その73.やっばいよ、女装してから悪い事しか起こってないよ! 僕男なんですけど! 男なんですけどォォォォォ!!
生徒会室には始めて入ったと思う。
奥にもう一つ部屋があるのか、隅ににドアがある。
それ以外は長い机の周りを幾つかの椅子が綺麗に並んでいるだけ。
汚れ一つ無いってのも逆に気味が悪い物だな……。
いや、寧ろ殺風景過ぎるイメージの方が強いか?
あの潔癖症の部屋だといってしまえば気味悪さも増大だ。
「……今日は客人が多い」
長椅子の一番奥から声が飛んできた。
そこに居たのは『あの男』
会長……。
「メンドクサイ男が来てイライラしていた所だったがー……こんな綺麗な女性が二人も来てくれるなら今日は良い日だ!! ようこそ! お二人さん!」
表面全快のクソ野郎。
分厚い銀縁メガネ越しの瞳が笑って居ない事はお見通しだ。
……ここが正念場だ。
「始めまして会長さん、貴方に頼みがあってきました」
暗がりの中、会長はニコッと微笑んでくる。
「ええ、何でしょうか正体不明のお嬢さん? 名前は百合果さん……でしたか?」
げ。正体不明とか、バレてるし。
スグ横にいる亜里沙ちゃんが小さな声で話しかけてくる。
「ヤバイですよ……会長さんにモロバレです。女装がバレてないのが救いですね」
心を読むこの子がそう言うのだからそうなのだろう。
女装がバレたら今の状況だけでなく僕の人生も終わる(泣)
「……だ、大丈夫です可愛いですよ!」
だから勝手に心読むなって!
後フォローになってないよ……。
「ふむ、校内が現在騒がしいのは貴方がたのせいだと聞いている。本来なら早々に立ち去って頂くつもりだがー……私にようなのでしたら話だけでも聞きましょう」
固まっている僕達に会長は優しく話しかける。
あれま。コイツ以外にフェミニストか? コイツは女でも容赦無いイメージあったんだけど。
「話聞いたら連行するのでそのつもりで」
うわ容赦無かった。
イメージ通りだよ、とんだ鬼畜眼鏡だよ。
「……考え通りでしたね」
一々心に返答するの勘弁して。
「後、鬼畜眼鏡ってもう古いんじゃ」
止めて! 心の中の恥かしい台詞に突っ込むのは止めて! 顔真っ赤で泣きそうになる!
本当厄介だなその力!!!
「所でそこでずっとボソボソと独り言を溢している一年生女子、君は何かようか?」
「え!? わわわわ私ですかァ!?」
ほれ見ろ見つかった。
俗に言う授業中に私語した的な感じ。
本来ならほっとくのだが、この子がいないと会長から優勢権を取れる気がしないからな。
会長は、一番読めない人間だ。
今この子がここから消えるのは勘弁願いたい。
「この子も私と同じ内容です。結論的に言えば私達二人のお願いだと思って下さい」
「え、えーっと! あの、そ、そうです、そう!」
適当に合わせるにしても合わせ過ぎじゃないかな亜里沙……。
「……ま、いいでしょう。で、話とは?」
妙に素直だな……?
「単刀直入に言いますと、へーじという少年の支援です へーじはご存知だと思っています」
「……ほう?」
会長が肩眉を上げて見せる。
それとは別に亜里沙は驚いたように僕を見ていた。
まさかここまでハッキリと言うとは思っていなかったのだろう。
だがこの男は回りくどい言い方をしても無駄だ。
心が読めるなら僕の考えも亜里沙に伝わる筈だ。
亜里沙には上手くやってもらわないと……!
亜里沙は小さく頷いてみせる。
厄介だけど味方になれば頼もしい力だな。
「あの男の回し者か……フン、それを聞いて私が支援してくれると思っているのですか?」
へーじで来ても聞く耳持たないだろうから態々恥かしい格好したんだよ……クソ会長め。
「ええ、確かに私は部外者で、あの子に頼まれて、貴方に相談しに来ました。ですがこの意見がこの一年生女子の者でしたらどうでしょう?」
そこで亜里沙に目配せを送る。
同時に会長の視線が亜里沙に向く。
僕の脳裏を読んでくれる亜里沙は瞬時に対応してくれたらしく、ゆっくりと口を開いた。
「はい、これは一生徒である私の意見でもあります。生徒会長として生徒の意見は尊重し出来るだけ叶えるのが勤めではありませんか?」
上手く返してくれた。
生徒会長としての肩書きを盾にすれば、取り合えず生徒の意見を受理しなくてはいけないだろう。
やるかやらないかは別として、だ。
「確かに意見を尊重するのは私の仕事だな……ふぅむ」
考える素振りで何も言わない会長に、僕は亜里沙の後に続ける。
「へーじ一人で何らかの行事を作り出すのは正直不可能でしょう。ですが生徒会長なら話は別です。行事の内容などはこちらに任せて頂き、その後ろ盾になって欲しいんです」
「敵対する相手の手伝いなんてオカシイのは解ります、ですが考えてみてください、会長さんも正々堂々と戦って周りに見せ付ける事には賛成していると聞いてます。 それに個人的な意見としてですが三竦みの戦争はサッサと終わらせて一般的な学校に戻して欲しいです。 会長さんも現在の三角関係の戦争状態は大変苦労していると聞きました」
亜里沙も付け足すように続けてくれる。
会長の心に何かを見たのかもしれない。
「別に私たった一人の意見でもありません。争いに巻き込まれる一般生徒を代表して言っているんです、その証拠は会長さん自身が先程知ったはずです!」
……? その亜里沙の最後の言葉は初耳だ。
この男が巻き添えを食うたかが一般生徒を気に掛けているとは思えない。
僕は心が読めるわけじゃない。
ココは亜里沙に任せるか。
「……何処で知ったかは知らないが、確かに悠馬一年生から十数人ばかしの署名を先程渡された。これだけの人数がそういった支援を望むなら私も動かなければ行けないだろう」
何だって? あの悠馬が態々? これは……幾らなんでも都合が良すぎないか!?
亜里沙がここに入る前に言っていたのはコレだったのか。
っつーか結局言うなら教えてくれても良かったのに。
どこの天邪鬼だよ。
「だとしたらやってくれるんですね!?」
不振に思う僕など知らずに百合果は顔を輝かせる。
しかし会長の表情は否定させるような嫌らしい笑顔を浮かべる。
「いいやァ? それは私の思い一つだ。結局何も出来なかったあの男の尻拭いなんてゴメンだ。そもそも私はあの男の敵で、あの不良の親玉の敵だ、何故あいつ等に加担する? 馬鹿馬鹿しいと思わないか?」
「そ、それは」
言葉を濁す百合果を会長は嬉しそうに見ている。
相変わらず性格が悪い野郎だ。
ッ……流石に上手くいかないか。
男の言ってることはごもっとも。
悠馬の都合の良すぎる準備があってもこのザマだ。
「で、でも会長としての仕事としてなら仕方が無いのでは……」
諦めずに百合果が食いつく、だが言葉に力は無い。
自分でも厳しい状況であるのは解っているようだ。
しかし嫌だろうが僕達が来た理由は成功させなければならない。
会長の言葉に間違いは無いが百合果の言葉にも間違いは無いんだ。
わがままで生徒会長の仕事が通るはずが無い。
嫌でも仕事はして貰う!
「生徒会長として、その意見は不振なものとして見せて貰った」
僕が何か言う前に会長が口を開いた。
「え?」
百合果が小さく声を溢す。
そんな理解が出来て居ない百合果とは別に僕は心の中で舌打ちする。
先手を打たれた。
つくづくムカツク男だ……!
「……生徒会長として全ての意見を聞き入れれるわけが無い、悪質な意見だってあるだろうし……会長の自己判断でその意見を悪質かどうか判断し受け入れるか決められるってところですか」
僕の言葉に会長はニヤッと笑う。
「そ、そんなのあるんですか?」
亜里沙の表情は固まっていた。
そんな方法で返されるのは予想外だった様子だ。
実際僕もソレは予想していなかった。
心が読める亜里沙がこの会長に対して対応できていないのは、多分この男が考える事をせず瞬時に言葉を返しているからだ。
対応力の速さはやはりクソ野郎でも頭の良さが伺える。
会長が僕達に向けて勝ち誇ったような笑みを向けてくる。
「まァそんな所だ。オツムの悪い一年と君は違うようだ」
喋り方が突然攻撃的になった。
ドS会長はもう我慢出来ないらしい。
クソ変態め。
「ッ……」
会長の言葉にアリサの表情が強張る。
僕の服の裾をキュッと掴んでくる。
確かこの子は、嫌でも人の悪意が頭に流れ込んで来るんだよな。
まずこの男と対峙している時点でどれだけ酷いことを頭に叩き込まれているんだろう。
……怖いだろうに。
そんな子の心を殴りつけて。
言葉でまで殴りつけてんじゃネーよ。
そう考えると、僕の中のイライラが一気に跳ね上がった。
「……そうかしら 貴方の頭に比べれば亜里沙の方が100倍マシよ?」
僕がそう言った瞬間、会長から笑みが消えた。
「ゆ、百合果さん?」
亜里沙が僕の方を不思議そうに見つめる。
「……君は賢いイメージだったんだが?」
会長の瞳がギラつく。
へーじであった僕に良く向けていた目だ。
だがそんなものには屈しない。
毎度の事ながら僕はキレやすい若者なわけだ。
「賢いわよ? 人を見抜けないクソッタレな貴方より1000倍くらいね」
「……女だったら手を出さないと思ったか? そういえば私の嫌いな男と似た目をしているな貴様」
会長が椅子から立ち上がる。
う、ちょっと怖い。
だけど、それでも僕は意地っ張りで皮肉屋で天邪鬼で。
恐怖よりもソレが優先される頑固ものだから。
「天下の会長様が女の子にちょっと言われただけでキレるなんて、貴方みたいのが生徒会長? 全く世も末ね」
僕の言葉に会長の眼鏡越の瞳がみるみる鋭くなって行く。
「……交渉決裂だな、私に対してそこまでの口を吐いて意見が通ると思うなよ」
「ちょ、ちょっと百合果さん!? 私達が来た意味が無くなりますよ!」
慌てる百合果の言葉は聞こえていたがここまで来たらもう遅い。
「良いのよ、こんな奴の力を借りようなんて思ったのが端から間違いだったのよ帰りましょう」
来た意味は無くなってしまったが、もう色々と遅い。
亜里沙には申し訳ないが、僕自身もこの男が虫唾が走るほど嫌いであり、いい加減我慢の限界だった。
今はこの男の顔を見ているのも嫌だ。
踵を返しドアの取っ手に手を掛けた。
ガチャ。
「……?」
開かない。
開くことを否定する金属音がするだけ。
ここから入ってきたのに何で?
「クク、私に対してそこまでの暴言を吐いたクセに簡単に逃げれると思うなよ」
振り返った先に会長が気味の悪い薄ら笑いを浮かべている。
手にはなにやら小さな箱のようなものを持っていた。
「生徒指導を兼ねているココは指導中に不良が逃げ出すことがあってねェ? 態々遠隔操作が出来る鍵を作って頂いたんだよ、凄いでしょう?」
「……ッハ、性格の悪い貴方が好きそうな装置ね」
口ではそう言いながらも状況が不味いことは理解する。
っつーか本当にスゲーや。
「ゆ、百合果さん……マズイです」
不安な声を溢す亜里沙は僕にぴったりとくっついてくる。
不断なら喜んでもおかしくないけど、そんな状況では無いらしい。
亜里沙の口から嫌な言葉を聞く。
「さっきまで気づかなかったのに……奥の部屋にもう一人います」
エ!? マジデ!?
亜里沙が僕にそう溢すと同時に、奥のドアが開いた。
ドアから出てきたのは180程の大き目の男。
「っアー……ヤベェまた授業さぼっちまった」
先程まで寝ていたのか男は眠たそうに目蓋を擦る。
「また生徒会室を昼寝に使っていたな浅井」
会長が呆れたように男の名前を呼ぶ。
「しかたねーだろォ? テメーが生徒指導で不良ばっか寄こすから疲れてンだよ、無防備だろうが殴るってのは疲れるンだゼェ? たまには可愛い子でもよこしやがれ……ん?」
そう言った後、浅井が僕達に気づいた。
みるみると眠たそうな目が嫌らしい瞳へと変わる。
「フン、丁度良かったな、この女二人を指導させようと呼ぶところだった、手間が省けたな」
会長の言葉に亜里沙の表情が強張る。
会長と浅井の心が読めたのかもしれない。
真っ青になっている。
何が聞こえたのかは解らないが、浅井という男とクソ会長の様子だとあまり良い事が聞こえたわけでは無いのは解る。
「おいおい、二人とも上玉じゃネーか! 良いのかよオイ」
汚らしく舌なめずりをする男の視線から守るように亜里沙を抱きしめる。
手の中で亜里沙の震えが増していく。
「ああ、スキにしろ」
そう言った会長の声は嬉しそうに聞こえる。
「その男も生徒委員!? ふざけるのも大概にしなさいよ!」
強気で言葉をぶつけるも状況の打破に繋がるわけは無い。
それが解っているのか会長の表情は嬉しそうに広がっていく。
「ああ、とても優秀な男でな、指導はこの男に任せている。お陰で不良は沢山減ったよ、まァ偶に始末書があるのが残念だが……女問題が酷くてな」
その言葉は完全にコチラを脅しているように思えた。
浅井という男が居るのに気づいていれば対処も出来たのに……眠っていたから亜里沙の力も及ばなかったのか。
相も変わらず都合が良すぎるぜおぃぃ!
亜里沙ゴメン……僕の先走りな行動のせいだ。
「ではココは任せたぞ。 私も奥にいる。まァ、私が見て居ないからといってやり過ぎるなよ? 見えなかったら注意の仕様も無いしなァ」
そう言って会長は笑いながら奥の部屋に消えていった。
「ああ、見えない範囲で楽しませてもらうゼぇ!」
そう言って僕達二人を嬉々として見つめる浅井。
クソ……鍵閉められてるんじゃ出ようが無いし。
せめて女の子の亜里沙だけでも守らないと……っていうか僕は男なんだぞ!? 何が悲しくて男に襲われるような状況にならにゃ行かんのだ!
「ゆ。百合果さん……今はそんな事考えてる場合じゃありません……あの男は私達を襲う気です……た、多分良い内容では無いと……思います」
途切れ途切れで男の考えを伝えようとしてくれる亜里沙。
「良いよ亜里沙、態々状況伝えなくても大体予想つくから、今はアイツの声が聞こえないように頑張るンだ」
「へ、へーじさんの強い心の声が聞こえるから……大丈夫……です」
言っている意味は良く解らないが強がりだ。
そう言いながらも顔色が酷い。
そう言えば亜里沙はどんな思いだろうが、強い思いで向けられた言葉はその強い分頭に響くんだっけ。
じゃぁあの見るからに変態っぽい男の嫌らしい考えが亜里沙に響いているわけか。
アイツが出てきてからだよな。顔色が一気に悪くなったのは。
会長よりも悪意の塊りみてーなやつってわけか。
最初の時みたいに逃げ出したいだろうに。
逃げられないんだ。
そら……キツイだろうな。
人事じゃない! クソ、可哀想に。
僕なんかどうでもいい。
この子だけでも助けないと……!
結構長めです。
なにやらサイトが始めましたね。
原作者になろう大賞?
……き、気になる!
やってみよーかなァ、難しいかなァ……
ちなみに前作でパクリがあったのに気づいたかた、怒ったかた本当にすいませんでした……。
好きなんです。正人が大好きなんですorz っていうかリトバスめっさ好きなんです許してください……or2




