その43.蒼い瞳の少女は無愛想
「ねーお姉ちゃん、幾らなんでも来るの早すぎない?」
妹の志保が私の隣で歩きながら不思議そうに零す。
「アッハッハ! そうかねー? こんなもんじゃない?」
何て笑いながら言ってるけど、いつも学校に行く時間の2時間くらい前から学校に来ている。
早く来過ぎて寧ろ暇過ぎだったぐらいだけど……。
仕舞にはいつもの時間に来た志保に出会う始末。
「……幾ら昨日のへーじさんが変だからって心配しすぎだよお姉ちゃん」
呆れた感じに志保に言われてしまう。
……っていうかバレてた。
「へ? ぁー……な、なんの事?」
バレてたけど、妹の前では見栄を張りたくなるのは最早クセみたいなもんになってる。
「まー別に良いけどね……」
そう言うと志保は再び呆れたように目を瞑る。
ム……ムゥ。
何よその呆れた言い方さぁー。
普段でも志保と私は学校に来るのは早い方。
まだ静かな廊下を歩いているのは私と志保だけだった。
そんな中、廊下の端に人影が見えた。
私達しかいないと思っていた分、人影に興味が湧くのは当たり前だと思う。
近づくにつれて、人影が少女である事が解った。
遠目からでも解る長い髪の少女。
同じ制服を着ているのだから同じ学校の生徒……だと思う。
……ガンガンと廊下の壁に頭をぶつけている少女が居た。
「見られた……見られた……」
何かボソボソと呟いているのは聞こえるんだけど……良く聞こえない。
見える範囲まで近づいて行くと、純白の綺麗なストレートの髪が目に付いた。
そんな綺麗な少女が異様な行動をしていれば誰でも首を傾げると思う。
「あの人、何やってるんだろう?」
志保はやっぱり文字通り首を傾げ、不思議そうにしている。
というか……こんな目立つ子、学校に居ただろうか?
そんな事はいいや。
この子は何か面白そうだ。
こんな目立つ子が壁に頭ぶつけたりしてるなんて……絶対に何か楽しそうじゃん!
「アハ! 何やってんの?」
笑顔と共に私は少女に話し掛けた。
志保も私と同じで、この少女に興味がある様子だ。
すると頭をブツケまくっていた少女はピタリ、と止まった。
そして、ゆっくりと私達の方を向く。
……あらあら。
「わァー……」
心の中で零した私と、感嘆するように零した志保との気持ちは多分一緒だろう。
蒼い瞳に綺麗な顔立ち。
これは、綺麗な少女だ。
日本人らくない容姿と、綺麗な顔立ちの二つが少女に惹きつけられるのか、と勝手に推理。
しかし、少女の表情はひたすらに無表情だった。
綺麗な顔立ちが勿体ないとさえ思える。
少女は私からスグに目を離すと歩きだそうとした。
何も言わず。
明らかに私達を避けた様な行動だ。
私は無意識にニヤッと笑ってしまう。
こんな面白そうな子を逃がす気は無い。
「ちょぉ~っと待ってー?」
そう言いながら少女の腕を取った。
少女は私の方を見ると明らかに嫌そうに表情を歪ませた。
「お、お姉ちゃん……」
そんな少女の気持ちを察したのか、志保は私を咎めるような心配するような感じで私を呼んだ。
志保には『大丈夫だから』と、視線だけで答える。
「アッハッハ! 君が誰だか知らないけど、学校の生徒じゃないのに制服着て入り込んでくる何てよっぽどじゃない?」
そう言うと、少女の綺麗な瞳は見開いた。
そんな事も解らないとでも思った?
「え? ええ!?」 と志保も驚いた声を出していた。
自慢じゃ無いけど学校内くらいの生徒なら全員家族の人数から恥ずかしい過去までバッチリ調べ上げている。
結論的に言えば私の知らない生徒が居る筈が無い。
制服は確かにうちの学校のだけど、間違い無くこんな少女は生徒にいない。
つまりは。
先ほど私が言ったのが一番有力。
この少女はこの学校内の密入国者と認定!
押し黙っている少女に追い打ちを掛けるように零す。
「ちょっと騒いだら困るのは君だよねん?」
私がニヤッと笑うのと同時に、少女は離れようとする動作を止めた。
「悪いようにしないからちょっと話し聞かしてくんない?」
笑みを浮かべ、軽く脅しつつ優しく声を掛ける。
「……」
少女は私の方へと向き直ると、腕組みをして見せる。
表情は不満そうだ。
改めてみると……本当に綺麗な子だ。
気を抜くと見蕩れそうになる。
「まず何を聞こうかなー?」
そう言った時、綺麗な蒼い瞳が私の方を睨んだ。
「……早く終わらせてよ」
怒った様な言い方で少女は初めて言葉を口にした。
その言葉よりも、澄んだ高い声に震えた。
少し強い高さと言えば解るだろうか。
その見た目相応の美しさがその声には合った。
「笑ってよ」
そう言ってお手本を見せるように私は頬の端を上げて見せた。
「……?」
少女は首を傾げる。
そんな事を言われるとは思っていなかったのか不思議そうだ。
私もそんな事を聞くつもりは無かったんだけど、この表情に張り付いた様な無表情が気に食わなかった。
と、いうのもあると思う。
「あー、確かに笑ったらもっともっと綺麗だと思いますよぉー?」
志保がそう言って礼儀正しく可愛らしい感じに笑みを浮かべる。
「ほら、笑ってみて! 綺麗な顔してるんだからまずは笑わないとね? 勿体ないよん?」
そう言いながら私は懐からカメラを取り出す。
どんな時でも記者兼カメラマンな私はカメラを手放さないのだ。
「なにそれ……バッカみたい」
そう言うと無表情だった少女は小さく微笑んだ。
微笑という程の微かな物。
呆れた様な笑みだけど、私はシャッターを押すのと同時に、惚けてしまった。
予想以上に綺麗な表情。
いきなり笑われたら凶器にもなりかねない美しさ。
「……? 顔が赤いよ?」
そう言うと少女が覗きこんでくる。
少女から離れるように慌てて思いっきり仰け反る。
「あ! アハハ! 気にしないで! うん! 大丈夫だから!!」
あ! 危な! 危なー! 危うく落とされる所だった! これは思った以上に厄介な子かもしれない……。
そんな風に額の汗を手で拭う。
「キ……キーレーイィー……」
っと、隣でポワポワとしている私の妹。
やられた! うちの妹がやられた!
「ちょ! ちょっと! うちの妹に何て事すんのよ!」
「はァ!? 言い掛かりも良いトコでしょーが!」
お、おおう!? 初対面なのにナイス突っ込み!? この子、綺麗なだけじゃなく侮れない!!
まぁポワポワしてる志保は取り敢えず置いといて……
「で、名前は?」
記事にしようにも名前を聞かなきゃ始まらない。
「へ? 名前?」
私の言葉に少女は何やらポカン、としている。
まるでそんなの知らない、とでもいうかのように。
……? 名前が無い人間なんていないと思うけど。
「何? 言えないのン?」
「や、えっと……」
蒼い瞳が右往左往している。
む、か……可愛い!
まぁそれは置いといて。
しっかし、ますます怪しいな……。
名前が言えないなんてよっぽど何かあるんだろう
「ま・す・ま・す・怪しいねェ~~?」
そう言いながら、ずずい! と顔を近づけてみる。
「や、え、あ、あの……」
ムフフフフフフフ! そんな可愛い顔しても逃がす気は無いから!
縁ちゃんと言い、志保と言い、可愛い子を追いこむのは私のた・の・し・み♪
自分にSっ気があるのは自覚してますが(笑)
「オネーチャンよだれ出てるよ……」
いつの間にか復活していた妹が呆れた表情を見せる。
「え? エッヘッヘッヘ!」
気付かずに出ていたヨダレを慌てて拭うも、にやけた表情は止まらない。
名前を言わないのならソレでも良いけどねェ~?
それをネタにぞ~んぶんに可愛がらせて貰うよん? エッヘッヘッヘッヘッヘ!
「百合果さん! 百合果さァーン!」
声の先に振り向いた。
その聞き覚えのある高い声はアタシが最も苦手とする子。
可愛らしい表情にパタパタと駆け寄ってくるツインテールの少女。
お馴染みの猫被りな可愛らしい笑みを向けていた。
その可愛らしい表情とは裏腹に、その瞳は挑戦的に私の方を見ていた。
更新が遅くなりました……申し訳ないです……
でもちゃんと今回は言いわけがあるんです!
言い訳ですけド……
彼女が!
彼女が出来ましたァァァァ!
うひょーい!うへーぃ!うひゃひゃーぃ!
その事に関しては次のあとがきで。
明日更新出来ると思います。




