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47・もう一つの浪漫兵器

 それを見た時まず頭に浮かんだのは、「コレジャナイ」だった。


 屋島の軍備は目覚ましいほどの充実を見せているが、そこにはどうしても歪さがあった。


 ほんの10年ほど前には後装砲すらなかったような世界にボルトアクション銃や後装砲、さらには駐退器などを出現させた。


 その結果、戦備にも戦術にも大きな混乱が起きる事になった。


 それらは実戦を経験して是正されたかに思われたが、急すぎる発展に振り回されている面がある事も否めない。


 そして、ボルトアクション銃や駐退器を備えた野砲、重砲が開発され、装備に至っている世界なのに足りないものが存在している。


 兵器の歴史を紐解けば、連発、或いは斉射兵器と言うのは銃砲の登場以前から様々に考案され、或いは実用化されている。

 地球の歴史を見ても、銃や大砲が登場すると斉射兵器が次々と考案され、かのレオナルド・ダ・ヴィンチもスケッチを残している。


 そして、屋島のダ・ヴィンチといえる弦能が考えていないはずがなかった。


「資村さま、このような物を考案いたしましたが、如何でしょうか?」


 それは斉射銃であった。ミトライユーズだとか、日本で言えば二十連発斉射銃であろうか。


 たしかに相手は密集隊形を作って進軍するだろう事は明らかである。玄はマスケット装備の戦列歩兵すら実現していない中世国家に分類される。

 そう言うと、ここがまるで転移国家が送られる箱庭のようなだが、ある意味そんな場所なのだろう。


 そんなチグハグな時代を生きる国家群のなかに現れた近代国家が屋島・・・・・・


「確かに効果はありそうなのだが、一度撃てば装填にも時間が掛かるだろう?」


 そう指摘すれば、もちろんその欠点も理解してはいるらしい。


「はい、その通りです。槍隊には効果を発揮しますが、相手が騎馬隊であった場合、いささか問題を抱える事になるかと」


  そして、新たにもう一つの案を示してくる。


「では、こちらは如何でしょうか?」


 そう言って見せて来たのは、六本の銃身が束ねられた代物であった。


「ガトリング?」


「がとりんぐ、とは?」


 俺の声に弦能も反応した。


 ガトリングとは、言わずと知れたガトリング砲である。アメリカの発明家ガトリング氏が考案した連発兵器で、20世紀後半以降、再発見と大発展が行われた兵器である。

 だが、よくよくその内容を読んでみるとその違いに気付く事になる。


 この兵器はひとつの軸に沿って取付られた装填機構、発射機構、排莢機構によって構成されており、ガトリング砲とは根本的な構造が異なる。

 どちらかと言うと、第二次大戦末にドイツで開発されたリボルバーカノンの構造に近い。


 何より、口径から言うならばホチキスリボルバーガンと言った方が良いだろうか。


 ガトリング砲とホチキス砲は外見的には同じ様に見えるが、その装填、発射機構に違いがあり、ガトリング砲は砲身個別に発射機構を備えるのに対し、ホチキス砲は後のリボルバーカノン同様に一つの機構しか備えていない。


 じゃあ、軽量化のためにリボルバーカノンにすればよいではないかと思うだろうが、リボルバーはよほど精巧に作るか特殊な構造を設けない限りシリンダーから発射ガスが噴出する事になる。

 さすがにそのくらいの事は弦能も理解しており、あえて多銃身型にしたのだろう。


「これは狙撃砲と同じ口径とし、信管を用いた榴弾の発射が可能になっております。手回し動力によって銃身を回転させ、それと共い弾薬を薬室へ送り込むようになっております」


 まさしくホチキスリボルバーガンの構造そのものである。


 確かにガトリング砲よりも構造が簡単にできるだろう。


「銃身を複数束ねれば重くなり過ぎはしないか?」


 これがガトリング砲が一度廃れた原因でもある。ガトリング砲をモーターなどの動力で動かす案が無かった訳ではないが、1960年代まで日の目を見なかった理由こそ、「重いし自動銃の方が有利」だったからだ。

 それを示すように、世界初のベルト給弾機関銃とされるベイリー機関銃など、ガトリングやホチキス砲同様の手回しながら、毎分1000発などと言う脅威的な発射速度を実現したが、1876年、一度の試験だけでその役割を終えてしまっている。もし採用されたとしてもわずか10年程度でマキシム機関銃が世に出て来るのでは、そう長く使われる事にはならなかった事は論を待たないところだ。


「はい、移動が大変なので列車搭載、或いは艦載とするのが妥当かと存じます」


 当然のように弦能もそう断言した。


 では、マキシム機関樹の様な自動銃の開発はしていないのかと言えば、決してそんなことはない。


 だが、今の屋島で造るには、工作制度の問題があり、銃身過熱、汚損と言った問題の解決が見通せず、何より問題となるのは、弾薬の供給に不安がある。


 今回源内が提案したモノはあくまで支援兵器だから何とかなるのであって、機関銃のように多数の部隊に配備できるほどの環境は整っていない。まだまだ今の屋島の現状は、南北戦争頃の先進国レベルと言えるかどうかである。


 その事を弦能も理解しているのだろう。限定的な支援兵器と言う考えを即答で示して来た。


「分かった、頼りになる兵器になりそうだな」


 そうはいった物の、より高性能なものがそう間を置かずに出現する事になるだろうと思うと、これもまた浪漫兵器となってしまうのだろうか。 

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