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魔王とアン -まったりゆったり世界征服-  作者: しるどら(47AgDragon)
第2章 まったりのお披露目

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045 : 黒百舌わんころ王子


 そして、本日最大のクライマックス、我のパートナー(ぎせいしゃ)選びである。

 最初に誰を選ぶかで、そいつまで主役級になるという、大変ありがたくも厄介な話ともいう。

 そんな強制命令(しけいせんこく)を、こう、準備もしていないだろう相手に放り投げる。


「では、我、オルレア=ウェインシュタットは、お相手として……僭越ながらサクラシエロ王子、黒百舌クロモズ殿下に一曲お願いしたく存じます」


 黒百舌殿下、サクラシエロの特徴である獣人の例に漏れず、犬っぽい若者である。


 年の頃は10代後半。青みがかった黒髪で、あまり背が高いわけでもない。まあパッとしない。

 それはもう素敵に第12王子。端っこも端っこで、葉の先についた水滴の上のゴミのような、かなり微妙な感じ。おどおどした感じが、愛でるかいじめるかするには最適であるのだが。


 おかげで一瞬にして場が凍った。

 氷魔法が得意なわけではないのだが。


 この犬耳殿下、あとで聞いたところによると妾腹の不肖な王子だそうで。

 なんと驚くなかれ継承権第53位、まさにノーチャンス王者の座をほしいままである。

 それほど顔が悪くない以外はまったくもって微妙。存在感もなく、王族とは名ばかりの立場すぎて、うらやまれるどころか疎まれすらしない。誰からも請われず、気にもされない青年。

 ついでにいうと、頼りなさげで責任感なさそうな感じ。そもそも責任のあることをまかされない。


 その場に居合わせたものは、誰もがその名を口にすることはないと思っていたのであろう。

 あまりのことに本人は呆然。

 そして、我に選ばれようとしていた貴族たちは愕然とした。


 この王子、王族として扱うには微妙。血縁としてあまりに弱く、お近づきになる意味も薄い。さりとて問題を起こすわけでもない以上、軽々しく扱うわけにもいかない。

 血筋ゆえにすべてを捨てて平民にもなれない、貴族と王族の中間の生命体。

 冷めた目で、微妙に日の当たらない裏路地ばかりを見るハメになっている若者。


 うむ、これ以上なく最高の人物である。

 ちなみに、こういうときに運命の出会いとかいっておくとちょっとかっこいい。たぶん。


 そんな若者に、3国共同開催による舞踏会主賓の誘いである。

 王族ゆえに国の威信が関わるという、断る訳にはいかない状況。

 だが、自身が世の中に対して輝くことが出来るきっかけにして究極の一択。

 目の前に突然現れた、神が与えたもうた偶然のチャンス。

 もはやゲットするしかない、目の前にあたりと書いてあるくじを引くだけの状態。


 誰もが注目するそんな状況の中、頼りない顔で、黒百舌の犬耳王子はおずおずと答えた。


「えー、あー、うん……その、すいませんが、つつしんでお断りさせていただければと……」


 うーあー。

 これはもう素敵なぐらい、容赦のないお断りであった。

 アウトオブアウトな対応に、周囲はそれこそ真っ青(どんびき)である。


 まあたしかに、この立場でダンスが趣味でもないであろうから、自信もなしに踊るか、国の威信をめちゃくちゃにしてでもお断りするかどうかという二者択一である。

 端的にいうと、なにやっても地獄の答えしか無いのであれば、巻き込んでしまえと思っても不思議はない。もしくは単にくるくるぱーで気がきかないか素直なだけかもしれない。

 とはいえ、このままでは空気の読めな(あたまのわるい)い王子様(くされわんこ)総選挙ナンバーワンまで獲得してしまう。。

 さすがに放っておくと色んな所に迷惑がかかるので拾っておこう。


「なるほどなるほど、これは奥ゆかしい。そして大変失礼いたしました」


 我は、頼りない王子に近づくと、そのまま笑顔でひざまずいて、下からやさしく手を差し伸べる。


「王族ともあろうものが、突然に現れた、ドコのものとも知れぬ賢者ごときに上から目線のように誘われ、それを当たり前のように受けたとあっては国の威信に関わります。これはこれは、やはりたいへんご慧眼であらせられる」


 と同時に、へりくだって頭を下げつつ満面の笑みのまま、周囲にはわからぬよう当人にだけ聞こえるよう秘密の会話。


(うむ、受けなければ死なーす)


(は?)


(真綿で優しくもふるようにハンギングツリーからの天空大雪山落とし)


(えっ……?)


(だいたい思いつく限りのひどい目に合わせ、いい感じに生き恥をさらさせてから、夢も希望もなくして細々と生きながらえさせる。悟りつつある廃人寸前にしてから転生させ、記憶のあるままにささやかな幸せからこの世の無常を3回ぐらい繰り返す。無力さに神を呪うくらいの奴)


(いやその……ちょ……待っ……!)


 うむ、見るからにうろたえておる。

 可愛いのう。

 本気でやるならこんなもの手始めに過ぎぬのだが、マジ泣きさせてしまうからな。


イヤなら踊れ(ゴー・トゥ・ヘル)


(あ……あ、あ……)


 ひと思いに殺すとかだと、この手のやつはむしろいっそやってくれ気分になるかもだが、苦しみが延々と続くとなるとやはり別であるな。

 まあ駄目なら駄目でまだ手は2つ3つあるのだし。ひどいことならお手の物なのだぞ。


「ではあらためて。お受けになっていただけますか、殿下」


 前にもまして満面の笑みの我。


「え、あ……はい。よ、よろこんで」


 前にも増して顔色を失った犬。


 ほっとする周囲。

 ぞっとする本人。


 うむ。声がかすかに震えておるが、きっと奇跡のような歴史的めぐりあいに緊張しておるのであろう。

 さすが王族ともあろう御方は末席とはいえ、一味も二味も違うのである。


 そして、手を取り合い、舞台の中央に出るふたり。

 曲が流れる間は、すべてが我と王子のためだけにある時間である。


(ですが僕……ろくに踊れないですよ!?)


(まかせておれ、悪いようにはせぬ)


 それもそうだ。だいたい千載一遇のチャンスをお断りするほど舞踏会に興味が無いという時点で、己の境遇に希望を見出していないか、不承不承ながら泣き寝入りをせざるを得ない、という確率が高い。

 こういう場でヘタにお誘いを受けてしまったら、この先どういった嫌がらせと挫折と後悔の嵐が待っておるかわからないゆえのお断りなのだ。


 そんな輩がダンスの練習などするかというとそんなわけもない。こんな権力闘争の遊び場に、希望など求めておらぬからそうなるのであろうし。

 それに、己の人生などないも同然だと感じてしまうからこその泣き寝入りなのだ。こんな鉄火場に合わせる努力などしたくもないであろう。


 うむ、わかるぞ。

 ぼっちはぼっち故、己さえよければあとのことはどうでもよくなるものだ。社会は己を受け入れないのだから、己も社会を受け入れる必要はないと考えても不思議はない。

 この場で誘いを断るような性格ならなおさらである。


 だからといって我のように魔王になると、また別な気はするのだが。


 それはそうと、すでに必要な手は打ってある。

 踊りは頭で理解しても、体で理解するには時間と反復が必要なのだ。どうせ付け焼き刃で、少々フォローやカバーしたところで仕方がない。 

 ということで本人の都合は華麗にスルー。


(さあ、いくのであるぞ)


(っ……体が!?)


 つまりは、だ。強制的に操るのが一番手っ取り早い。

 なので、衣服にだいぶ特殊な呪を編み込んである。一緒に踊る者は強制的にダンスが上手くなるという、舞踏強制ドレスである。ちょっとこう、ダンスのうまくて教えたがりな死霊連中にお手伝いしてもらうだけである。

 

 ちなみに拒否権はない。

 もちろん次の日の筋肉も保証しない。


 なお、ついでに体の操作権だけでなく、精神もちょっとアレするよう仕込んである。

 でないと精神が体の不均衡に耐えられなくなって、ぶっちゃけ気持ち悪くなる。

 ダンスの最中に戻されてドレスを台無しにされても困るので、ふわふわした軽い酩酊状態のような気分になるのだが、こういう場ではかえって問題ないであろう。


(……なんだか、不思議な感じです)


 夢心地、という言葉がふさわしいであろう。

 本人の意志にかかわらず、突然の抜擢に、完璧で誰もが羨むような華麗なダンス。

 王族の末席も末席で、誰もがノーマークだった日陰者の青年が、たとえ一時であっても社交界の主役になったのだ。


 まあ、見向きもされない、かといって見捨てられもしない立場からすると大事件であろうと思う。

 天にも登りそうな時間を過ごしているような気がするかもしれない。


 こういうの、いたいけな青年をかどわかすにはもってこいだと思う。


 だが、夢で終わってもらっては困る。マシュケ同様、様々なところでに味方を作る必要がある。

 これはその一歩でしかないし、そのためのまったり大会なのだ。


(身を任せたまま付きあえ、これは、始まりだからな)


(はじまり?)


(うむ、まあコンゴトモヨロシク)


 よくわかってないらしい感じのまま、我と踊る黒百舌王子。

 ある意味、コレはレッスン1でもある。


 実際にどうするべきかをトレースする、という体験は大事なのだ。

 物事というのはどんなジャンルであっても、ほとんどの修行は手順の模倣から行う。そして、手順というのはそれぞれ個別の違いはあっても、ある種の共通性があるのだ。

 要点を踏まえ、必要な認識と知識でそれを実行出来る、というのが成功の基本といえよう。


 ゆえに、こうして強烈に印象的な体験をさせておく、というのはきっかけとして重要である。

 高名な人物も、有名人に強く憧れていたなどという話は山ほどある。

 なんでもよいし、とりあえずやってみてうまくハマればそれでイケるのだ。世の中そんなもので、ダメならまたなんかすればいいんじゃないかなと思うし。

 ただ、「やってみる」というのが初心者にとっては高確率で失敗するものなので、思っているより難しいだけである。


 一度でも「強烈ななにかを感じる」ということがあるかどうか。

 感動して泣くでもいい、心奪われる光景を見たり、寝食を忘れるほど熱中するでもいい。それだけで人は幸せなのだ。きっかけひとつで生きていけるのである。


 そんな特別な時間も、もうすぐ終わる。

 いつかは目覚めなければいけないのだから。


(今日は……どうもありがとうございました。まるで夢のようです……)


(言ったであろう、むしろこれからだぞ。覚悟するのだ)


(……?)


 よくわかっていない王子をそのままに、やがて曲は終わりを告げ、舞踏会という現実に帰ってくる。


 だが、夢は実現に向かって歩むから夢であり、遠くから眺めていても、それではただの憧れでであって。うまそうな食事を横目に、いいなあとうらやましく思うだけにすぎない。

 であるからして、夢はまず、出来る出来ないにかかわらず手元において目指すべきである。

 出来なかったら都合の悪いことは全部うっちゃればよい。他人の意見など知ったことか。己の夢は己が決めるのだ。自信の有無や現実味など関係なく「夢だから」という言葉で全て肯定するし出来るのだ。夢ばんざい。


 ということで本人が望むかどうかにかかわらず、夢は後押しするのである、いえーい。


 曲の終わりとともに、ふたりで会場に向かって深々と礼。

 そのまま油断している王子殿下の手を取り高々とかかげる。待ったなし。


「コレにて確信しました。黒の賢者、オルレア=ウェインシュタットはここに宣言します」


 なにごとかとざわめく会場をよそに、凛とした声で言い放つ。


「黒百舌公は、この国にとってなくてはならぬ百年にひとりの天が遣わした逸材。まさしく建国王の再来に等しいほどの、護国の要であります! 我はこの、新たなる英雄を祝福し、星の導きに感謝したいと思います」


 うむ、いまさっき踊っている間に適当に思いついたのだが、こんなところであろう。

 建国王などよく知らぬが、たぶんそれっぽいハズ。


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