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魔王とアン -まったりゆったり世界征服-  作者: しるどら(47AgDragon)
第1章 まったりの目覚め

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027 : 衛兵と魔王


 スラムでの活動を始めて三ヶ月。


 気がつけば結構な規模になり、そこそこウワサになっておった。


 一部で悪魔の教室などとも言われておるようであるが、最近では賢者の教室として評判である。

 いい加減、ちょっと人数が増えてきてやばい。

 おかげで1日3回講演である。そろそろ手分けしないと死ぬ、死なないけど死ぬ。


 なにせタダ飯が食える上に読み書きまで教えてもらえるし、スラムでもっとも厄介なギャング団すら味方につけているとなれば、放っておいてもそれなりに結果は出るのだ。

 もはや炊き出しというより整理券扱いで、炊き出しを受けないと受講できないからと、そのために並ぶ始末である。中には街からわざわざ来る奴まで出てきおった。


 中には声だけ聞きに来る者や、拝みに来る者までいる。

 我、魔王だけに祟り神であるからご利益はないと思うのであるが、信仰の自由はあると思うので放置である。


 あと、アンのファンクラブが出来たっぽい。通称「踏まれ隊」。元ギャング団の皆様を含めた若者が多いのであるが、憧れのかっこいいお姉さまということで女性人気も高い。

 クェルは、ダイナミック高い高いや人間大車輪などで子供に大人気である。少々のファンタジックな体験も子供のことであるから問題ないであろう。

 そして我は、ご年配の方々に妙に可愛がられている気がする。なんであろうこの差。


 アンに言わせると、


「クェルが子供、私が若者、オルレア様がご年配という感じでちょうどいいんじゃないですかね?」


 ということらしいのであるが、解せぬ。

 お年寄りはもっと敬わないといけないのであるぞ。主に我を。


 そして、まだ未熟であるものの、こうした活動を通して、優秀な生徒がそこそこ出てきておるのもありがたい。

 出来る者はどんどんみんなのサポートに回す。教えることでさらに理解を増すためである。


 規模が大きくなれば今度は組織化していかねばならぬ。

 だが、自力では難しいので、まずは享受する側から実践する側に立ってもらうのである。

 だいたい、運ぶのを少し手伝うだけでも立派な手伝いになる。小さいことでもなんでもよいのだ。

 まあ飯の支度ですら作る側と作ってもらう側ではだいぶ違うのだし、中には徐々に深い興味を持つ者も出てくるので人材把握にもなる。

 なにがきっかけになるかわからぬので、とにかく体験をさせれば訓練にもなる。


 で、成果にかかわらず、ほめる。

 作業をするということだけでも尊いことなのだし、成果というのは後でよい。

 いずれは自分でいろいろしてもらわないといけないにせよ、その動機や気持ちをまで当たり前だと思ってはいかんのであるな。

 失敗を恐れないのは大事なのだ。


 ちなみに我はほめられると伸びるタイプである。

 堂々とそう宣言してあるので、皆ほめてくれる。大抵の場合は、アンを。

 我は、なぜかいつも頭をぞんざいにばしばし叩かれたり、スカートめくりダッシュされたりするので、バカにされておるような気はしなくもないのであるが、きっと愛されているからである。問題ない。


 なお、我のスカートは鉄壁にして難攻不落の要塞である。

 暗黒の中に光を求める勇者たちへ、魔王からの挑戦状なのだ。


「そういうことしてるからばしばし叩かれるんですよ」


 アンに微笑ましそうに笑われた。


 まあなんにせよ、こういう活動は方法さえ間違ってなければいい感じになるのである

 優秀かどうかにかかわらず、一番簡単な文字と数字だけなら、要領さえ掴んでしまえばそこそこ覚えられるのだ。

 というか、文字も言葉も覚えられるようにできているはずである。でないと会話も出来ないのだ。


 むしろきっかけになるところが重要で、あとは失敗させながら放置気味にしつつフォローするのがまったり的におすすめである。

 出来ないことが当たり前である者にとって理解は遠いので、その道程を楽しめるようにお膳立てするのが大事なのだ。


 なので、面白いと思ってその途中に石ころを並べて邪魔したり、余計な脇道を作ったり、泥水の池などを用意するのであるが、だいたいアンに怒られて正座コースである。

 我が楽しいと思うことは皆も楽しんでくれているのであるが、我だけお仕置きという異空間に放り込まれている気がする。世の中は理不尽である。


 まあそんなこんなを繰り返しておると、初めのうちは「なんだこいつら」と思われておったことも、次第に共感が広まってくる。

 実際に影響が出てくるのだ。


 読み書きだけであるのだが、少しでも出来れば仕事の幅が圧倒的に増える。そして、字が読めると情報のやり取りが変わる。

 すると、考えないといけないことや理屈や仕組みなどを捉える必要が勝手に出てくるのである。


 今までぼんやりとしかわからなかったことが具体化するのであるな。

 そして、具体化するということは理解が進むということに他ならない。

 おぼろげな夢が目の前に現実化するのである。

 それが知識である。


 理解が進めば説明ができる。説明ができれば関係性が広がるし、物事の整合性や疑問、さらには新しい認識や捉え方が現れる。

 知識はそうして広げるものであり、また他人に影響をおよぼすものである。

 ただの空想や妄想を実現する手順なのだ。


 スラムではそうしたモノがなかなか広まらず、単なる労働力としての作業に従事する者が多いので、どうしても賃金が安い。代わりに雇う側としても効率が悪い。

 なのに、この街はスラムが大きすぎるのだ。つまり、とにかく安く使い倒す労働力に頼り切りなのである。


 だが、ここは商業が盛んな街である。それでは人間の無駄遣いであり、お互いに不幸なことである。

 決まった単純作業しか出来ないより、ある程度は自分で考えて動いてくれたほうが楽なのだ。

 それに今後の発展を考えるのであれば、国際都市に発展させる必要が今以上にある。現在の状態でスラムをこの規模で持っておくのは明らかにおかしいのだ。


 ただ、悲しいことに、どれもこれも知識がないと打開する方法がない。

 であれば、めんどくさくても教えるしか無いのである。


 そこから職に就く者が出れば、同じように目指すものも増えるし、労働力としても有能になる。

 なのでこの事業は商業ギルドの了解のもとでとり行なっておる。ギルド長のベルアーノは苦笑いしながら計画に乗ってくれたので、ありがたい限りである。さすがデキる男。


 優秀であればギルドで拾い上げ、そうでなくとも職を斡旋するようになればよいと考えている。我もずっとここに滞在しておるわけにもいかぬので、ゆくゆくはギルドや卒業生などがここを引き継いでいくことになる。


 ……のであるが。


 そんな忙しいながらも充実した日々を、いきなり脅かす者たちが現れた。

 衛兵である。


「勝手にここで私塾を開いているのはおまえたちか」


 人数を揃えてずらっと揃い踏み。スラムまでわざわざご苦労なことである。


 普段はスラムのことなどまるで気にかけぬ者たちが来る、というのは異常事態である。ギャング団と揉めるのがわかりきっているので、治安がどうなろうとこんなところまで出てこないのだ。

 となれば、都合でどうしても避けられない理由ということになる。


 もちろん騒ぎになって押し問答で一触即発であるのだが、それを我が制する。

 うむ、我のファンがこうして衛兵にまで広がっているとは人気者はツライのであるな。


「我が責任者であるが、なにか問題が?」


「ここは許可なしに、違法に私塾を許可することは出来ん。よって、この教室そのものを接収し、もし必要があれば国のモノとする」


 口ひげ隊長のありがたいご高説である。

 どこかの誰かがこの成果をまるごと奪おうというわけであるな。

 なるほどご苦労なことで。


 むしろそういうのを待っておったのだ。

 いろいろあるにはもう少し長くかかると思っておったのだが、意外と早かったようである。

 きっと我の魅力に皆がメロメロなのであろう。


「うむ、許可はあるのだぞ?」


「黙れ。商家の娘かなにか知らないが、せいぜいギルドなどが私的な許可を出しているのだろう。だがそれは国の正式な認可ではない」


 まあ、言っていることはごもっともに見えて、実際はめちゃくちゃであるな。

 これだけずさんだと逆に感謝したくなると言える。

 だが、応えなければいけないのが有名人なのだ。


「だから、あると言っておる」


 あるというのは胸のことではないが。

 できれば胸のことも主張したいので薄い胸を張ったのであるが、貧乳フェチではなかったらしい。

 綺麗にスルーされた。

 魔王ギャグは高尚なので分かってもらいにくいようである。


「ドコのだ。いい加減なことをいうと承知せんぞ」


 しかも、ドコのだと来た。

 いくら温厚な我でも、胸の所在まで無視されるとさすがに悲しくなるのであるぞ。


 仕方あるまい、冗談のわからぬものには衝撃の事実を語ってやろう。


「財務大臣であるのだ」


「……」


 あまりの出来事に「いきなりなにを言い出すのだこの娘は?」という絵になる表情である。可愛いのう。

 きっと真実の重さに耐え切れないのであろう。人生は非情なのだ。

 時として事実は本人の望みをひどく裏切るので、涙を拭うハンカチの用意が必要である。


「バ……バカを言うな! お前のような小娘に大臣が許可を出すわけがないだろう!」


「直接に本人からであるぞ」


 おお、本当にいちいち面白い表情をするのであるな。

 もしかすると役者の方が向いているのではないだろうか。


 まあ我ような年端もいかない花を恥じらう可憐な乙女が大臣と会うなど、普通は有り得ない。だからこの反応自体は、常識的と言えなくはない。

 だが、出会いは偶然で、運命がふたりを結びつけたのだ。

 どんな障害も大きな流れには逆らえないのである。


「恥を知れ小娘! これ以上世迷い事を言うと容赦しないぞ!!」


「よいのか? 別に我は何も困らないのであるが、一応コレでもストレアージュ全権大使なのでな。其方らが困ると思うのだが」


 せっかくなのでさらに煽る。ふふーん。

 ばーかばーか、ひげひげコミカルおやじー。

 いちおう、人の体の一部をあげつらって悪口をいうのは最低なので、言葉には出さずに態度で示す。


「構わぬ! コレ以上おかしな噂を広める前にこの者らを引っ立てろ!」


 素敵にに引っ立てられた。

 我としては此奴の物わかりがよくても悪くても困らぬのだが、こうしたことが起こっているのはもともと我のせいなので、口ひげ隊長の今後を考えるとさすがにちょっと同情を禁じ得ない。

 もともとストレアージュの権限を手に入れたのは、なにかあったらややこしくするためであり、問題があった際、誰も知らない口約束扱いにされて握りつぶされないようにするためである。きっと苦労するのであろう。

 幸せをお祈りしておくのである。魔王なので呪われるかもだけども。


 生徒たちが心配そうに見ておったので、まるで普段通りの満面の笑顔で楽しそうに捕まったのであるが、槍の柄で小突かれた。あいたたた。


 でも仕方なかろう。

 たぶん、あとでこの衛兵らは大変な事になると思うので、それを考えると慈愛の心で笑みが溢れるのであるぞ。


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