その48.性悪女の本領発揮
「ここまで来たら大丈夫かな……」
そう言いながら縁は僕を優しく下ろした。
ここは学校の裏庭。
過去にココで、縁と大量の新聞紙を一緒に焼却炉へと入れて行った事があったっけ。
現在上履きのまま何だけど……まぁ今は緊急事態だから仕方ない。
しかし…しかしなぁー……。
「ど、どうしたんですか?」
ズーん……っとあからさまに落ち込んでいる僕に不振そうな具合に言葉を溢す。
「男としてこれで良いのかって思ってね……」
「……?、男?」
不思議そうに縁は首を傾げた。
ッは!? イカンイカン!!
そういえば今の僕は女の子の格好だったっけ。
僕は女僕は女……じゃなかった私は女私は女私は女……。
「う、うふふ!? 何を言っているのか解りませんわー?」
自分でもキモっ!と思いながらも自分で思う女の子っぽい感じを出して見た。
「……ふぅん?」
不振そうな目で見られてしまったわけだが……取り敢えず流してくれた見たいでホッとする。
まだ疑っている可能性があるのでスグに話を変えよう、それに何であんな事になってるか知りたいし……。
「ねェ、あの集団は何? 何で私が追われなくちゃ行けないの?」
自分の事を「私」だとか言うのに抵抗があるのだが、それは仕方がないと諦めよう……。
縁は何故か呆れた表情を見せた。
「これ見て下さい百合果さん」
そう言って、ポケットから何か紙切れを取り出すと僕に渡した。
……あれ? 何で縁が『百合果』という名前を知っているんだろう?
そんな小さな疑問も、縁が渡した紙ですべて解決する事になる。
その紙には妙に見覚えがあった。
何故見覚えがあるかに気づくと、僕はガクーっ……と先ほどとはまた別のショックを受けることになった。
この紙の質は……ミホがいつも新聞に使う紙じゃねーかァァァ!!。
やはり元凶はあの性悪女かァァ!。
何か中身見なくても大体予想が付くような……。
中身見たくないけど一応内容を確認してみる。
『毎日私の新聞を見てくれているド畜生共ー♪ 今回の新聞は特集として面白い企画を持ち込んでみましたー♪ 現在学校に密入国している超絶美少女がいまーす! 写真は下に。名前は百合果ちゃん!! この美少女を捕まえた方には私の用いる力を持って、全力で願いを叶えて差し上げます♪ 誰かの秘密が欲しい。志保タンのパンツが欲しい。写真・金銭面・欲しいバッグ・何でもご・ざ・れ♪ あ! この美少女を好きにしたいとかでも全然O・Kー♪ 後近くにいると思われるツインテールもついでに捕まえるように。 男の子も女の子も自分の汚い欲望の為にファイトー♪」
僕が思ってたのより全然悪い内容だったんですけど!!
爽やかな文面の中にバリバリの悪意を込められたその新聞の下半分にはあの時撮ったであろう僕の写真。
笑顔で笑い掛けているカラーで、どアップの写真に吹き出しで勝手に『私を捕まえて(ハート)』何て肌寒い事までしてくれている。
「な……なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
女の子とは思えない様な言い方だが完全に反射的に出たので仕方が無い。
「それ……学校内で大量にばら撒かれてますよ……その新聞見つけて急いで来たんですから、美奈歩さんもやってくれますね」
呆れた具合に縁は零す。
ほ……ホントやってくれたよあのクソアマァァ……。
「ソレ見つけて急いで探したんですよ? 案の定とんでもない事態になってますね」
確かにさっきの集団はとんでもない事態だわ……。
僕も亜里抄も死ぬんじゃ無いかと思えるぐらいの勢いだった。
正義を自負する縁がこれを見逃すハズが無い。
学校内でミホの新聞は案外人気がある。
その分ミホがどれ程の力を持っているかは生徒達も良く解っているようで。
あわよくば肖ろうと、欲望の塊達が授業も忘れて突っ込んできたわけだ……。
それでも縁が変な欲望に駆られず助けに来てくれたのは本当助かった……、この子はホント頼もしい。
「っていうか何でアタシの名前知ってンですか」
……え゛。
流してくれたんじゃなかったの!?
まだ僕の事を疑ってやがる……らしい。
クソ、頼もしいと思ったのに! 嫌な所を突いてくれる!!
「え…えーと……」
どもる僕に縁は容赦をしてくれない。
「あなたみたいな綺麗な人を学校で見逃す筈ないし、アタシと会ったの今日が初めてですよね?」
詰め寄る縁に僕は後ずさる。
くぅ! バカのくせに変なところで勘が鋭いな!
「あの……聞いて知ってて……」
苦し紛れに出た言葉に縁は眉を寄せる。
「聞いてって誰に?」
やっぱそうなるよなー! しらねーよ!! 適当に出たんだよコノヤロー!!
頭の良い方な僕だけど機転はあんまり効かないらしい。
「えーっと、えーっと……へ、へーじ君に」
更に更に苦し紛れに出たのは自分の名前だった。
なぜならこの学校の現時点で僕の今の状態を知っているのは僕と亜里沙だけなわけだし。
縁が亜里沙に詰め寄れば正直に話しそうだあの子は……面白半分に。
通じるか解らずに出した名前に、縁は訝しそうな表情から、キョトンと間の抜けた表情に変わった。
「へーじの、知り合い?」
なんとなく縁の表情が和らいだ気がする。
……お? これは意外に上手く行った……?
「そ、そう! へーじの親戚なんだ! ちょっとへーじに緊急の用事でお忍びで来たー……って、どう?」
慌てて捲し立てるように出た言葉に、言った後に後悔。
っていうか相手に聞いてどうすんだ僕は! アホかァ!
それにしても苦しい! 自分で言っていてアレだが本当に苦しいな! 何だ緊急でお忍びって!
「そ、そうだったんですか……」
おおぅ!? 納得しやがった! 縁……バカだバカだと思ってたけど……。
今回はバカでよかったと心の底から思うよ!
なんて心の中でボロクソ言いながら胸を撫で下ろす。
取り敢えず、縁にバレなくてよかったー……。
女装してます何て事がバレたら死ねる。
嫌マジで。
なんか変な設定がついてしまったけど今更後には戻れない。
私は亜里沙という名前でへーじ君(僕)の親戚のオネーサンってトコで。
がんばって行こうと思う……。
お金が無くて昼飯も食べられない状況(T_T)
家にあるのはソーメンとカレーのルーだけ。
さぁどうしようかと思ったら……。
私の頭でティンと来た。
カレーうどん。があるのなら……カレーソーメンも美味いんじゃね!?
-やってみた。
クソまずかったorz
同じ麺でもこうも違うとは……
カレーソーメン、みなさんはやらないように!!
友人に気をつけるように言ったら「誰もやらねーよww」と言われてしまった……。
でも私みたいに追い込まれたら多分誰でもやるんじゃないでしょーか。
多分。いえぜったい!




