その45.昨日の味方は今日の敵
皆さんおはようございます。
今日も春らしい広々とした晴れに恵まれましたね。
窓から零れる春風に頬が揺るぎます。
……そんな天気とは裏腹に。
オネーチャンのクラスはどんよりとしていた。
朝の綺麗な女の人の事で聞きたい事があって態態ここまで足を運んだんだけど。
……話しを出来る状態じゃないようです。
お姉ちゃんの教室のドアを開いた先に最初に見たのは、苛立っている姉だった。
姉は机の上にふんぞり返り、明らかに不機嫌と言うかのように指の爪を噛んでいた。
いつも笑ってそんな行動などしない筈の姉に軽く引く。
「あ・ん・の・小娘~~~……泣かす……絶対泣かす……」
姉がボソボソと溢す言葉は小さい筈なのにおどろおどろしく耳に残る聞こえ方をしている。
そんな姉は。
現在のこの教室内では「まだマシ」のレベル。
そのまだマシだと思わせるそれ以上の人たちに視線を移した。
部屋の端で妙な大人数の白い覆面を被った人達。
確かあの人達は……「モテ隊」?というものを結成している妙な方たちだ。
お姉ちゃんが『この学校のガン』だとか酷い事を言っていたのを聞いた事がある気がする。
そんなモテ隊の先頭に白では無く赤い覆面を被っている人が声をあらげていた、多分リーダー格の人だと思う。
「良いかー?! 髪は美しい純白に蒼い瞳の少女だ! 何としてでも見つけるのだァー!」
赤い覆面の人の言葉に合わせて白い仮面の人達がビシィッ! と姿勢を正し軍隊の様に敬礼をして見せた。
動きに狂いは無く、見ているものを圧倒させていた……気がする。
「イエス! モテ隊!!」
……動きは凄いけど掛け声はセンスが良いとは思えなかった。
なんか少しでも凄いと思った私が恥ずかしくなる……。
少しズーンっとしながらもモテ隊から視線を外した。
視線を外した先に佐久間さんを見つけた。
佐久間さんは色んな人が馬鹿、変人だと言うけど私はそうは思っていない。
あの事件の時の佐久間さんはとても頼りになった。
姉の為、へーじさんの為、そして縁の為に。
私はあれ以来、佐久間さんをどこか見直している。
男性があまり得意な方では無い私としては、とても珍しいと思う。
そんな佐久間さんは今、机の上で深刻な表情を見せていた。
いつもとのギャップか少し惹かれてしまうのは気のせいかな?
今の佐久間さんに馬鹿らしい様子は見えない。
まじめそうな佐久間さんになら、この教室の状態を聞けそうだ。
「佐久間さ……」
言葉は言い切る前にそこで詰まった。
佐久間さんもマトモでは無い状態である事に気付いたからだ。
それは佐久間さんがボソボソと呟いた言葉が耳に入って来たから。
「俺がへーじ以外の人類に興味を持つとは一体何事か? これが恋か? いやいやいやいや待て考えるんだ、だがしかしあの女の子は可憐だった……しかも俺に視線を向けてきたんだ俺に気があると考えてもおかしくは無いしかしコレはへーじに対して浮気にならないか? いや結局俺達は相容れない存在ならば今の内にあの女の子に切り替えた方がいいのか? しかしへーじも捨てがたい、しかし……いやいやしかし……こんな気持ち初めてなんだ、あの子に会いたい喋ってみたい触れてみたい……うん、探してみよう探してあの子に聞いてみよう話してみようあの子を探そう、あの子があの子が(略)」
耳に入ってきた息つぎをいつしているのか解らない様な言葉に頭がグルグルと回った。
今の間に「しかし」というフレーズが何回はいって来たのやら……佐久間さんスイマセン……普通に背筋が寒くなりました、今は近づきたくないです。
さっき良い人感を出した説明の後にゴメンナサイ……普通にキモいです……。
後マトモそうな人はへーじさんだけかなァ……。
そう思って辺りを見渡す。
いらっしゃられない……
仕方が無い、また後で来よう。
あの白髪の人、どこかで見た事があった気がしたから誰かに相談しようと思ったんだけどな。
どこで見たか思い出せなかったから聞きに来たんだけど……まァ良いや。
そう思い立ち教室を出ようとした時。
「そぉだァ!」
「っ!?」
誰かの大声にびくぅ! と体を揺らして慌てて振り向いた。
そこには、姉が机の上に立ちあがっていた。
目をドス黒く輝かせ、嫌な感じに笑みを浮かべている。
「これをネタにしてやろう! アッハッハッハッハ! 良いネータ! アッハッハ! 覚えときなさいよ亜里抄ちゃぁぁ~ん!? 私を怒らしたら、しッつこい!! わよぉぉ~!? アッハッハッハッハッハ!!!」
オネーチャン……良い感じに悪役が似合うねホント……。
暗い笑みを浮かべる我が姉の暴走に頬が引き攣る。
次に今度は大きな歓声、先ほどの様に体を揺らす事は無いが取り敢えず視線は姉から歓声の方へ。
視線の先には先ほどの覆面達が声を挙げている所だった。
「目標は愛しの少女だぁー!」
赤い覆面のリーダーが大声を挙げると共に大勢の覆面達がドアの方を向いた。
「ひ、ひぃ!?」
ドアの方に居た私は一斉に覆面達がこっちの方を向いたのに寒気を感じ、恐怖の声が零れた。
震えている私の耳に、また声が聞こえた。
大きな声でも、歓声でも無かったけど、ハッキリと聞こえた。
「……会いに行こう、俺の本気、誰にも邪魔させねェ」
その声は佐久間さんの声。
学校内で最も性質が悪いと言われている姉。
学校のガンと言われている程の変人の軍隊
学校一の馬鹿だと言われている人だけど、
唯一縁と渡り合える力を持つ本気の佐久間さん。
この三つが同時にドアの方に歩いてきた。
「ひぃぃぃ!?」
恐怖の声と泣きそうになる気持ちが入り混じる。
ぜ、全員目が怖いですよ!?
そんな時、後ろのドアが開いた。
ガラっというドアの開く音に助けの目を向ける。
入ってきたのは、生徒を抑える存在である教師。
た、助かった! 先生ありがとうございますぅ!
「……なにやってるんだお前らは、サッサと座らんか」
若い先生は集団の面々に顔を顰めながらそう言った。
た、頼もしいです先生! やはり生徒の暴走を止めてこその教師……
生徒達は一瞬だけ、立ち止まった。
「「「ぁっ?」」」
全員の声が揃った、迫力の籠ったドスの利いた恐ろしい声が響く。
圧倒されるように私はビクゥ! と道を空けるように飛び跳ねた。
そんな恐ろしい声を出されたのに、教師はドアの前から退かない。
おぉ! や、やっぱり先生は凄い!
心の中で教師という職業に尊敬を込めようと思ったのだけど、
「……どうぞ」
礼儀正しい感じに教師は道を空け、ついでに敬礼までしていた……
……生徒を抑える筈の教師が抑え切れていない。
心の中で教師という存在に落胆した瞬間だった。
先生もやっぱ怖かったんですね……。
ぞろぞろと教師を無視して教室を出ていく面々。
亜里抄ちゃん……後、たしか百合果さん……ご冥福をお祈りいたします。
感想返信遅れていますスイマセン。
早いうちにお返しします。




