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魔王とアン -まったりゆったり世界征服-  作者: しるどら(47AgDragon)
第1章 まったりの目覚め

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025 : 財務大臣

「まったく。ちゃんとお仕事していたのに」


 うむ。アンにすごいスネられた。

 クェルに慰められているほどである。

 たしかに連絡も入れないまま、ご相伴にあずかっていた我の落ち度である。ちなみに夜食は美味であった。


 アンのために朝食は豪華になったが、それは当然と言えよう。

 貸しがひとつ出来てしまった。


 ともあれ、そんなこんなで街の情報をかき集めまくってくれたものをとりあえず整理した。

 まあ大方の予想通りではあるのだが。


「スラム大きすぎますよね」


「安い労働力として使っておるようであるな」


 だいたい意見も一致したところでマシュケの財務大臣と交渉である。


 王城は首都だけあって立派で、独特の力強さや剛健さを誇る。

 街の規模に比例して相応に絢爛と言える建築物であり、南部の繁栄ぶりを物語っていると言える。

 城の応接間も、無骨さと豪華さが上手く調和されていて、ぶっちゃけちょっと魔族心をくすぐるかっこよさがある。城の応接間にこのソファとテーブル欲しい。もう我の城は無いけど。

 まあ、そんなナイスな部屋で大臣閣下とふたりきりで直接交渉なのだ。


「ようこそ、遠路はるばるお越しくださいました。マシュケ王国財務大臣、ラウレリオ=フォレス=アガスレスタです」


「うむ。歓迎ありがたい。ストレアージュ大使、導師オルレア=ウェインシュタットである」


 挨拶の握手にぎにぎ。


 大臣はいかにもなお偉いさんである。

 白髪交じりの髪とアゴひげ、やや特徴的で濃ゆい顔、偉そうな服に偉そうな体格、相応に働いてそうな雰囲気。

 どれをとっても偉そうの達人であり、パーフェクトお偉いさんである。

 なお、我も正式な使者なので、相手がそんなお偉いさんだろうと割とタメ口である。いつもの口調とも言う。


 ただ、商業の盛んな国の財務大臣ともなれば発言権も大きいのだろうしいろいろ忙しいはずなので「我みたいな小娘に会うのはめんどくさー」というのがあっても仕方ない。

 もちろんそんなことおくびにも出さないのであろうが、どう考えても国家権限のない上に謎の導師で小娘ともなればそう思われて当然である。

 それでも公式大使となれば無視は出来ないが、単なる地方都市と国家の関係なので、国家事業に関してはあまり話し合いの余地もないのだ。せいぜいが友好を深めるぐらいである。

 ありていに言えば、どうでもいいのである。


 なので容赦なく行く。

 普段から容赦などしていないのではないかという気もしなくはないが、そこは気分の問題である。


「これはこれは可愛らしい導師様だ」


「可愛らしいのは見た目だけであるので、よろしくお願いするぞ」


「はは、コレは手厳しい」


 子供か孫娘を見るような目で見られる。

 むしろ大方の場合、小娘の話くらいなら聞いてやろうと思われやすいので得なのだけどな。

 そして会談の始まりである。


「それで、書簡からすると、”南部3王国の商業同盟に対する懸案事項に関して”とある。これは相違無いか?」


「うむ、相違無いであるぞ」


 まあそれは確認するであろうな。権限もないことを相談しに来るというのは内政干渉にもなりかねぬ。しかも公式訪問とくれば、頭がおかしいんじゃないかと思われても仕方ない。

 でも実際、頭おかしいのだしな。魔王だもの。

 あまりにアレすぎて、よく理解できないから許可を頂いてるようなものであるのだし。


「そうか。なら、早速、意見を申してみよ。なんなりと話すがよい」


「商業同盟であるが、ストレアージュを特例として組み込んで欲しいのであるぞ」


 あ。笑顔が一瞬止まった。

 なんなりと聞いてやろうといったのはそっちなので我は知らぬぞ。


「ほう、それはまたおもしろそうな話ですな。理由はどうして?」


 当然なのであるが、まともに聞く気がないのであろうな、これは。

 単に話を聞いて、その返答を断る綺麗な理由にしたいと見える。

 だいたい3国の同盟であるから国の大臣とて個人判断で決められぬモノだし、普通に考えて却下なのだ。

 なので好き放題投げる。いつも好き放題だというのは禁忌の呪文とされている。


「決まっておる。そちらが決めたことでそちらが困っておるのにもかかわらず、ストレアージュが経済圧力をかけられる形になっておるのだ。むしろストレアージュを玄関として上手く使い倒したほうが双方に益があるし、聖王国の動向なぞ待たずにすむと思うのであるが、どうであろう?」


「なるほど、一理ありますな。ですが、ストレアージュは聖王国内の問題。外交としての問題は、まず聖王国の正式な対応をしていただかないことにはどうにも」


 地方都市がどうこう言いたいならまず国を通してこい。そういう話であるな、ごもっとも。


「そうか。だとすると土産話も無駄になってしまうのう」


「そうですなあ、残念ですが」


 うむ、素っ気なく返された。

 そうであろう。向こうはわざわざ面倒事に巻き込まれる理由もないのだ。

 我がいい話を振っても乗ってこないなら、この先はもう無駄と言える。

 半壊した森の話すら出してこないあたり最初から相手する気もないのであろうし。


「ふむ……致し方ないところであるな、ひとまず了解した。そちらにも事情があろう」


「残念ですがその通りで。ですがお話としてはたいへん興味ある内容で、いい時間を過ごさせていただいた。こちらでも相応に検討させてもらいたい」


「ご配慮ありがたく。そう言っていただければ来た甲斐があるというもので」


「いや、わざわざご足労頂いている以上、そう言っていただけるとこちらも助かりますな」


 つまり、どうでもいい話なんか聞くヒマ無いから早く帰れという話である。

 社交辞令というのは怖いものであるな。


「……ところで大臣閣下。もののついでと言ってはなんなのであるが。ご迷惑を承知で、実は公人としてではなく導師として一つだけ許可が頂きたいと思うのだが、よいであろうか」


「そういうことならお伺いしましょう」


「せっかくここまで来たのでな、ささやかながらスラムでの慈善活動をしたいと思っておる。そのための活動許可が頂けるとありがたい」


「おや、それはよいことだと思いますな。恥ずかしながらあのあたりは整備も進んでおりませんで、是非、導師様にお力添えいただければ街の民も喜ぶと思います。ですが、治安があまりよい地域ではありませんので、そこだけお気をつけ下され」


 話もろくろく聞かずに断った手前、導師としての活動を妨げるような理由もないのでこの程度は許可されやすいのである。なんだこの小娘と思われていそうな気もするが。


 公人でないと言った以上、住民と事件があったところで不幸な事故だし、我が勝手にやることだから金もかからない。こちら側の顔も立つので、いい感じに追い返す理由にもなる。無理に断る必要も無いのだ。

 我としては、もともとこのお小遣いが目的で来ておるので、しめしめであるぞ。


「うむ、ご配慮ありがたいのである」


「いえいえ、その程度でよければ是非」


 こうして、使者としてはけんもほろろな扱いをされた上で、交渉については丁重にお断りされた。

 最初からたぶんそうであろうと思っておったので、我としてはいい感じに目的達成できたと思う。



***



 そんなわけで会談も終わり、一服すべく飯屋である。

 茶を飲みつつ菓子をつまみながらまったりとする時間を過ごすのだ。

 やはりめんどくさい人付き合いのあとはダベるに限る。


「オルレア様も人が悪い」


「魔王であるから仕方がなかろう」


 こっそり影を通じて会談を聞いていたアンが、そう感想を漏らしてきた。

 まあ当然といえば当然と言える。


 普通、スラムでの活動許可を取りに行くためだけに、正式な使者として交渉なんかしない。

 だというのに、わざわざこんな手間をかけるかといえば、ひとえに国家レベルで偉そうにふんぞり返ってもいいようにするためである。

 で、その辺の導師が偉くなるには、なんといっても無視できないレベルでナイスな評判を得ることである。


 どうせ交渉は断られるに決まっているのであるから、我としては本来の目的さえ通せればそれで充分なのだ。

 そんなわけで人気取りが出来る手段はいくらでもあるのだが、まあとにかくいかにもそれっぽい仕事ができればなんでもいいのである。

 要は、導師による導師のための導師の行ないができればいいのだ。


「で、なにをする気です?」


「なに、スラムで読み書きを教えるだけであるぞ。無償でな」


「やっぱりその辺ですか」


 ここは、街の規模に対してスラムが大きいのだ。

 だいたいこれだけ栄えておるのにこのスラムというのは、安く働かせる労働力目当てである。 だが、王都でありながらこれだけのスラムというのは社会構造に問題がある。

 そしてギルドや国がその辺に対して対策を打っておらぬのだ。


 もっとも、スラムなぞに対策をしようと思うと非常にめんどくさい上に効果が想像しづらい。なので基本的に一番後回しになる。

 問題が起こるまで放置というやつだ。


 こういう話が通じる従者というのはよい出会いであったといえる。

 普通は図を書いて講義を設け、説明してやらねばならぬのだ。


 そんな優秀な従者がカップをもてあそびながら微笑しつつ、流し目で楽しそうに覗き込んでくる。

 何気ない動作もいちいち様になるな此奴。


「どうせ悪いことするおつもりでしょう?」


「人聞きの悪い。導師として善行をするのは当然であるのだ」


 打算たっぷりの偽善事業なのだけどな。

 もっとも、受け取る方はあまりどちらでも関係ないであろう。


「まあオルレア様のそういうところが好きなんですけどね?」


「其方も察しをつけた上で動いておるのだろう?」


 褒美に茶菓子をあーんしてやろう。


「んぅ、食いしん坊でごうつくばりのオルレア様にしては珍しい」


「いい働きには見返りがあるべきであろう?」


 褒めたのに苦笑された。

 我をなんだと思っておるのか。


「いつもそうだといいのですけども」


「いつもそうなのであるぞ」


 我は気分屋なところはあるものの、いつだって公明正大(えこひいき)であるのだぞ。


「それに、どうせやるだけやってしまうのでしょう?」


「やるだけやってしまうな。そのためならどんな犠牲もいとわないのである」


 うむ、やることは大したことではないのであるが、たぶん国ごとえらいことになる気がしなくはない。

 それでも、短期的にわかりやすくパーッとしたことをしないと有名にはなれない。

 商業同盟に口を出すためには国家レベルでの発言権が欲しいのであるから仕方ないのだ。せめて、王様にバカって言ったら相手が普通に怒ってしまうぐらいの立場になる必要がある。


 現状は鼻で笑われた上、素敵に不敬罪(くびちょんぱ)で終わってしまうのでな。

 さすがに呪いの首が喋り出して同盟改善を迫るというのは、世間的に見てもまったりしない。


「で、今日からやるんですか?」


「いや明日からであるぞ」


「おや、善は急ぐタイプのオルレア様が珍しい」


「昨日の埋め合わせがまだであろう」


「あ」


 そんなわけで今日はこれからアンの分の宴会である。


 だったら昨日のうちに調べなくてもよかったのではないかというところではあるが、下調べは会談前に終わらせておく必要があるのでそうも行かぬ。

 それに、これからすることは朝から目立つようにやるのがいいのだ。


 なにせ知識の押し売りという、それはもうすがすがしいまでの売名行為である。

 しかも大安売りの出血大サービス。安いよ安いよー名前の叩き売りだよー。

 だいたい、名前だろうがなんだろうが売れるものは売るし、それで誰かが潤うならそれでよいのだ。


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