024 : マシュケ商業ギルド
まあ王都までは途中いくつか街があったのではあるが、そのへんは通りすがるだけですっ飛ばした。
ご飯が美味かったので十分である。
このあたりは稲作も多いのか、ストレアージュを含め、とにかくどこでも米の飯がうまい。
麦やパン、麺などと違って、そのまま炊いて食べてもうまいのがよいのであるな。
主に香辛料のきいた豆や肉のスープに香草などと合わせていただくのであるが、コレがうまい。
鳥や獣の蒸し肉などと合わせて菜もので巻いて食べるだけでもご馳走であるが、それでも日常食だという。
もう少し南に行くと魚とも合わせていただくのだとか。非常に楽しみである。
我の時代では北の方だと比較的食物に貧しかったので、随分余裕があると感心する。
いろいろ農業にも改革があったのだろうかと思わなくもないが、もしかするとこの辺では気候的に昔からそれほど困っておらぬかもしれない。
ただ、基本的に作物が豊かであるので食生活は潤っておるようなのだが、聖王国であるような定食はない模様、残念。
雰囲気も比較的穏やかでのんびりしておるようであるが、この辺はときどき土砂降りがあるのがいただけない。道はぬかるむし、馬もしょんぼりしているように思える。雨が降って喜ぶのはクェルだけである。
まあ、水不足にも悩まされぬようであるのでそれはよいことであるのだが。北に比べると南ってだけで豊かでずるい感じある。
まあ我がすることといえば、その南の恩恵にあずかるだけなのだが。
「街に寄るたびに果物買ってません?」
「旅の途中は味気ないのでな」
などという感じで、もぐもぐしながら目的地に着いた。
マシュケ王都、クレジオシテ。
南部最大級の規模を誇る街である。
そして街に来たならアンとクェルを引き連れて物見遊山である。だっしゅ!
役所に必要な書類は渡したが当然すぐに出会えるわけもなく、街のお偉いさんとの謁見は後日なので、なにはともあれ観光であり見学である。
まずは例によって買い食いである。もちろん買い食いである。当然のごとく買い食いである。
マシュケはどこに行っても果物はあるのだが、ここは特に豊富で種類も多い。クェルとともに口の周りをよごしながら、アンに「ハイハイまたですか」という顔をされつつ、色とりどりのみずみずしい果実をじゃくじゃくと食べる。うまー。
それに、穀物の粉を水や乳で溶いて薄焼きした奴がなかなかである。
コレにあれやこれやと巻いて食べる。肉や菜っ葉、卵を巻けば食事に、果物や砂糖で甘くすればデザートに。
必ずしも食べごたえのある大きさでなくとも形を変えられる方が便利なこともある。ものは考えようであるな。
米も含め、南はとにかくこうした一般食じみた飯がなかなかなのだ。しかもこれは手も汚さずばくばく食べられる。素晴らしい。
そうやって市場をぐるぐるまわるとだいたい街の様子もわかるので一石二鳥である。
あくまでもこれは街の調査なのであるぞ。
そして一服してから街一番の塔である鐘楼台に登れば、そこから大きな街を一望できる。港の方まで窓からぐるり見渡せるのだ。
青い空、さわやかな風とともに、壮大な眺めが楽しめる絶景ポイントである。
「うむ、よい街であるな」
「いい眺めですねえ」
「わ……」
クレジオシテは王都であるだけに大きく、華やかで栄えておるようである。
文化的で混沌としており、さまざまな思惑が渦巻いている都市。
やりがいがあるとも言える。
「なんか悪い顔してますね?」
「そうか? この度の逗留も楽しそうであるな、と思っておるだけなのだが」
大きい街だとだいたい困ることのひとつやふたつあるものだ。
政治に平等はない。なので誰かに得をさせて、その分で他人を潤わせるというのが基本になる。
もちろん、その得をする奴はだいたいコネだったり声が大きい連中なので、いろいろ不平不満が起こる。一番先にご褒美にありついた者が一番得をするに決まってるからだ。
つまり今回はストレアージュの時と違い、いい感じにそうした既得権益に喧嘩を売りに行くことになる。
極めて平和的な社会活動である。
「アンよ。この街、徹底的にさらうぞ」
「御意、珍しくやる気ですね」
うむ。まあ見るからに問題がある感じであるからな。
あとはしかるべきところに放り投げてみてどうなるかである。
「で、だいたいは想像つくんですがなにやる気ですか?」
「とりあえず商業ギルドで遊ぼうかと思ってな」
「私はその間に街の下調べですか?」
「まあいい感じのネタがありそうであるからな」
「この規模のスラムがあれば、まあ」
うむ、さすが理解が早くて助かる。
「うー」
仲間はずれにするなとクェルが抗議する
だがすまぬ。しばらくはお留守番なのだ。
たぶん後でいろいろしてもらうことになるのであるが、それはその時で。
というわけで夕方には商業ギルドである。
この辺はストレアージュからの紹介状やレミッテンの顔なんかがあるのでさくさく進む。
もう少し正確に言うなら、立場としては正式な使者扱いであるので逗留手続きで顔を出す必要があるのだ。
「これはこれは遠路はるばるようこそ。歓迎いたします、マシュケ王国商業ギルドの長、ベルアーノです」
ギルド長は、これはこれは商人な感じの者である。
年の頃は40過ぎ、仕事盛り。控えめでいながら静かなデキる男。
マシュケ全体の長であるからして、海千山千の商人のようである。
さすがにストレアージュと比べると格上っぽい。
「導師オルレアという。ストレアージュを代表してよろしく頼む」
「聖王国からわざわざご苦労さまです」
社交辞令もそこそこにざくざくと本題に入る。
「うむ。まあ、分かっておるのであろう?」
「なにがです?」
当然、確認しにくるであるな。
曖昧にしたまま得体のしれないものを想像するような愚を犯すようなものなら、トップに立っておらぬと思うし。
「南部の商業同盟のことであるぞ。あれなのだが、面倒だなーと思っておる」
「いきなり来ますね?」
苦笑された。
まあ小娘がいきなりえらそうに全権持ってきてこんな話をする時点で苦笑ものであろう。どう見ても粋がって一生懸命すぎるものな。
だが、こういうめんどくさい話は最初に出しておいたほうが楽なのだ。こういう話は仲良くなってからしてもよいのであるが、今回の場合、印象は早いうちに決めておきたい。どうせ舐められるに決まっておるからの。
「雑談程度でよいのであるが、あらましをざっくり話しておこうかと思ってな」
「ほう?」
どうせ話半分にしか聞かないのであろうが、それでよい。
聞いてくれるならそれでよいのだ。
「端的に言って、ストレアージュのために同盟の内容自体を変えてもらおうと考えておる」
「はは。それを今、私なんかに話すんです?」
お、此奴、余裕があるのかやさしいのか。
話が上手いだけかもしれぬが、合わせてきてくれおった。
ギルドは国同士の同盟には直接かかわらぬから公の権限はない。もっとも、その判断は物事は大きく左右する。国もギルドの意向を無視して物事は決められないので、権限はないけどあると言える。
つまり、我は相手にわざわざ手の内を明かしておる状態である。
交渉で見せ札を出すときは決まって魂胆がある。それを承知で受けてくれるというありがたい申し出なのだ。
もともと我はこれからしでかすことに悪印象を持たれたくないのにも関わらず、軽く牽制したのであるから、警戒されたり殴り合いにも発展しかねない。
にもかかわらず親切に付き合ってくれるのはありがたいのだ。もしかすると余裕で値踏みされておるのかもだが。
「別に目的が変わるわけでもなし、どうしたって話が大きくなるのでな。なら地元のトップには挨拶をしておいたほうが良いであろう?」
「ふふ、乗りませんよ。でも面白そうですねえ」
すごく微笑ましく可愛がられている気がするのであるが、実際そうなのであろうな。
「うむ、それでよいぞ。どうせろくに聞いてくれないのであろう? であれば、あまり変わらないのであるからな」
「いえいえ、可愛らしい導師様のお話にはとても興味がそそられるところで」
あはは、と微笑み合う。
それでよい。今は「なんだこの小娘めんどくさい早くお引き取り願おう」などと思われなければそれで構わぬのだ。
大言壮語を吐く小生意気な娘だが、身の程はわきまえておると思われるだけで充分である。
「まあ話は単純なのだ。要は、双方が困っておる原因を解消したいだけであってな」
「双方とはこれはまた。そちらだけなのではないです?」
これは完全に雑談モードであるな。
少なくともからかう相手から雑談する相手に格上げがあったと見るべきであるな。
マシュケは困ってないアピールである。もちろん事実はどうでもよい。
「そうかもしれぬが、そちらにもメリットがある話になるのでな。そもそも、お得意先であるストレアージュを最初から外す必要がどこにもないのだ」
「おや。ですが、南部の取り決めであって聖王国には関係のないお話では?」
「そうでもなかろう。でなければここまでバタバタしておらぬのではないか」
「なるほど。たしかに一理あるかもしれませんねえ」
笑顔で言うあたり、此奴、絶対わかっておる。
おもしろいからはやく先をと言わんばかりである。あきらかに楽しんでおるな。
まあ面白かったら見返りをくれてやらなくもないということであろうから、誘いに乗るしか無い。
「メリットがあるからの同盟だろうが、代わりにややこしくなっておるからの」
「なるほど。なんの理由もなしに任されたわけではないということですね」
うむ、確実に遊ばれておる。
まあこちらも楽しいしそれでよいのであるが。
なら上乗せるだけである。
「デメリットをわかった上で聖王国にケンカを売った奴がおると見ておるのだ」
「それはまた過激ながら面白い意見ですね」
「ストレアージュについてのみ特例でも設ければいい。それをするとウチもそうしろという話が噴出するから無しになったのだろうが、そこだけ窓口にすれば管理しやすくなるであろうと思うのだ」
「それはそれは楽しい意見をお持ちのようですね。しかも商売上手と来ている」
最南端のストレアージュのみ同盟に組み込んで、他の街に売る時は今まで通り水増しすればいい。
そうすれば距離が緩衝材になってくれるし、その分、街に恩が売れるので対価を何かしら貰えばいいのだ。
そして特例の代わりに面倒なことは聖王国に投げればいい。という話がこれで伝わるので楽である。
「いや、そこの差益は南が持っていけばよかろう。我、そのへんに興味ないのだし、むしろそういうのはレミッテンが乗るのではないかな」
「おや、ずいぶんと欲のない方で。全権代理にしては珍しいタイプのようで」
「まあ別に聖王国になんの義理もないのでな、我」
「はは、コレは楽しい方だ。義理もないのに大役を引き受けますか」
そのこころは?
というやつであるな。決まっておる。
「我はまったりしたいのだ。不穏になれば枕を高くして寝られぬし、物価が上がれば好きなものも口にできなくなるのでな」
ばばーん!
「それだけのために?」
……スルーされた。
「それだけとは無礼な。人生において究極至高の娯楽であるぞ」
「ふふ、いやいや失礼。どうもコレは愉快な娘さんのようだ。用向きはさておき個人的には歓迎しましょう」
なぜいつも笑われるのであろうか、ぐむう。
「迷惑をかけ通しになると思うが、それでいいのであれば是非」
「まあ程々に。マイナスにならないかぎりは」
言質はとった。つまりは好き放題である。
「そうか。では色々めんどくさいことはすべてぶん投げるのでよろしくであるぞ」
「なかなか言いますねえ。では、可愛らしいお手並み拝見させていただきましょうか」
たぶん、いろいろ魔王的にやらかすとまでは考えてないのであろうなーと思いつつ、その日は歓迎を受けた。
そして、調査に出したまますっかり忘れておったアンが深夜に帰ってきて、ひとり寂しくぼっち飯で涙したのは言うまでもない。




