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魔王とアン -まったりゆったり世界征服-  作者: しるどら(47AgDragon)
第2章 まったりのお披露目

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044 :  レディース&ジェントルメン

 時がたつのは遅い。

 早いというものもいるのだが、それは忙しいやらなんやらで日々を過ごしている内にいつの間にやら時が過ぎ去ってしまう時に使う言葉である。待たされるときは、5分ですら結構長い。

 それを昼前から延々と準備させられ、あまつさえ部屋待機と言われてしまえば、もはや軟禁であり放置プレイである。ひとことでいうと、それはそれはヒマでヒマなのである。

 特に「やることもない時間」と「他人の都合」という社会的な封印に縛られるのがいただけない。


 だが、ついに舞踏会本番が来た。

 南部3王国が同時に集うこの会場は、それこそサクラシエロの国威と格式が問われる一大イベントである。

 荘厳にして豪華絢爛な東洋風の意匠の凝らされた国一番の大ホールに、競いあうように着飾った各国貴族の代表が集まり、それはもう素晴らしくも気品あふれる格調高い催しとなっている。

 いかに金の奮発具合と立場で発言権が買えるかの戦争ともいう。

 たぶん、うまく立ち回って奇襲をかけるか、正攻法で堂々と殴りに行くかという部分も割りと似ていると思う。


 そんな催し物であるので、順序は大事である。

 有力貴族ともなればレッドカーペットでの個別紹介というところで、我は王族と同じに中央階段から優雅に登場。しかも予定ではいちばん最後、大トリでの段取りとなる。

 開催国であるサクラシエロ王族以上の扱いというのは、それこそマシュケの力の入れようである。

 主賓であるということを抜いても、我を持ち上げることはそのままマシュケの国力を表すことになるのであるから、まあ平和な代理戦争であるな。


 逆に言えば、ずいぶん大きく張ってくれたということでもある。

 箸にも棒にも掛からぬかもしれないような我に、国力を注ぎまくって権力で殴るということをするのはよほどのことでもある。おそらくこのイベントの大きな部分でだいぶマシュケが出資しているのであろう。

 いくら、我が貴族階級や官職に関係のない立場だとしても、コレではもはや南部3王国に対する英雄みたいな扱いであり、一介の賢者ごときをいきなり持ち上げるには少々やり過ぎである。

 マシュケ国内で国家重鎮クラスの人物が足元を見られて我にボコボコにされたので、どうせ金を使うのであれば、ついでに他国に牽制も兼ねてやるだけやってしまおうという魂胆なのかもしれない。

 とりあえず我としては、その辺の事情は最大限利用させてもらった上で、登場までに下調べを済ませ、誘う相手を決めておく手はずである。


 アンがそんな会場の様子や段取りを見て、感心したようにつぶやいてくる。


「なんか、舞踏会と言っても、合同開催ともなるとなかなかにすごいイベントですね」


「国と貴族同士の見栄による権力争いというのは、派手さを祭りと思って楽しんでおればよい。我としては、そんな思惑をありがたくいただくだけであるのだ」


 なんぞ優良物件がないかと、影から覗き見しながら適当に答えておく。

 まあ、素敵にマシュケの意図も見え隠れするので、きっと肩透かし食ったら大変だろうなあと、ふんぞり返りつつ他人事のように思う。他人事だし。


 所詮、他人の都合は他人の都合であり、そんなものに流される必要もなければ乗っかる必要もないのだ。乗りたければ乗れば良いし、流されたければ流されてやっても良いが、向こうが勝手にお膳立てしたことにハマってやる必要もない。


「いつも思いますが、そういうところホントに好き放題ですよね」


 アンはこう、案外こういうところに場馴れしておる割には、微妙に苦手な感じがあるらしく、あまりこういった権力争いの様相は好まない気もする。

 こう、見た目の妖艶さに反して真面目なのだな。


「なにおう。我は品行方正、公明正大にして、傲岸不遜ごうがんふそんであるのだぞ」


 ふんぞり返りつつ答える。

 ない袖は振れぬが、ない胸でも張れるので、己の行動に自信を持っておくのは大事なのだ。


「あまりに自分基準な自称公平すぎませんかそれ」


「まあ、大体みんなそんなものである。それ相応に自分で正しいと思っておるのだが、その実、結局は自分勝手な独自基準であるにすぎぬのだ。それを、他人にどこまで受け入れてもらいやすくするかどうかという話でしかない」


 人の数だけ正しさがあるのだ。

 だが、正しさで殴りあうと争いになる。

 正しいのに、なぜか人が泣いたり苦しんだり、時にはたくさん死んだりする。

 なので我としては、正しいゆえに引けなくなってしまう前に、正しいとか正しくないとかで判断しないのも大事だと思うのだ。

 正しいのに悲劇になってしまうのは、たぶん正しくない。正しいというのは意外と間違っているのだ。


「オルレア様の場合、だいぶアレな基準な気もしなくはないですが」


 わかっているけど納得してはいけない気がするという、アンの気持ちもわからなくもない。

 うむ、我は随分とアレだからな。


「選択とはすべて、ある基準に照らし合わせて一方的に判断する。つまりは独断と偏見という名の下に平等であるのだ。なら迷惑が許される範囲で好きに選ぶのが楽でよい」


 たとえばコンテストなどがいい例だ。

 機会こそ均等だが、審査側が一方的な理由で自分の基準にあったものを選出する、という点においてきわめて明快な、公平という名の不平等である。

 多くのことは、まったくもって理不尽かつ暴力的なまでに勝手でアバウトな選択であることが、実際には、かえってフェアで公正であるので、不思議なものであるな。


「そんなものですかね?」


「そんなものだぞ」


 ふーん、という感じで返されるが、世の中というのは決める人がいてこそ、なにかが決まる。

 意見を集めようとみんなで決めようと、判断はいつも誰かの主観であり、ある種の偏りである。


 例えば今回の、我が探している若者のように。

 ただ、当初予定していた適度な相手は、名前を呼ばれないものも含め、会場中を探してみてもこれという感じのがいないっぽい。


「……しかし参ったな。どうも規模が大きすぎて、逆にめぼしい奴がいない気がするぞ」


「えっ? ……大丈夫ですかそれ」


 見つからないと聞いて、アンが心配そうに覗き込んでくる。

 それもそうだ。舞踏会であるからして、最初に誰を誘うかですべてが決まる。

 つまり、今日の主役が誰かを選ぶかの権利を最大限に活かした、いきあたりばったりである。

 それまでに誰かナイスな奴がいなければ、強制的に、あたりさわりなく格式にふさわしい相手を選ぶしかなくなる。


 だが、困ったことに舞踏会の規模が大きすぎて入り切らず、どうも弱小貴族連中があまり多くないのだ。

 要は、積極的に参加できる有力貴族だけで参加が絞られておるのだろう。

 開催国であるサクラシエロの貴族はやや多いが、それだけである。めぼしい感じのやつがいるかと思えば、そういうわけでもない。


 かと言って、地方有力貴族や辺境貴族のご子息がよくハマる感じに一旗揚げよう的な野心たっぷりすぎると、これも結構めんどくさい。

 そういう連中が都会に来ると、がんばった見返りとして、権力という鈍器に縄をつけて振り回したくなる事が多い。あと、街では権力を着ればいいとか思ってるらしく、裸のまま歩きたくなるっぽいのも勘弁してほしい。まわりは危なっかしくてしかたがない。


 いやまあ、それはそれで、他人にわからないように殴っていうことを聞かせるとか、もっと殴っていうこと聞かせるとか、さらに殴っていうことを聞かせるとかやりようはあるのだが、それでは600年前と同じである。

 あまりまったりしておらぬのでいただけない。


「ううむ……この人数でまったく見つからない、というのもない気がするのだが」


 だいたい、人を見る目はある方なのだ。

 というより、我みたいな死霊術師は人を見る目がないと、すぐに捕まってえらいことになる。

 だが、参加者紹介はどんどん進んでいく。残り時間はそんなに多くない。


 アンがやや不安そうにしつつも、できるだけ邪魔にならないよう我の様子を見ている。

 我が少々揺らぐだけでこのような思いをさせてしまうのだと考えると、むしろそっちのがあまりよろしくない。


 ……あらためて条件を整理してみよう。

 必ずしもそうでなくてもよいが、できれば世間に抗う気概と趣味人的な気質。あえていうなら、くすぶったやる気があるともっといい。

 このイベントを興味なさそうにしているか特に注目も寄せていないようなやつがいいのであるが、ここにいるのは千載一遇の好機とばかりに、目を輝かせておるものばかりである。

 たしかに、突然に降って湧いた「我という宝石の取り合いイベント」であるから、わからなくもない。


 のであるが、それでもそういった人物はいないものであろうか。


 そして、紹介はやがて有力貴族から、マシュケの大臣、アルレフェティア王女、サクラシエロ王族と進んで……時間が刻一刻と過ぎ去っていく。


 ふむ、ちょっと待てよ。これはこれはもしかして。


「ほう……なんだ、いい感じのやつがおるではないか」


「おお、それはなによりです!」


 ピシガシグッグッ。

 アンと一緒に喜びの拳を交わす。


 考えてみればなかなかに盲点であった。

 立場がありながら立場がないもの。

 たしかに条件的にはピッタリの上、むしろ都合がいい。完璧である。

 思い込みのせいですっかり見落としていた。


 コレでアンも安心したことであるし、我も気持ちよく胸を張って登場できるといえよう。


 そしてついに。

 本日最後である、我を紹介する声があがる。


「本日の主賓、マシュケ市民の救世主にして黒の賢者、オルレア=ウェインシュタット様ご入場!」


 ひときわ特徴的なファンファーレに、もっとも名誉ある中央階段からレッドカーペットで我の登場。

 これぞ本日のメインイベントである。


 我は、アンとクェルを従え、ここぞとばかりに着飾った漆黒のドレスを見せつけつつ優雅に登場する。

 衆目が集まり、万雷の拍手と喝采をもって迎えられた。


 どこの馬の骨かと思ってみれば、一級のドレスに身を包んだ美少女と美女と美幼女である。この場では見た目が武器なのだ。美しさは剣、ドレスは鎧である。

 所作については我とアンは問題なかったし、クェルは見た目と裏腹に、動くことに関して学習能力が異常なまでに高い。この程度の所作を覚えることなど造作もない。

 おかげで、我らに期待していた連中も失点を探していた連中も、全員が目を奪われていた。


 そんな周囲の空気をやんわり制すると、我による至高の挨拶である。


「ご紹介に預かりましたオルレア=ウェインシュタットになります。本日は、お集まりいただき恐悦至極に存じます。このような栄誉ある紹介に預かりましたこと、マシュケ市民に代わりまして、篤く御礼を申し上げるものであります」


 よどみのない言葉、堂々たる態度、そして一礼。

 賢者として、そしてマシュケの名に恥じぬ社交界デビューである。

 これくらいやっとけばたぶんマシュケにも義理は果たしておるであろう。


 まあ、タネを明かせば、我はこうしたイベントに慣れておるだけの話なのだが。

 魔王のころにいろいろやっておいてよかったと思う。魔王だいじ。

 誰もが子供の頃に憧れたりする有名職であるのだし、やはりできれば一度くらいはやっておいてもいい総合プロデュース職でもあるかもしれない。なにより、自分に足りないところがどこだかわかったりもする。


 人生のキャリアアップとしておすすめできる、いい仕事であると思う。


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