その74.悪役っぽい奴の末路は大概悲惨
くっそー!
ホントどこにでもいそうな見事な悪役だなこの浅井とか言う男は!
会長にタメ口だったし僕とも同い年だろうか。
こんな悪役面見たら一発で覚えると思うんだけど。
「ヘヘ、どっちと遊ぼうかな~」
何て僕の中の悪役扱いなんて亜里沙以外に聞こえている筈も無く、悪役っぽい奴は解り易いように下舐め釣りをしている。
「そ、それ以上来たら大声上げますよ!」
牽制する僕の言葉に浅井はまたまた解り易いくらいにニヤ~っと嫌な笑みを浮かべる。
「不良どもの悲鳴が五月蝿いって一度苦情があってなァ? 今じゃココは防音設備付きだ! 泣こうが喚こうが助けなんてこねーぜェ!? ちなみに暖房・冷房完備だ!!」
ど、どんだけ改造してんだよ! 生徒指導とかもうそういう問題でも無いでしょ!!
僕等のクラスエアコンとかありませんが! 何で普通のクラスより機能高いんだよ!! 腹立つなチキショウ!
「へ、へーじさん……」
亜里沙の声が震えている。
アホな突っ込みしてる暇は無いんだった。
速く今の状況を何とかしないと……!
「……元々部外者で罰を受けるのは私です、亜里沙は関係ありません!」
僕は男だから良いが(いや良いわけじゃないけど)亜里沙は女の子だ。
こんな汚いクソ野郎に触れさせるなんて事はしたくない。
「アァ? しらねーよ、俺は好きにして良いって言われてんだよ。関係ネーかどうか何て知るかよ」
……チィ。野蛮なサルめ。言葉が理解出来ないタイプのバカか!? コイツは只のケダモノか!?
「へーじさん、スイマセン……私が変な提案なんてしたから」
涙声で亜里沙が後ろから小さな声を溢す。
この子が謝ることじゃない。
結局は勝手にキレた僕が悪いわけだし……。
「だ、大丈夫。君は僕が守るから安心しててよ」
後ろの亜里沙を諭す様に小声で言うも声が震えてしまう。
僕だって怖い事には変わりない。
僕の心も聞こえる亜里沙には僕が恐怖している事も、強がっているのも筒抜けだろう。
それでも、意地を張って強気な言葉を出すのは格好つけたいだけだろうか?
浅井は僕達の様子をニヤニヤとしながら見ている。
「だったらテメーから遊んでやるよ女ァ」
早足で僕に近づくと屈強な腕が僕の腕を取った。
「百合果さん!!」
僕の偽名を呼びながら亜里沙が悲鳴のような声を挙げる。
「や、止めなさ……!」
強気な言葉を掛けるも力で無理矢理引っ張られてしまう。
同じ男なのにこの力の差は一体……こういう時だけバカサクが羨ましいよ。
両腕を取られ壁に押し付けられた。
目の前にいる浅井は嫌らしい笑みを溢すとバカにしたように舌を出す。
「さー、何して遊ぶヨ?」
「止めてください!」
浅井で見えないが後ろで亜里沙の叫ぶ声が聞こえる。
僕を助けようとしてくれているのだけは解る。
「ウルセェ! テメェも後で遊んでやるから大人しくしてろ!!」
浅井は首だけ後ろに向けると苛立った声を向けた。
亜里沙に向けて言ったのか。
浅井は片方の僕の手を外すと、外した手を後ろに振ろうとする素振りを見せる。
コイツ……! 女の子に手ェ挙げる気かよ!
僕の反応は早かった。
浅井が振ろうとした手を、外された手で慌てて捕まえる。
「ァ?」
疑問符を溢す浅井が振り返ろうとする小さな間で、僕は自由な足の右膝を思いっきり上げた。
寸分の差しか無い程近くにいる浅井の足は丁度僕の膝を跨いでいる。
カッキーン←比喩表現
「お……おうっふぅ……」
苦しそうな声を挙げて浅井はその場に崩れる。
「女舐めてんじゃ無いわよ!!」
そんな浅井を見下しながら僕は思いっきり吐き捨てた。
ん? 何か間違ってるような。
「ゆ、百合果さん、本当素敵な女性になられましたね……」
そ、そうだよ!
同類なのに僕は男の一番可哀想な部分をををを。
「て、ってめェクソ女ァ!」
お怒りはごもっとも、僕だってブチ切れるわい。
胸倉を捕まれて思いっきり壁にぶつけられる。
「ぐ……」
やはり流石デカイ体をしているだけはある。
力は中々に強い。
なんて感想を述べてる場合じゃない。
胸倉を掴まれてるわけで、みるみる首が絞まっていく。
「百合果さん!!」
必死で僕を助けようとしてくれている亜里沙の声が聞こえる。
それに動じずに怒りを込めた表情の浅井。
これは……思いのほかに……マ、マズイ……かも。
意識が遠のく。
霞が掛かる頭の中で、ハッキリと僕を呼ぶ声だけが聞こえる。
百合果さん、百合果さん、と泣きそうな悲鳴の声。
亜里沙に心配をかけてしまっている事に動かない頭ながらも罪悪感を感じてしまう。
僕の名前を呼ぶ声。
「百合果さん!! 離して!! 百合果さァん!!」
あれ? 亜里沙以外に僕を呼ぶ声が聞こえた気がする。
-……百合……さ……私……行かせ……
-……果タン……俺……嫁……退け……
あれ? 嘘。 似たような感じの言い合い? のような声。
「退けェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!」
「行かせるかァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
叫び声が呼応。
同時に丈夫である筈のドアが吹っ飛んだ。
転がりこむ二つの何かが見えたのだが、何が入って来たのかはボーッとする頭では解らない。
浅井が呆気に取られながら僕から手を離す。
「ゲホ! ゲッホ!」
崩れるように座り込む僕は慌てて息を取り戻した。
「百合果さん!! 大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄ってくる亜里沙が心配そうに僕を覗き込んでくる。
何が起こったのかと僕は顔を挙げた。
目の前で、二人の人間が対峙していた。
片方は大男。
制服が斬れていたりと、斬り傷が目立つ。
血走った瞳でもう一人を睨んでいる。
片方は少女。
サイドテールが揺れる綺麗な少女。
大男程では無いが彼女も制服がボロボロだ。
握られた日本刀を構え、大男と同じ様に鋭い瞳を向けている。
多分大男の斬り傷は彼女によるものだ。
サクに、縁だ。
睨みあう二つの視線は、ふと気づいたように僕の方を向いた。
涙目で首を押えている僕を見た後、次の視点が二人同時に変わる。
心配そうに僕の隣に座り込んでいる亜里沙に向く。
そして次の視点は座り込んでいる僕の目の前に立っている浅井に。
またまた視点は僕に行き、今度は亜里沙を無視して浅井に。
僕、浅井、僕、浅井。
何度も視点切り替えを同時に繰り返していたバカ二人は何かの合点が行ったのか間抜け面で「おぉ」とか溢している。
そして沸点が低いバカ二人は一気に爆発した。
二人共、バカ面から一気に目の色が変わる。
「アタシの!」
「俺の!」
対峙していた二人は浅井の方を向く。
「百合果さんに!!」
「百合果タンに!!」
先程までお互いが向けていた鋭い視線も浅井に。
「「何しやがったテメェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!」」
面白いブチ切れ方をしたオスメス最強組……基、最強バカ兄弟。
矛先が完全に、焦っている浅井に向かった。
……ご愁傷様かもしれない。




