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その68.エスパー少女の決心

 薄暗い通路はどこまでも続いている。

 しかも、上がったり下がったりと滅茶苦茶の通路。

 歩いているうちに学校の中である事も忘れそうになる。

 県内随一の広さを誇る学校だって事は聞いてたけど、まさか軽いダンジョンまであるのは予想していなかった……。

 案外遠い位置にあるダンジョンなのか、心の雑音は薄れて行っていた。



 もう元の私。

 ……でも、少しの間だけ一般人に戻れたのは苦痛でもあり、嬉しくもあった。

 心が読めなくても、人の気持ちに触れることが出来た。

 そんな気がしたのは気のせいかな? 心が読めたらこんな曖昧な気持ちにはなっていない。

 でも、この曖昧さが大事なのかな。



 今なら人の心を読むのは造作も無い。

 目の前の水歩さんの声だけが聞こえてくる。


 水歩さんの声は、私の事を心配してくれている声だった。

 口では人を良くからかう人なのに、心の中ではつねに相手の事を優先して考える人。

 


 正直、今日一日でアナタの見方が大分変わりましたよ。


 ……私は貴方の敵です。


 だけど。


 一応助けてもらっていることには変わらない。

 そりゃ水歩さんが悪いんだけど、それ言っちゃったらへーじさんけしかけたのは私だし……。


 ちょっとだけ、ヒントをあげます。

 話の核が誰なのか……水歩さんまだ解っていないようですから。

 どう転ぶか私でも解らないけど、私は話すことを決心した。


 ……敵に恩があると、後々不利になったら嫌ですしね。

 それだけだから。


 


 私は……貴方なんて嫌いですから。

 誰が作ったのか、いつからあるかも全く解らない謎だらけの隠し通路。

 知ってる人は限りなく少ない。

 私も駄目教師に教えて貰うまでは知らなかったし。


 最短距離もあったり色々と便利だけど私はあまり使わない。


 何故ならば入る度に通路が変わっているからだ!!

 まるで生きているみたいな謎の隠し通路に半ばドン引き。

 っつーか下手したらこの広い世界に食われるかもしれない……流石の私でも学校内で餓死するのは嫌よ……。


 何故か横で歩いているアリサちゃんがもの凄い顔でこっちを向いた。


「あ、あの……えと、広い通路ですけど迷ったり……しませんよね!?」

 何やら必死な感じだ。

 こういう狭いところ苦手なのかな? 


「んー? 大丈夫大丈夫。 良くわかんない道もあったりするのは確かだけどちゃんと解る通路使ってるから!」


「そ、そうですか……だったら良いんですけど」


 ま、多分だけど。

 久々に隠し通路使ったし~……。

 さっきから所々知らない道見えてンだけどー……まー大丈夫でっしょ。


 ……うっわ。

 超睨まれた、何か知らないけどアリサちゃんに、ものっ凄い睨まれた。

 可愛い顔してるクセに睨んだら超怖いわねこの子!!


「ア、アリサちゃんは百合果ちゃんと学校に何しに来たの?」


「え……えーと?」

 おお、困ってる。

 話を上手い事変えたのは当たりだったみたいね。

 どっちにしても聞かなきゃとは思ってたし。


「百合果ちゃんはこの学校の人じゃないよね? 学校外の友達が何しに来たのかなーって?」


「や、えと……」

 戸惑うアリサちゃんに続けて私は口を開く。


「それにこのタイミングでへーじがいないのも珍しいよね? 昨日へーじと何か喋ってたし……その次の日にこういう騒ぎになってるんだから、へーじと何か企んでるんは間違い無いんでしょ?」


 ま、騒ぎ起こしたのは私なんだけど。


「あ、あー……ええっと」

 戸惑った表情と困惑の表情がコロコロと入れ替わっている。

 何を隠しているかはまだ解らないけど、この様子だと隠し事は確かみたいね。


 この子の事が本当に良く解ってきた。

 相手に対して弱点を攻めるのがこの子の常套句だ。

 一方的なぶん、口で勝つのは難しい。

 だけどコチラから攻める上では対した言い返しは少ない。

 

 つまり。

 自分で考えて誤魔化す、騙す等の関連に弱いみたいね。

 正直に相手の弱点をついてくるからこその強さ、そしてそれに合判する弱さ。


 まァ言ってしまえば隠し事は得意では無いのかな。

 

 中途半端に良い子なんだろう、只の天然って線もあるけど。


 また何か睨まれた。

 まるで心でも読まれてるみたいな気になってきたわね。

 ……まさか、ね。


「んでで? あの子は誰なのかねん?」


 その言葉で睨んでいた瞳はまたスグに元の慌てた瞳に切り替わる。


「あ、あの人は……]


そのままアリサちゃんは押し黙ってしまった。

……なんかこっちいじめてるみたいで嫌だね~。


そこで突然アリサちゃんは顔を上げた。

表情が輝いている所を見ると何か名案が浮かんだらしい。


「お姉さん! そう、あの人はへーじさんのお姉さんなんです!!」

 その言葉を聞いて私は愕然とする。

 お、お姉さん!? あれがへーじのお姉さん!?

 一緒に暮らしている姉がいるのは知っていた。

 だけど顔は見た事無かったしお姉さんの情報は、私の力を持ってしても少ない。

 ……まさかこんな所に。


 戸惑っているのを誤魔化すように私は目線を逸らす。


「へ、ヘェ? そのお姉さんが何をしに来ているの?」


「……それは」


 狭い通路が続く中、アリサちゃんは話してくれた。

 昨日へーじと何を話していたのか、何故へーじの姉が学校に来たのか。

 ……それでもまだ隠し事があるのは何となく解った。

 多分この子も自分自身、嘘が下手なのは解っているのだろう。

 だからこそボロが出る前に最低限の事を話してくれたんだと思う。

 それでもへーじに口止めされていたであろう事を最低限でも教えてくれたのは嬉しい。



「……そっか、やっぱ煮詰まってたんだへーじ」


「はい、かなり悩んでいましたね……苦肉の策として生徒会長と話をつけるのは私も良い案だと思っています

 私もそう思う。

 この学校で有力な権力を持っているのはあの会長だ。

 でもだからと言って……。


「……お姉さんまで出す必要は無かったのに」

 へーじとお姉さんの関係は、確かへーじがメッチャクチャ尻に敷かれていた筈。

 そのお姉さんが制服のコスプレをしてまでへーじの頼みを聞いたなんて……逆にへーじはどれだけの事をして頼みを聞いて貰ったんだろう。

 何か可哀想になってきた……。


「仕方無かったんですよ、水歩さんやへーじさんの周りの方達は会長さんに目を付けられてるから危険だって言ってました……会長さんに知られていない人物が絶対条件だったんですよ」


「……」


 その言葉で私は小さな間を空けてしまった。

 


「そうだね」

 アリサちゃんの言葉は正しい。

 姉を出すという意外性は確かに良い考えかもしれない。


 でも、そういうことじゃなくて……本当に言いたかった言葉は。

 私とかにも、相談して欲しかった。

 アリサちゃんには相談して、私には何も無いなんて……。

 秘密にしていた事よりも、その事の方が心にチクリと来た。


 心の中に生まれた小さな嫉妬。


「……」

 何故かアリサちゃんは困った表情を見せていた。

 その表情の意味は解らなかったけど、何やら申し訳なさそうにしていた。

 ……そんな表情を見せるような弱々しい顔をしてたのかな。

 それでそんな顔をしてくれているのなら、この子はやっぱり良い子ではあるのかな……。


「水歩さん……私は、アナタの敵だと言いました」


「え? う、うん」

 なんだろう突然。


「実は私は……へーじさんの敵でもあります」

 ……え? へーじの為に動いて、へーじを好きだと言っていたのに、それでもへーじの敵……?


「ど、どうゆうこと?」


「……詳しい事は言えませんが結局私は敵でしかありません、今回は別の目的もあって力を貸しているだけです、私が無理矢理へーじさんを動かしたと行っても良いです、へーじさんの思惑がハッキリとは解ってはいませんが、水歩さん達が頼りないから、頼らない、何て考えがあるようには思えませんでした」


 これは……慰めてくれてる?

 でも、敵とまで言った私を何で……。


「アナタがへーじさんに対して落ち込むのは勝手ですけど~……これからへーじさんを支えれるのは貴方達です、そこらへんはサッサと踏ん切りつけて下さい。でないと本当にうちのリーダーに殺されますよ?」


 ……リーダー。

 やっぱりこの子は一年生組みの人間。

 へーじを殺すと言ったあの子の事。


 やっぱり……キミは私だけでなく。

 へーじや、そして結論的には縁ちゃんの敵でもあるんだね……。


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