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魔王とアン -まったりゆったり世界征服-  作者: しるどら(47AgDragon)
第2章 まったりのお披露目

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046 : ぼっちとリア充


 一瞬の間を置いて大歓声に包まれる会場。

 うむ、戸惑う有力貴族もサクラシエロの王族も拍手で称えるしかない。むしろ場のどよめきを抑えるために率先して。

 我のお披露目のためにわざわざ国を挙げて集まっておいて、コレを否定できるような状況にないからである。イベントが失敗すれば、そもそも集めた側の責任である。

 だとすれば目ざとい連中であれば利用する方に動く。


 なにせ、サクラシエロにまったくノーマークな有望株の登場である。コレを逃さない手はない。

 我の言葉が事実かどうかはどうでもよく、無能であっても操ればいいだけである。むしろそのほうが都合いいと考えて動く連中も多いであろう。

 打算と体面による既成事実の誕生である。


 マシュケの内政干渉を疑う輩もいるかもだが、公式には我とマシュケは関係ない。なにかあったとしても誰もどうにも出来ないし、もう事態は動いてしまった。

 まあ、これでだいたい準備は整ったといえる。


(……ななななんかすごいことになっているんですが?)


 耳と尻尾をぺたんと寝かして、この状況にすっかり怯えた犬が必死にすがってくる。かわゆす。


(笑って応えてやるのだ、なんか護国の要らしいのだぞ)


(ええええ……)


 しかたなく、しぶしぶ手を上げ所在なさげな笑みで応える王子。

 更にヒートアップする会場。

 更に真っ青になる犬耳。


(し、死にそうです……)


(死んだら生き返すから安心して死ぬがよいぞ)


(ひぃ)


 引きつりながらも、必死に歓声に応えておる。たぶん、いままでの人生すべての力を尽くして。

 顔面も頭の中もきっと真っ白であるな。


 うん、そしてすぐに色んな人が我らのところにすっ飛んできた。

 ここにマシュケの大臣殿が入ってないのは、なんかやらかすだろうことはわかっていたというのと、まあ下手に動くとあからさまに共謀っぽいからである。


 とは言えこれだけぶち上げてしまえば、それはもう、一緒にぶち上げられたい人が集まるわけで。

 2曲目以降(フリータイム)は、話すタイミングを取れそうな立場のやつから順に、容赦なく話しかけられることになる。


 まあ、こうやって目立たせてやることは出来るが、必ずしもいいことばかりではない。

 見られるということは、ひとりで大勢を相手にしないといけないことでもある。嬉しくないやつや、よく知らないやつの相手も含めて。

 向こうはこちらだけを相手にすればいいが、こちらの相手はたくさんである。慣れないと、どこまで対処していいのかよくわからなくなるのだ。

 つまり慣れる必要があるのでほったらかし。


 まあ、そんな犬を横目に高みの見物を決め込んでいたのだが。


「ふぅん、王族とはいえ末席でしょう? 彼がそれほどのものだって、そう思うの?」


 突然、我の前に割って入ってくる金髪エルフの女。

 先の貴族紹介からすると、アルレフェティアの王女というやつだ。マオリーシェ姫といったか。

 その均整の取れた肢体を惜しげもなく晒すような大胆な服。しかも魔道士の匂いを隠そうともしない。その魔力充填120%っぷり。


 なるほどこれは自信家オブ自信家。横柄にして大胆、やりたいことはなんでも出来ると思ってそうな態度。それでいて、引くべきところはわきまえ、施しも大盤振る舞いもしそうな切れる雰囲気だ。どことなく憎めなさそうな感じが、またずるい女であるな。

 ひとことで言うなら、ザ・リア充って感じの。


 こういうのは住む世界が違いすぎるせいで、悪気なく我みたいなぼっちや引きこもりを殺しにかかってくるので、個人的にはあまりタイプではない。

 友人関係を育み、自分を活かして当然、様々なことを楽しいと感じていられるからだ。


 我らのようなぼっちは違う。

 人間関係に悩み、自信などなくて当然、物事の意義についていちいち鑑みるからだ。

 世界の空気が自分を傷つけてくるような違和感を感じながら丁寧に模索して悩み続ける。そこに、なんとかなるからと傷を無遠慮にえぐってくるのがリア充である。

 アレだ、冬の朝とか一番寒いときに、おたまでガンガンとフライパンを打ち鳴らして布団剥ぎに来る感じ。

 連中はそれがいいことだと思ってるから始末に負えない。布団から出ていくのはすごくツライことだと理解しないまま、ぼっちを寒空に放り出そうとするのだ。


 つまるところ、いいことだと信じるのはともかく他人の価値観も尊重してほしいだけであるが、現実が充実している連中は他人の価値観に無遠慮なことが少なくない。特にこの女は典型的なそれであろう。


 とはいえ、まったり道としては、先入観で好き嫌いするというのはよくない。

 やはりここは意図的に殺るべきである。リア充死すべしである。


「ふむ、エルフの姫よ。其方には、あの王子が凡夫のように見えるのか? 案外見る目がないのであるな」


 もともと適当に王子を格好つけるために言っただけなので、すごく見えないほうが普通だと思う。実際、いきなり持ち上げられて真っ青な青年が、内心は冷や汗ダラダラで対応しているだけであるし。

 だが、向こうからの仕掛けた喧嘩を買うにはいい言葉であろう。この程度、気にもかけないだろうが。

 それにこの高慢美人、きっとこの位置取りからすると、話に紛れて我を王子から引き離す気でいる。抜け目なく優秀なことは確かである。


「あら、覚えがよろしくてありがたいわね、自己紹介の手間が省けて助かるわ。でも、そうね……わたしならこれは取らない手でしてよ。後始末まで本当に出来る気でいるのかしら?」


 黄金の微笑。こちらを探るような視線でいながら、一定の距離はおいた状態。からかうでもなく喧嘩でもない。でも、平手打ちのような強い挑発である。

 つまりは、なにか話を持ってくるつもりだ。


「前置きはその辺にして用件を言うがよい。なにか魂胆があるのであろう」


「さすが賢者、話が早くていらっしゃる。まあ、ハッキリ言うと、わたしのものになりなさいな。なんかやりたいことあるんでしょう、やらせてあげる」


 魅力的な笑みを振りまきつつ、自信たっぷりに語ってくるエルフ女。

 面倒くさいことは受け持つからうちに来い、と。


 あー、これ一番アレなパターンだ。

 趣味はさせてやるから、仕事しやがれってやつであるな。

 一見いいように聞こえるが、つまりバックアップしてやるから奴隷になれ交渉であるな。

 友達って言いながら厄介事頼んでくるとか、こっちもお金出してもらってるのでなかなか断りにくくなる感じのやつ。それでいて、めんどくさくなったら向こうの都合でポイする感じの。


 ここは女同士のダメでシモネタな感じを匂わせてご遠慮願おう。 


「ヤらせる、か。そういう趣味はないぞ、たぶん」


「ええと……そういう話ではなくてよ?」


 これだけの器量であるからして男からも女からもそういう要求はあるのか、案外サラッと意味深なネタを流しおったな、くそう。

 美人のイケイケエルフ女が少し余計な想像をして恥ずかしがるところが見たかったのに!

 しかたがない、間違った(ただしい)方向に話を進めよう。


「そういう趣味というのは我のことではなく、其方が、だ。我が其方を所有するのが望みとか、あれするとかこれするとか、あまつさえ×××とか、そういう無茶振りにごーじゃすでらぐじゅありーな金髪エルフお嬢様が応えられるものでもないと思うぞ?」


 別にそういう趣味があるわけではないが、仕事柄一通りは全部知っておる。


 そもそも死霊術や呪いなどは、他人の体の隅々まで調べきってなんぼである。

 最初は骨人形スケルトンひとつこさえるだけでも、どれだけ苦労すると思っておるのだ。200もの骨が勝手にくっつくわけじゃないんだぞ。

 そしてさらに先へ進もうと思えば、今度は筋肉や血管や神経、肌なぞをさらに加えることになる。もちろん、素敵によくわからなくなる。いちいち覚えてられるかって思う、覚えたけど。

 つまり、なにもない幽体から実体化するほどになるのであれば、人の体がどうなっておるかなど、意識せずともわかっておるのだ。わかっておるのだぞ。わかるまでにどれだけ泣いたかと……。


「ちょっと待って待って。どこからそういう話に?」


 無駄に実感のこもった我のセリフに恐れをなしたのか、エルフの姫からストップがかかる。

 うむ、危うく脱線するところであった。感謝。


「まったく……好きなことをすればよいと言ったのは其方であろう。その条件であれば、ぶっちゃけ我が其方を好き放題した挙句、手篭めにして使いまわしてもよいであろうといっておるのだ。それに、極論はさておき、我の無茶振りとか適当でアバウトとかまったりが其方の想像を超えておると思うのでな」


 うむ。向こうの表情が、いきなりなにを話してるんだこいつ大丈夫か、という感じになってきおった。

 リア充には理解できぬ範疇であるからな、こういうの。


「なるほど……つまり、私じゃ不服ということ? 随分とハッキリ言うのね」


「王子はなにも出来ぬのに、無茶振りを全部飲んだであろう? いまもその結果に対して必死に応えておる、己の意志で。」


「……!」


 なにも出来ない王子のほうが、素敵完璧超人のエルフ姫より上。

 暴論ながらもそう突きつけられると、さすがの無意識高慢女にもわずかながら動揺が見える。意識しているところではない異世界の指摘であるので、基準がわからないのであろう。

 リア充文法ではなにを言われているか微妙にわからない違和感があるものの、なまじ頭がよく回るから、決定的な違いを示されたことは理解しているのであるな。


 考えてみれば明確なのであるが、考えたことがないからわからないのだ。


 王子にはすでに義務は終わったのだから、本来、ずっとこの場に残り応え続ける必要はない。我のお披露目と紹介が一通り終わった時点で奥に引っ込んでもよいのだ。

 なのにこの場から離れないのは、ひとえに「なにかに応えないといけない」いう義務感と強迫観念からである。リア充はコレを意識しないまま日常として行動するが、ぼっちはコレを強く意識する。


 場に立つ、というのは、もともと非常に勇気がいることなのだ。勇気も覚悟もなく自然に立ててしまうエルフの姫様とは違う。

 水は怖いものであり、自然に泳げてしまう者は溺れる怖さを知らない。

 だが、うまく出来てしまうことは、それゆえにどうしてうまくいくのかを確かめられないもので。


「なるほど……言いたいことはわかったわ、それならそれで。まずは善い友人でいる、という感じでいいかしら?」


 なるほど、差し込まれているのをわかっていながらノータイムで立ち回りを変えてきた。この辺の切り替えの速さはさすがであるな。

 なびくものではない、と知った瞬間、敵にするにしろしないにしろ、コミュニケーションを取ってくる。これはリア充の強さであるといえよう。


 ぐぬぬ、と思ってもやり過ごすどころか、むしろ積極的にアプローチする、というところは我にはない。

 長く生きておる知恵で、ひたすらあっちこっちと引き伸ばした挙句、ぐるぐる巻きにして街中を引きずり回してから処刑台に晒すだけである。

 コレは褒めるに値すると思う。普通、もっと動揺するものであるし。


「構わぬぞ。知り合いが多いに越したことはない。特に、其方のような美人で姫、かつ魔導にも長け、交渉も上手いとなれば」


 一応、フォローもしておく。

 実際、これだけの立場と能力があれば、こうなるのも仕方ないところもあるのだし。

 しかもスタイルもいい。おのれ。


「ふふ、いまさら世辞? ありがたく受け取っておくわ、こまっしゃくれた賢者さん」


「率直な感想を述べたまでだ。其方、優秀すぎるのでな」


 そんなこんなで、エルフの姫とは笑顔で固い(とってつけたような)握手(あいさつ)を交わし、友となった。

 うん、たぶん敵だこいつ。憎めない感じの。


 まあ、そうした出会いがあったものの、舞踏会はつつがなく終わりを告げた。

 王子のボロがあまり出ないよう、いろいろ立ち回る必要はあったけれども、なんだかんだ言いつつわんこもやりきりおったし。

 なので、適当にああ言ったがたぶんなんとかなるであろう。よきかなよきかな。


 むしろ貴族王族の中にあってコレだけの逸材が見つかるとはありがたい。周囲も本人は気づいておらぬが、なかなかに優秀な素質を携えておる。


 素直で権謀術数に染まっておらず、普通は言えないような無茶も言うし、どうしようもない状況でも真っ青になりながら踏みとどまる。

 それだけで十分すぎるのである。


 あ、マシュケ大臣には後でこっぴどく叱られました。

 まったく声を荒らげないまま、すげー怒ってるけど超絶静かなやつで。


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