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46・浪漫兵器が完成した

「なんじゃ、騒いだほどの武器には見えん」


 ウルプがそんな疑問を呈してくる。


 完成した24センチ列車砲のお披露目なのだが、どうやら彼女はお気に召さない御様子。


 分からなくはない。列車砲と言えばドイツのK5や80センチ列車砲ドーラなど、見るからに長大な砲身を備えた迫力あるフォルムを想像するだろうが、残念ながら、現代の屋島にその様な技術は存在しない。


 弦能にあれやこれやと話をして、翔らと試行錯誤した結果生まれたモノが、今日お披露目されているのだが、24センチ砲と言ってもたかが17口径である。台車となる列車長が10メートルなどと言う規模に対して砲身はわずかに4メートル程度、それも、巨大な駐退器を纏わせた砲架からいくばくか砲身が覗く状態とあっては、迫力に欠ける。8センチ級野戦砲のほうがよほど大砲らしいとさえ言える状態だ。


 しかも、編成列車において懸案であった操砲スペースや安定装置も格納状態なので、たしかに巨砲を積んだ貨車としては理解できるが、このまま撃てるとは想像できない姿をしている。


「そうでもない。最新の24センチ砲を鉄道で迅速に移動させ、あの腕を展開して車体を固定すれば、だいたいの場所が砲台に早変わりするんだ」


 そう説明している間にも、実際にアームが展開されていく。


 その姿はどこかクレーン車の展開動作を思わせるもので、実際、その様な説明を行っている。


 発想それ自体は装輪自走砲から着想を得たモノだ。


 自走砲のうち、とくにトラックのシャーシを利用したものの多くは車体で反動を受け止めることが出来ず、牽引砲同様に脚を展開して反動を受け止めるようになっている。


 列車砲開発においても、車輪とレール、枕木のみで全ての反動を受け止めるのは無理があると当初から弦能が疑問を呈していたので、クレーン車の様なモノを提案していた。

 それを試行錯誤して生まれたのが、目の前にある24センチ列車砲である。


 24センチ列車砲に搭載されているのは新開発の24センチ鋼線砲。長崎の鼻に据えられている臼砲然とした28センチ砲より長砲身となり、小口径化されたにもかかわらず、射程は鋼線砲として長砲身化することで伸長、駐退器まで備えて扱いやすくなっている。

 と言っても総重量はほぼ変わらず、簡単に運搬できるようなシロモノではない。


 やはり、要塞砲とするか艦載砲とする以外に使い道がないはずであったが、列車に積み込むと言う要望を弦能や翔が実現したことで、運搬、移動が容易になっている。


 アームを展開し、砲座に付属する天板が展開されて砲台としての形が出来上がるとウルプが驚くように声を上げる。


「なんじゃアレは。窮屈な砲台でマトモに使えんように思ったが、そうやって畳んでどこでも走れるようにしておったのか!」


 どうやら運用体制が整った姿を見て、列車砲の真価に気が付いたらしい。


 さらに砲台を90度旋回させ、射撃場へと指向すれば、もはや言葉は不要である。


「これは画期的じゃな。弾薬を積んだ貨車や兵車を連結して走らせれば、どこにでも防衛線を構築可能になるじゃろう」


 そう、操砲出来るように作業台を展開してしまうと幅は倍以上に広がるので、そのままの状態では専用線を敷かなければ移動できないが、折りたたんで一般貨車と同じ幅にしてしまえば、その必要はない。


 そのうえ、専用の貨車を制作する事で貨車上に旋回砲台を据え付け、わざわざ列車砲専用曲線の設置や専用転車台の建設などを行うことなく展開が可能となった。


 専用設備を作るとなるとどうしても、部隊の展開地点が制限されてしまうが、列車砲自体が旋回砲台を備えていれば、だいたいの場所へと展開が可能となる。


 幸いにも、都周辺の上陸適地は24センチ列車砲の展開を妨げる様な軟弱地盤や重量制限区間はなく、どこであっても展開可能である。


 強いて展開できない場所もないではないが、その様な場所は半島突端などの上陸困難な区間なので、さすがに考慮しなくて良いだろう。


「資村さま、展開完了いたしました」


 弦能がそう報告してくるので頷く。


 そして、弦能が指示を出せば、連結している弾薬車から砲弾や装薬が列車砲へと渡され、台車とクレーンを使って装填される。


「装填よし!」


 そう声が聞こえてくる頃には砲身が動き、標的に対して適切な仰角が取られていった。


 列車砲上できびきび動く兵員がサッと退避すると、ドンという大きな音と共に煙が列車砲の前に広がっていく。


 程なくして着弾場に設けられた目標付近で土煙が上がり、暫く後に爆発音が聞こえて来た。


 列車砲では最新の機構が組み込まれた砲座によって、発射して砲身が後退した後、前進と共に装填位置へと砲が下がっていった。

 欲を言えばどんな角度でも装填が可能な自由装填式が望ましいが、さすがにそんなことを24センチと云う巨砲にふさわしい130キロという巨弾を装填するのだから、人力装填の現状で採用するのは酷というもの。発射速度を一定に保つには、固定角装填の方が望ましいだろう。

 その代わりと言っては何だが、巨砲らしく精巧な機構を組み込んで、発砲により装填位置へ砲身を下げ、装填後に射撃位置へとレバーひとつで復帰できるように作られている。ちょっと凝り過ぎな気がしなくもないが、20センチ砲ですでに採用されている機構なので信頼性は問題ない。


「これは使えるぞ。サッと展開してサッと撃てる。そして、同時に連れて来た兵員や野砲によって敵を撃退する」


 ウルプもそう言って目を輝かせていることに、どうしても顔がほころんでしまう。


  

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