その77.三つの電話
学校に鳴り響く三つの電話。
へーじの運命を決める3つの電話。
掛けているのは一人。
受けているのは3人のへーじの敵。
誰か解らない親玉と、誰か解らない3人の部下に立ち向かわなければならない。
へーじはまだ何も知らない。
敵が誰なのかも、存在しているということさえも知らない。
へーじさんが私の視線から見えなくなった。
ゆっくりと手を下ろすと、思わず私は言葉が零れる。
「へーじさん……ごめんなさい」
最初は面白い人だな、ぐらいだったのに。
知り合っていくうちにどんどん好きになっていった。
これがへーじさんマジックって奴?
……だからこそ。
ゴメンナサイ。
私のケータイが鳴った。
表情を曇らせながらケータイを取り出すと耳に付けた。
「もしもし……」
電話の相手は解ってる。
そして、ミホさんよりも嫌いな人間だという事も。
……私はラスボスを知っている。
だって、協力してるんだもん。
ゴメンね、へーじさん。
水歩さんにも言ったけど、私は敵なんだ。
今この学校に、私を含めて三人に電話が行っている筈だ。
水歩さんに言えなかった信実。
三竦み?
……違うよ。
2対1だよ。
と言っても狙いは縁さんじゃ無い。
狙われているのはへーじさん、貴方です。
黒い意思が貴方を狙っています。
速く気づかないと死んじゃいますよ? へーじさん……。
私は敵なんです……だから何も言えない。
今も電話で指示を仰ぐ。
もっと速く。
……貴方に会いたかった。
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目を覚ました。
生徒会のソファーで寝ていたから体が重い。
……そういえばあいつらはどうなっただろうか。
私の下の生徒会で私でも思うようなクズをあてがった。
様子を見に行ってみるか。
ドアを開けると、生徒会の役員がズタボロになっていた。
その様子を見ても私は酷く冷静でいた。
すぐにこの状況を推測する。
この男をここまで追い込むことが出来るのは……まァ予想は付くが。
全く野蛮な連中だ。
「おい、起きろ」
気絶している男の顔を蹴り上げると、小さな呻き声を発した。
それで目を覚ましたのだと確認する。
「誰にやられた」
私の言葉に男は震えながらも何とか言葉を発する。
「あ、あの兄妹だ……」
予想通りだな。
つまり、あの女は手を出したんだな?
それだけ解れば十分だ。
無意識に笑みが零れてしまう。
その時、突然ポケットに入れていたケータイが鳴り出した。
学校にいる時に唯一電話を掛けてくるのはあの人意外いない。
私の表情は輝き、慌てて携帯を耳に当てた。
「は、はい!」
久々に声を聞いた。
この声を聞く為に携帯を持っていると言っても過言ではない。
気持ちが上がっている私だったが、電話の内容を聞くうちにみるみる顔がこわばる。
「え、え!?『あの男の言う通り企画を手伝え!?』そ、そんな……い、いえ、はい……はい、全力であの男のサポートをします……はい」
要件を言い終わるとすぐに電話は切れた。
……楽しい雑談をする暇も無く。
あの人はスグにあの男ばかり立てる。
へーじ……。
私とあの男と何が違うと言うんだ。
何故あの人はあそこまであの男に固執する……憎い。
純粋にあの男が憎い。
……あの男だけは私がこの手で殺す。
あの人の言う言葉は絶対だ。
あの男の手伝いをするのは仕方が無い……だが、それだけで終わると思うなよ。
その前にお前の大事な番犬との絆を断ち切ってやる。
企画のサポートはそれからだ。
へーじを殺す為には手順が必要だ。
風紀委員、縁。
あの女をまずは沈めないとな。
私の考える作戦は完璧だ。
あの男に関わる全ての人間を地獄に落としてやる!!!
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通路を歩いていると携帯が鳴った。
着信の相手を見てから、俺の表情は曇る。
「もしもし……」
携帯の先からは聞きなれた声が聞こえる。
「ああ、解ってる、企画のサポートはする、朝倉先輩を優位に動かすつもりだ……順調だよ」
俺を賛否する声が携帯から聞こえる。
その言葉が偽りであるのが解っていても俺は曖昧な返事を返す。
「……先輩はこの手で絶対に殺す、だから、他の人には手を出さないでくれよ、約束だったよな」
今度は苛立ちの声。
この人は上手くいかなければスグにこれだ。
いや。
もう、ずっと昔から解ってることじゃないか……。
この人の心は、小さな子供の頃に止まったまま。
子供の我侭が、大人になり残酷な我侭に変わっているだけ。
全ては、朝倉先輩のせいで。
……いや。
どんなにドス黒い事でも、こうやって感情を出して喋ってくれてるんだ、昔と違って。
俺は……喜ば、なきゃ……。
「ああ、首を持って帰って来てやる……だから……だからこれ以上壊れないでくれ、『姉さん』」
そう言った瞬間。電話は切れた。
もう聞こえない筈のッツーッツーという音が俺の心を動かす。
聞こえないのは解ってる。
だけど、小さく、小さく溢す。
「朝倉先輩さえ殺せば……元の優しい姉さんに戻って、くれるよな……」
俺の姉。
アンタは人殺しだ朝倉先輩。
殺したのは俺の姉。
俺は只の敵討ち。
返せ、返せよ。
姉さんの……心を、返せよ……。




