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大正乙女ノスタルヂイ~嗚呼、お嬢様がたはかく語れり~  作者: 高井うしお
四章 思い出ノオト

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閑話 冬の日②

雪が止むと、さっそく三人は手芸屋に毛糸玉を買いに行った。


「なにがいいかしらね」


「琴子さんはセーターでしょ。これなんかどう」


 万喜が差し出した毛糸は鮮やかな群青色だった。


 琴子は頭の中で、それを身につけた雄一の姿を思い浮かべる。


 はっきりとした顔立ちの雄一に、その色はぴったりに思えた。


「万喜さんはどんなのにするの」


「手袋だからお洋服に合わせやすいように灰色にするわ。甲のところに縄編みを入れたらどうかしら」


「いいわね、素敵」


 二人は毛糸玉を手に取って、さて……と美鶴を見た。


「うう~ん……」


 美鶴は細い眉を寄せてこの世の終わりみたいに唸っている。


「これなんかいいんじゃないかしら」


 琴子はそっと無難な茶の毛糸を手に取って、美鶴に勧めてみる。


 しかし美鶴は首をひねった。


「あんまり……ありきたりじゃつまらなくないかな」


 美鶴の返事に万喜ははーっとため息を吐いた。


「何言ってるの、初心者なのよ」


「だからさ、難しい編み方には出来ないし、せめて色を……」


「そんなちんどん屋みたいなマフラーなんか誰がするもんですか!」


 ファッションにはうるさい万喜の言葉に、やっぱりそうかと美鶴はがっくりとする。


「じゃあ美鶴さん、こういう段染の毛糸ならどうかしら」


 琴子が手にしたのは茶色にふんわりとコクのある赤色の色がかすかに混じったしゃれっ気のある毛糸だった。


「これなら編んだときに風合いが出ると思うわ。あったかい色合いもお兄様に合っているし」


「琴子~」


 我が友よ! と美鶴は叫んで抱きついた。


「さあさ、お会計しましょ」


 こうして、三人は毛糸玉を抱えて店から出る。


「こんにちはぁ」


「あら、いしゃっしゃい!」


 三人はそのまま真っ直ぐに三つ葉に向かった。


「さっそく買ってきたわよ」


 テーブルの上に毛糸を取りだして、万喜は挑戦的な視線をハーさんに送った。


「その前におしるこね!」


「はいよ」


 まずは腹ごしらえだ、と三人はほかほかのおしるこを啜った。


「さて、やりましょうか」


 三人は棒針を手にして、さっそく編み始めた。


「編み物は久しぶりよ」


「あら万喜さん意外ね」


 琴子がそう言うと、万喜は針を進めながら軽く笑った。


「服は好きだけど、作るのはそれほどじゃないもの」


「そうなの。私のとこは糸の産地だから、レース編みなんかもよくしていたの」


「あら、いいわね」


 話しながら、編み物を進めていると、ふと琴子は美鶴が妙に静かなことに気がついた。


「美鶴さんどうしたの」


 そう声をかけて琴子はぎょっとした。


 美鶴は毛糸を前に固まっている。


「ど、どうしたの!? 何もできてないじゃないの」


「琴子……編み物ってどうやったっけ」


 美鶴は途方に暮れた顔をしている。


 その手元には、何がしたかったのか分からない毛糸玉が転がっている。


「ここをこうして、糸を左手に……って授業でやったでしょう、美鶴さん」


「それが真面目に聞いてなかったからちっとも覚えてないんだ」


「困った人ね」


 これじゃ出来上がる頃には春だろうかね、と琴子は気が遠くなった。




 それから三人はせっせと編み物を続けた。


「雄一さんのサイズ合ってるか、北原のおうちにこっそり聞きにいったのよ」


「ここから縄編みをするつもりなの。意外と細かくて大変」


 賑やかにしつつも、二人の手はさくさくと作品を編み上げていく。


 その横で美鶴はまた難しそうな顔をして立ち止まっていた。


「美鶴さん、今度はどうしたの」


「え……と、なんか変になってきちゃって」


 琴子と万喜は美鶴の作っているマフラーをのぞき込んだ。


「あらこれ、目が落ちちゃっているわ」


「美鶴、おかしいと思ったら直さなきゃだめよ」


「でも、どうしたらいいか」


 二人とも、ガタガタになったマフラーを見つめて、これはどうしようもないと思った。


「残念だけど、いったんほどいた方がいいと思うわ」


 そう琴子が言うと、美鶴はハァとため息をついた。


「せっかく編んだのに」


「次はもっと上手に編めるようになるわよ」


 三人は、家や授業の合間はもちろん、三つ葉でのお茶の時間もずっと編み物をしていた。


「順調みたいね」


 その様子を見て、ハーさんが声をかけてきた。


「なんとか。ハーさんはどう?」


 琴子がそう答えると、ハーさんは自分の編んでいるセーターを持って来て、見せてくれた。


「年明けにはできあがりそうよ」


 ハーさんの作っているセーターは、琴子の作っているものよりも手が込んでいた。


 その出来映えに、万喜がワァッと声をあげる。


「上手ねぇ、ハーさん」


「ふふふ、そう?」


「ところで、これも、私たちのもいつ渡そうかしら」


 最初はクリスマス、なんて言っていたけれど、誰も間に合いそうにない。


「そうね……年明けの一月半ばに三つ葉の五周年の開店記念日があるのだけど」


「いいじゃない! そこで渡しましょうよ」


「いつもなにも大げさなことはしてないのよ、身内にちょっと記念品を渡すくらいで」


 万喜は、なら余計に都合がいいわ、その日に渡しましょうよと他の二人にも声をかけた。


「じゃあ、それまでに完成させなきゃ!」


「できるかなぁ」


 美鶴はさらに不安そうにしていたが、とにかくその日までに編み物を完成させることに決まった。



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