が、縁のロザリオに手を出したんだ! ロザリオは今生徒会室にあるって事!?

「貴方は少し前に縁と生徒会室に行ったって言ってたよね……そらなのに今更封鎖!? ちょっとわざとらしすぎるよ……!」

 冷静に、それでも怒りを込めて。

 そんな私の姿を見ても茜は嬉しそうに笑う。


「アッハハ! だっよねー? だって本当はあの三年の、へーじ先輩だっけ? を沈める為だし?」


「っな……!?」

 茜の言葉に体が固まる。


 へーじさんを!?


「会長が言うにはァ、あの先輩が危ないのは、影響力。 あの人の周りが異常なまでにあの人を好いている事なんだって?」

 確かにへーじさんは妙な人間に好かれ易い。

 だからこそあの人に喧嘩を売る人は早々いない。

 

「元バトルジャンキー(喧嘩依存症)って言われてる大男でしょ? この学校一の情報屋のアンタの姉に変な変態共や一年の魔女って言われてる女と刀持ってる一年生も気にしてるようだし? 果てにはあの風紀委員の縁ちゃんまでご執心なワ・ケ♪ あの人自体はタダの一般人なのよ?」

 嬉しそうにペラペラと口を開く茜が言いたい事が解った。

 解ったと同時に、表情が強張る。


「も、もしかして、その為の封鎖!?」

 私の言葉に茜がニヤッと嫌な笑みを浮かべる。


「そう言う事♪ 完全に彼と周りを遮断した形を作るの! そうすれば後は会長が好きに煮るなり焼くなり出来るってわけ! キャハハ! アタシをぶとうとしたあの男は今頃会長にボロボロにされてるんでしょうねェ!?」


 ……! 行かなきゃ!! 取り合えず縁を追おう!


 慌てて走り出そうとした私の手を突然握られた。


「だからー? 遮断してるんだってばー 行かせるわけないジャン?」

 茜が強く手を握る。


「は、離して!」


「キャハハ♪ あの女がサッサとどっかに行くの待ってたのー! アンタだけだったら私一人でも止められるしね? 変な動きしないでよォ? もうすぐ授業も始まるし、それにこの教室じゃ私の味方は幾らでも居るのよ?」


 私は茜を睨み付ける。

 何故ペラペラと私にそんな情報を流すんだろうと思ってたけど。

 最初から私に行動させないつもりだったんだ!


 ……お姉ちゃん。

 今貴方の最愛の人がピンチです。

 何処にいるの? 朝は先に学校に行っちゃうし、昨日から様子がおかしかった。

 お姉ちゃん……。

 何かが壊れる気がするよ、貴方の大事な月と太陽が……。

 ……あの二人を助けて。

 お姉ちゃん……!



 そうこうしているうちにチャイムは鳴り、先生が部屋に入ってくる。

 それに合わせて茜は私から手を離す。

 意味深な笑みを私に向けて席に戻った。

 抜け出そうとすれば邪魔する気だろう……。


 私も席に戻ると茜の見えない位置にケータイを取り出す。


 取り合えずお姉ちゃんと……あの人に連絡しよう。


 あの二人のどちらかに、頼むしかない! 

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