その47.男のプライドが……今は女の子だけど。
すでに集団は目の前。
もう駄目だ! 何がどう駄目になるのかは知らないけど、もう終わったァァ~!!
その時。
耳元で声がした。
「肩貸して下さい、一気に飛びますよ」
そう言った瞬間、肩を誰かに担がれた。
フワッと綺麗な髪の毛が腕に触れる。
「行きますよ!」
聞き覚えのある声と共に、僕の体が浮いた。
「わ! わわ!!」
突然の事に頭がついてこず、間抜けな声が出る。
それが声の主の跳躍力で飛んだという事には、スグに気付いた。
。
集団の人物達を飛び越え、『彼女』は高く高く飛んだ。
下を見ると、あんぐりと見上げている人とニヤけている人とがいる。
……スカートの中が見えているのかもしれない。
『彼女』には言わないでおこう……。
その集団の中でミホが苦々しそうに睨んでいるのが見えた。
何か今日のミホは妙に怖いな……。
朝っぱらから絡まれたりと……いつも以上に恐ろしいなこの子。
着地と共に『彼女』は追いつかれる前に、と再び空中に飛んだ。
人一人を運んでこんなことが出来る人間を、僕は一人しか知らない。
「ゆ、縁!?」
肩を担がれている形であり、顔はスグ横にある状態。
大きな猫目の瞳がチラッと僕の方を見た。
いきなりこんな近くに顔があると、焦ってしまう。
僕は健全な男子であり、女子の顔がこんなに近けりゃ動揺もするわけで。
今の格好は女の子だけど……。
「やだ、ちょっと! 動かないでよ!」
縁の困った声を気にしている余裕は無かった。
焦って体を揺らしてしまっていた。
肩を担いでいる縁からしたら担ぎ難くなるだけなのは解るんだけど、察して欲しい……。
「あー、もう仕方無いな!」
そう言うと縁は空中で体制を立て直し、左で僕の体を支え右手で足を持ち上げた。
つまりは……お姫様抱っこの形になったわけだ。
その時点で僕は恥ずかしさと情けなさで顔が赤くなるのが自分でも解った。
女の子にお姫様抱っこされる男なんていていいのだろうか……。
イヤ、今は女の子の格好しているけれど……情けない事には変わりない。
縁はピョンピョンと壁から壁に飛んでいる俗に言う壁ジャンプを難なくこなしながら集団から離れていく。
取り敢えずはこれ以上恥ずかしい事にならない様に縮こまる事にした。
後、縁に顔見せないようにしよう。
今は他人だと勘違いされてるみたいだけど、それでも今の顔を見られるのは死ぬほど恥ずかしい……。
「……? 大丈夫、全然軽いですよ! 羨ましいくらいです」
そう言って縁は僕に向けて優しく微笑んだ。
どうやら僕が体を縮めて顔を見せないようにしたのは。
重いのでは、と意識したように思ったらしい。
女の子らしく重さを意識したように思われるのは解るとして……。
多分普通に軽いと思われる女の子の縁に。
羨ましい、とか言われる現役男子高校生……これで良いのか僕よ……。
確かに体は小柄な方だけど!! これ以上追い込まないで縁。
既に僕のライフは0なんだよ色々と!!
そんな僕の状況なんて僕以外、誰も知る由も無いから「止めて!」何て言って止めてくれる人も居るわきゃねーしィ!
女装した時点で死にそうだったのに、トドメとついでに死体に鞭打たれるとは思わなかったよ!
縁に悪気が無くて、気を利かしてくれている発言なんだって解ってるけど……
な、泣いて良い?(泣)




