第7話
「なーんで穣がここにいるのよ!」
とりあえず二階の自室に穣を連れてくると、万喜は叫んだ。
さっきまで最高の朝を過ごしてご機嫌だったのに、その彼女の気分に水を差した肝心の穣はニコニコとしている。
「お父様とお母様にお姉様だけ遊んでずるい、と言ったら快く送り出してくれました。汽車のひとり旅もいいね」
ひとりで始発に乗ってきたのだろうか。万喜は頭が痛くなった。
「聡はどうしたのよ」
穣は三つ下の弟だ。万喜にはさらにその下に五つ年下の弟がいる。
「あいつは成績が悪くて追加の宿題が出たのでお留守番だよ」
父も母も長男には甘い、と万喜ははらわたが煮えくり返ってしまった。
「なにか僕がいるとまずいんですか?」
「そんなことないわよ」
でも、穣がいると調子が狂う。
万喜がそういう気持ちになるのを分かっていて、穣はわざと来たのだろう。
「だって、お姉様。この頃僕と遊んでくれないじゃないか」
穣はかわいらしく口をとがらせて見せたが、それにしても思い切りが良すぎる、と思った。
「あのね、私ももう十六よ。いつまでも子供みたいに遊ぶわけないじゃない」
「でもご友人とは遊ぶんでしょ」
「そらそうよ……」
そう言いながら、万喜は穣を本当に邪険にはできないのだった。
それにせっかくやってきた弟を追い返したりしたら両親から叱られるに決まっている。
「着いてきて。みんなに紹介するから」
「はぁい」
万喜は穣を連れて階下に降りた。
「ごめんね。弟が勝手にやってきてしまったみたいで」
万喜はとりあえず予想外の人間が混ざってきたことを詫びた。
「いいよ。人数が多い方が賑やかじゃないか」
清太郎がそういって周りを見渡すと、皆同意してうんうんと頷いた。
「穣くん、はじめまして。私は美鶴。いくつなの?」
「十三歳です」
美鶴の問いかけに、穣はハキハキと答えた。
「あなたが美鶴さんですか。姉の話でよく聞きます」
「へぇ、万喜はおうちじゃ私のことなんて言ってるの?」
「美鶴さんは外国人みたいに手足が長くてかっこいいって。本当ですね」
「いやぁ、ありがとう」
万喜は穣が変なことを言い出さないかハラハラしながらそのやりとりを聞いていた。
「その……一緒に遊んで貰えるかしら」
「もちろん!」
それを聞いて万喜はほっと胸をなで下ろした。
「ねぇねぇ、私は万喜さんはなんて言っているの?」
「琴子さん、それは悪趣味よ」
「ええ? でも気になるわ」
「やめてちょうだい! ……はあ」
万喜はやっかいなことになったとため息をついた。
「さ、穣のことは置いといて、今日はどこに行こうかしら? 予定では乗馬のはずだったけれど、それとも清太郎さんはお仕事でお疲れだし温泉とかの方がいいかしら」
万喜はお邪魔虫を忘れようと、早口でまくし立てた。
「そうねぇ、乗馬も興味があるけど」
琴子はちらっと清太郎の方を見た。
「清太郎さんは明日には仕事で帰ってしまうから、体を休めた方がいいのでは?」
「おいおい、美鶴さん。僕を年寄り扱いしないでくれよ。琴子が乗馬をしてみたい、というのならそうしようじゃないか」
清太郎は決まり悪そうに頭をかいた。
「そう、なら乗馬ね。この近くに牧場があるの。牧場主さんはいい方でね、馬術を教えてくれるの。こっちに来たときに寄る、ってお知らせはもうしてあるわ」
万喜はそう皆に告げると、新田さんに連絡をしに居間を離れた。




