042 : 舞踏会当日2 待ちプレイ
舞踏会。それは社交界における武闘会でもある。
平たく言えば、華やかな衣装を身にまとって、社会的な暴力で殴りあう場であるからだ。
困ったことに、社交界というのはお金と権力と立場の奪い合いなので、とにかく持ってる奴が強い。レベルを上げて物理で殴る戦いと言える。
なので、注目人物という立場であるだけで優勝候補である。
主賓ともなれば、もはや前大会優勝者レベルである。しかも、トーナメント勝ち上がったやつだけが初めてそいつと戦えるみたいなの。すごい。
そんな、どうしようもなく強力な立場を与えられているのが、我と言えよう。
なにせ主催者の推しキャラであるので、圧倒的ステキ無敵である。つよい。
ただし、めんどくさい。
こうやって、アンやクェルともども、もったいぶって会場に出してもらえないくらいには。
出場者である以上、大会ルールに逆らうことは出来ないのである。まあ、チャンピオンであるから、どうしてもメインイベントまで出てこれないのはしかたないところではあるのだが。
もう少し端的に言うと、ヒマである。
とにかく、それまではなにもやることがない。舞台裏でひたすらベンチを温めるだけである
つまみ食いも出来なければ、ちょっかいもかけられない。その上、正当な手続きなだけに文句も言えないとなると、愚痴を言うしかない。
「ひまーーーーうわーーーーー」
とくに何か出来るわけでもないので、うだうだするしかない。
しかも、騒ぐにも大騒ぎも出来ない。
控え室のいかにも豪華な椅子の上で、わかめこんぶのごとく謎の暗黒舞踊を舞いながらじたじたするしかない。
「いや、それは見ればわかりますから」
「だってヒマなのであるぞ! やることないのだもの~~~!」
アンに思い切り呆れられるが、ドレスなのでごろごろも出来ないのだ。
ただでさえなにもやることもないのに、だらだらも出来ないとなるとだいぶやってられない。
せめて、人間観察とかしたいのである。
チラ見とかのぞき見とか盗み見とかしたいのであるぞ!
これだけの大イベントだというのに、主役がどんなうわさ話されてるかを見ることすら出来ないというのは、どんな拷問なのだろうか。
こういうとき、なにかいじっておれば気がすんでしまうクェルはずるいと思う。
「せめて遠見とかできればいいのであるが、ほぼ魔法禁止であるからな……」
「それはそうでしょう、変に操られた人とか危険物とか、ほいほい入れるわけにもいかないでしょうし」
舞踏会において、魔法関係はかなり制限される。
アンの影術や狐巫女みたいに特殊な見方でもすれば別だが、あれはどちらも相当に変わったやりかたである。
それにあまり変なことすると、余計なことまでバレる。
別にバレる分には構わないのであるが、今回は立場上、いろいろなしがらみでばっくれるというわけにもいかないので困る。だいたい物理的に。
「他人と話もできなければ、見物も散歩も出来ぬ。籠の鳥なのであるぞ」
「気になるのはわからなくもないですが、どうせいろいろやらかすんですからすこしは我慢してください」
やれやれ、とアンに諭される。まるで、我を放っておくと、なにかよからぬことをしでかしてしまうんじゃないか、とでも言うような様子で。
まったく失礼な。我だってどうしてもやらないといけない時は出来るのであるぞ。だいたいは、ちゃんと悪いほうの選択肢を選ぶのだ。
「ううむ、せめてどういう連中がいるかだけでも見れると良いのであるが」
我は良い子なので、世間の様子をちゃんと気にするのである。
監視社会とも言う。
まるで捨てられた子犬のような目でアンの方を見る。
チラッチラッ。
「そんな目で見てもダメですよ。見に行ったりしませんからね」
ダメだった。
「ダメか?」
「ダメです」
「どうしても?」
「どうしてもです」
粘ってみたがダメだった。
「これからはいうことを聞いて約束を守るのであるぞ」
「まずその約束を守らない人がなにを言いますか」
「ではどうしたらよいのだ」
「どうしてもダメです」
「みーたーいー!」
「踊ってもダメです」
ガードが硬い。
なんであろう、このディフェンスの硬さ。
「そうは言ってもだな、やはり人選びを先にできるといいなあとは思うのであるぞ」
「どうせ誰を選んでもヒドイことにするくせに、なにを言いますか」
きっぱりすっぱり。
随分な言われようである。
ぐぬ……人の上に立つものは、いつも孤独との戦いなのだ。
「ぐうたらな若者に対して、ただの少女がいいこと言った!」などと思っていたら、実は賢者だったりして、そこからドラマが始まるのがよいのだぞ。
「ヒドイとは心外な。半人前のひよっこを立派な貴族にするのであるぞ」
「どう見ても対外干渉で政治介入ですよね?」
「はい」
えー、ちょっとぐらいよいではないか。
育てたら、恩ぐらい返すのは当然なのであるぞ。
「慈善事業するわけではないのであるから、見返りを貰うのは当然なのだ。相応にいろいろ叩きこむのであるし」
「なんか、すごくヤバそうな権謀術数にまみれたりしませんかね」
「貴族と書いて、とりあえず死なない程度にはなにやってもいい、と読むのであるぞ」
うわあって顔をされた。
でも、平和的な争いとはそういうものであるしなあ。
「もしかして貴族を勘違いしておらぬか?」
「勘違い?」
貴族は結構勘違いされやすいところがある。
確かに表面上は派手であるのだが、だいぶ権力と財力に左右される。
それなりに華やかな生活やイメージがあったりもするのであるが、実際は地味で実直だったり、浜辺に出て権力の棒で殴りあったり、水を張った洗面器に顔つけて息止めあったりするのだ。
だいたい、相手が死なないかぎりは割りとなにやってもよく、文化的にワイルドでバイオレンスなのであるな。
「貴族は偉くて権力もあるのだが、逆に言うと権力だけで暮らしておる。権力があればお金が入ってくるので、そのための政治と戦争をするのだ」
「権力闘争をしながら発言権を伸ばすことが、ひいては世のため人のためになるということですかね?」
さすがである。
理解が早いのは楽でよい。
「平たく言ってしまうとそうであるな。どちらかと言うと、会費を集めてグループを運営するイメージであるぞ。会長としては、適度に中身を整えつつ対外的にイメージアップを図るほうがよいグループっぽく見えるのだ」
「なるほど、意外と遊んでるわけでもないんですね」
ふむふむと、うなずきモードに入っている。
うむ、よい傾向である。
「だが、イメージアップとしては遊んでおるほうが豪勢でよさそうに見える側面もあるので、それなりに遊ぶぞ。まあ仕事と遊びが一緒になってる面があるのだな」
「で、ときどき勘違いしてる人が出てきて困ると」
「領地を管理運営しつつ、対外的にあそこいいなあと思ってもらうのが仕事なのだが、いいなあというところだけしか見ないと遊び呆ける奴が出てくるのも事実であるな」
「オルレア様みたいですね」
うまく話をずらせたと思っていたのであるが、ごまかせなかった。
ぐむう。
「まあ、我のことはさておいて。そういう連中であるからして、基本的には見栄っ張りなところがある。そのあたりでうまく乗せると綺麗に転がるのであるぞ」
「オルレア様みたいですね」
おかしい、すごく我が痛い。
これが貴族としての義務というやつであろうか。
「そういうわけで、こう、我としては連中の見栄の様子を確認する義務がだな」
「はいはい、我慢しましょうねー」
「子供扱いするでないぞ」
むきー!
「はいはい、可愛い可愛い」
頭ぽむぽむされた。
我がこんなことくらいで満足すると思うのか。
満足するのでもっとやるがよいのだぞ。
「ええい離せ、このようなことでごまかされる我ではないのだぞ」
言いつつ、せがむように身を寄せる。
「オルレア様、言ってることとやっていることが逆です」
それはほら。頭なでられた上に手櫛で梳かれたら、最後まできっちりやってもらわなくてはならぬし。人として。
「我は子供ではないので、こんな子供だましには引っかからないのであるのだー!」
「その、しっかりと大人扱いで可愛がって下さいオーラを出しながら、だいぶまわりくどい言い方で子供っぽく頼むの、ややこしいので勘弁して下さい」
おこられさとされた。
「でもこう、ヒマでヒマでやることもなく手持ち無沙汰なのだから、まったりする権利ぐらいあると思うのだぞ」
「私にもまったりする権利ください」
「はい」
このあと、めちゃくちゃいいように撫でられ甘やかされました。




