その46.心が読めるって大変だね
僕と亜里抄は並んで廊下を歩いていた。
ここは2階の廊下。
生徒会室は確か三階だ。
「亜里抄……授業は?」
既に学校の授業は始まっている時間で僕たち以外は誰もいない。
「今回の授業はどうやら私の人生に置いて必要のない知識なようです……」
「いや、ソレ只のサボリじゃん」
何只のボイコットをカッコ良く言ってんの。
亜里抄は僕に向けてまた笑みを向ける。
「良いんですよォー♪ 私は百合果さんの方を優先してあげてるんですよぉ?」
うーん、確かに助かってんだけど……。
っつーかその百合果さんってのは定着なんだ。
「そうでーす! 後ー、折角のコスプレなんで喋り方も似せて下さーい、百合果さんはもっと御淑やかな感じです!」
あ゛! 今素が出たなこの子!! やっぱコスプレじゃん! この子コスプレさせたいだけじゃん!! 絶対やらねーよ! 君の思い通りにはさせねーよ!!
「えー! ケチですよへーじさーん!」
そう言って亜里抄は可愛らしく頬を膨らませる。
ケチなもんか、寧ろ大分君には善処しているでしょーが。
ホントならこんなコスプレすぐに脱ぎたいぐらいなんだから。
それもコレもこの子の力を利用したいが為なんだけど……
あの何考えているか解らない会長だが、心さえ読めれば交渉も楽だろう。
「気楽に言わないでくださいよ、心読むの結構キツイんですよ?」
へぇ? そうなんだ? 心読めない僕からしたら全然解らないんだけどそういうモンなんだろうか?
「何? 何かしら体力とか使ったりするの?」
僕の言葉に亜里抄は少しだけ表情を曇らせる。
「そういうわけじゃないんですけど……人の素の心ってのは聞いてて良い物じゃ無いですよ? 私が勝手に覗いているわけじゃ無くて、頭にその人の心の言葉が流れ込んでくるんですから。」
成程、それは確かに嫌かもしれない。
この力は自分で操っているわけでは無かったのか。
この子の性格が何でこんな風なのかなんとなく解ってしまう。
人ごみが苦手なのも何故か解った。
確かに大勢の人が居たら頭ん中ぐちゃぐちゃになるだろーな……。
そんな力を利用しようとしてる、て思うと少しだけ心が痛む。
そこで亜里抄の表情が優しく和らいだ。
「良いんですよ、私はへーじさんの心を読むの好きですから」
そういうと亜里抄は微笑む。
人の心に好き嫌いとかあるのかな?
「へーじさんは私が心を読めても嫌がる素振り見せませんし、普通に接してくれます♪」
その言葉は、過去に何かあったのかと、少しだけ深入りしてしまう。
心が読めれば誰しもに気味悪がられるのは確かだろうけど……
止めよう、きっとこの子は僕のそんな深入り聴きたく無いだろう。
僕の遠慮した心の声が聞こえたのか、亜里抄は困ったように小さく苦笑した。
その苦笑は、悪い意味で無く少し嬉しそうだった気がした。
「それにこの力、イヤな事ばかりじゃないんですよ? そういう……言葉にしない思いやりの心も聞こえますからね」
そう言うと亜里抄は意地悪な笑みを浮かべる。
意地っ張りな僕としてはそういう心を読まれるのは少し恥ずかしいんだけどねぇ……?。
クスクスと亜里抄はまた笑った。
恥ずかしがっている僕の心も聴こえているらしい。
心を曝け出す、僕や縁が出来ない行為を無理矢理やらされている感じだけど。
存外悪くは無いと思っている僕が居た。
そんな僕の心も聞こえているわけで、成程、驕るつもりは無いけれど。
今の僕のような心が聞こえるのなら、心を聞くというのも悪く無いものかもしれない。
そんな風に。
心を読まれ笑われまた僕の心が動く。
何度も繰り返しながらも一緒に廊下を歩いていた。
この子は、やっぱり悪い子では無いという思いが出てきた。
言うなれば『変に純粋』
そんな感じだ。
三階の階段に足を掛けた時、突然亜里抄は立ち止まった。
僕は片足を階段に掛けたまま振り返る。
どうしたんだろう?
亜里抄の表情は具合が悪そうな感じに青くなっていた。
張り付いていた笑みは消え、目を見開いていた。
「ど、どうしたの?」
突然の、あまりにもの様子の変貌に少し心配になって声を掛けてみる。
亜里抄は唇を震わせながら小さな声を零した。
「こ、声が……」
「声が?」
恐怖で震えた様な言い方に首を傾げてしまう。
一体どうしたんだ?
亜里抄はきゅっ! と唇を噛み締め、もう一度口を開く。
「沢山の声が……向かってる……」
そう言うと亜里抄は視線を先ほどまで歩いてきた廊下に向けた。
釣られて僕も廊下の方を見る。
……遠くから、多くの人影が見える。
おかしいな、この時間はまだ授業中だ。
なんでこんな人数が?
しかもその大勢の人物はこちらに向かって歩いてきていた。
そして先頭には何故かミホが。
ミホが居る時点で何かしらの元凶が彼女であり、何か良い事をしようとしている雰囲気は無いだろう……。
僕と視線が合うと、悪役っぽいニタァーっとした笑み浮かべていた。
な、何だ?
「見ーーーつけたァァァァァァァァァァァァ!」
ミホの、その大声を合図にするかのように、大勢の人たちがダッシュでこっちに向かってきた。
ドドドドド! という音が聞こえてきそうな程の勢いで。
へ、へぇ!? 何事!?
突然の事にポカンとしている僕はそのまま固まったまま。
裏腹に顔が更に青くなっていく亜里抄。
「こ、言葉がいっぱい、いっぱい、いっぱい……せ、迫ってくるぅぅぅぅ!」
あ、成程。
何故あの人間達がこんな迫ってきているかは意味不明だけれど。
亜里抄ちゃんの様子がおかしい理由は解った。
感情の揺れの激しい方達がこっちに向かってきて、なおかつ目的は僕等らしい。
そんな状態ならば、心の読める亜里抄からしたら、すざまじい大量の興奮した声が、ガンガンに脳に響いているわけだ。
……うわ、前言撤回。
心読めなくて良かった。
「ひぃやぁぁぁぁぁぁ!?」
亜里抄は叫び声を挙げたかと思うと、一人で勝手に三階の階段をダッシュで登り始めた。
取り乱しかたが半端じゃないけれど……これは仕方ない。
なんとなくご愁傷さま……。
なんて合掌している余裕は無い! 何を冷静に解釈してるんだ僕は。
何が何だかわからないけど、向かってきている集団達には危険な香りしかしない。
僕もサッサと逃げないと!
そう思い走り出そうとした瞬間。
派手に転んだ。
こんな時に何かしらしょうもないミスをするのは全く持って僕らしい。
扱けた形のまま変に納得。
女装した時点で自分の中で何かが吹っ切れているらしい。
さっきから妙に冷静なのはそのせいだろう。
そんな風に考えているうちに集団はグングンと近づいてきている。
どうしよう、この距離だったら確実に捕まる……案外捕まっても大丈夫だったりするんじゃないかな、今一応女の子の格好してるんだし手荒な事はしない筈。
甘い期待をしつつ上体だけ起こし集団達に目をやった。
先ほどよりも近づいてきている集団達はさっきよりも良く見えるわけで……。
目が血走り、荒い呼吸にニタニタとした気持ちの悪い笑みを浮かべた表情。
そんな男たちの集団がこっちに向かっていた。
うん、マズイ……考えが甘すぎたかもしれない。
変に冷静だった頭は逆に素に戻り、現状況がマズイ事に気付いた。
これって……やややややばい!?
素に戻ったとたんに一気に取り乱してしまった。
そんな僕等気にせず集団は近づいてくる。
もう、目と鼻の先と言ってもおかしく無い。
うわわわわわわわわわわ!!
毎度の事ですがどうでも良い後書きです。
漫画化を目指す友人が、原作を作って欲しいと私に言ってくれました!
プロというわけではないのでアイデアを提供するだけですが……。
こんな私で良いのか解りませんが頑張ってみたいと思います!!
もし雑誌に乗る様な事があれば後書きにこっそりと私が原作ですよ~、と言っときますw




