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魔王とアン -まったりゆったり世界征服-  作者: しるどら(47AgDragon)
第1章 まったりの目覚め

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022 : 閑話・聖王国王都/聖魔術管理院 3


 王都アイネスリーア、聖魔術管理院。

 今日もフェレは忙殺されていた。


 それもそのはず、その魔術院にて上がってくる最近の報告はだいたい嬉しくない報告ばかりだからだ。

 大予兆の一件以来、すべてが面倒な方向に回っているようなことばかりで、それは予兆そのものは正確だというコトでもあり悩みの種になっている。

 なお、特になんでもない時の報告も、それはそれで深い意味もないクセに面倒なのでだいたい嬉しくない報告ばかりである。


 ただし、同じ嬉しくないにしても、どうでもいいコトとどうでもよくないコトという明確な違いがある。

 どうでもいいなら他人任せにしたり押し付けたりしてもいいが、どうでもよくないモノは看過できない。

 看過できないことが増えれば仕事が増えていく。

 仕事が増えると時間を削らないといけなくなる。

 時間を削ると必要最小限しか対応できなくなる。

 そして、最小限の対応は誤解がないよう端的で冷たく感じられやすい。


 ついたあだ名が”魔術院の氷刃”(クールビューティ)である。

 だいぶシャレにならない。

 いくら二つ名が”氷刃”フェレであっても、そこまでお(つぼね)様的に思われるのはどうなんだろうと思わなくはない。


 最近の周りの反応を見る限りは歓迎や尊敬の意味で使っているようだけども、別にその気もないのに勝手に才女だの辣腕家だのと扱われた挙句、仕事を全部押し付けられる身としては嬉しい名前でもない。

 相応にこなしてしまう私の方にも問題がないとは言わないが、だからといってこちらも自由時間を潰したりいろいろ根回しする必要が出たり、解決した頃には次の仕事が溜まっているだけのことだ。

 目の前にあればやるしかない。やらないとさらに溜まっていくのだから。


 あと、若い上に女性がたくさん仕事をしてしまう関係で、どうしても男の多い職場では妬まれたりやっかまれたりするので余計な仕事がさらに増える。

 えてして、そういう者は仕事が人並みかそれ以下にしかできない事が多いのも困りものだ。

 けどまあ、よくはないにしてもそれ自体には目をつぶってスルーしてもいい。そこまではわからなくもない。

 世の中、自分が思うようにはなかなかうまくいかないものなのだから。

 でも、さすがに他人の足を引っ張るとなると話は別になる。


 こっちには余裕なんかないので、邪魔なら歩くついでに蹴りとばすしかない。

 あと、引っ掛けようと差し出された脚とか隠しそびれたしっぽは踏む。ヒールのかかとで。

 構ってられないからしかたない。

 邪魔と仕事、どっちが大事だと思っているのか。


 だいたい我々の給料はみんなの税金なのだ。税金。

 誰もが払いたくもない中から無理やり持ってかれるお金で食わせてもらってるのに、税金で喧嘩してどうする。


 そんな感じで責務を果たしているだけの日々を過ごして、魔術院に入っていつの間にか10年も経っていたし、見過ごせない見過ごせないで筆頭補佐官にまでなってしまっていた。

 一方、同期の女性はといえば、だいたい誰かとくっついているなりもっと働きやすいところに行ったりしている。

 なんだろうこの敗北感。


 やるべきことをやっているだけと思うのは、もしかすると世間一般ではやり過ぎなのだろうかと思わなくもない。

 思わなくもないけれども、やらなくても誰かが回してくれるわけではないのでやるしかない。

 なのに、やれ氷だの怜悧だのナイフだのとみんな言いたい放題。

 やるしかないからやってるだけなのにやってられない。


 そしていつものように、そんな”氷刃”フェレを悩ませる嬉しくない報告が届いていた。




「砂漠の遺跡、ですか」


 報告書にはできれば見たくなかった文字。

 魔王の封印、というヤツが書かれている。

 嬉しくない。


「はい。森の件は魔物の消失とともに特に変化ありません。沈静化したものと思われるので、後処理に回っております。ですが、砂漠の件は……」


「いえ、短い時間でよくやってくれました。砂漠の水源の呪いがあったとはいえ、長らく不明だった遺跡です」


 呪われたと噂の水源周辺を辿ってみれば1週間で発見。「封印が解かれていた」というのが分かっただけで充分な成果だ。

 もちろん嬉しくない。


「では、魔王の封印のことは禁忌レベルの扱いとし、特級箝口令を。公式に対処が決まるまですべて秘匿事項とします。漏らしたものは追って処罰があると思ってください」


「はっ。知っているものには判断を仰がないまま対応しないよう処理します」


 これでついに材料と証拠が揃ってしまった。

 具体的になにがあったかは知らないが、おそらく森の魔物となんらかの関連があり魔王は復活したと見ていい。

 大予兆の通りで、とんでもない事態になったものだ。

 幸いまだ被害は森だけだが、死の魔王が復活したとなればこれからなにが起こってもおかしくない。

 どう考えても嬉しくない。


「それで、この報告にある旅の導師というのは?」


「漂泊の女導師のようです。調査によると、こともなげに水源の呪いを解いたようで。従者を連れ、隊商とともにストレアージュに向かったとのことです」


 解呪師かなにかだろうか。

 呪いを解くには独特の手順を踏むことが多いので専門家が多い。


 時期的には偶然かどうかは分からないが、なにか知っている可能性はある。

 それに封印解除に関わっている可能性が全く無いわけではない。

 水源はつまるところ封印にあったわけだから、関係の有無にかかわらずなにも知らないということもあるまい。


 それに、事情を聞きたい、ということであれば容易に引っ張れるだろう。

 コレは嬉しい手がかりだ。


「では、その導師を見つけ次第、丁重にここへお連れしてください。手段は問いません。他の対応は私がします」


「はっ」


 とりあえずコレでいいだろう。

 だいたい、この件のせいで南部3王国と面倒な対応を強いられているのだ。

 まずは手元に来てもらわないことに話にならないし、コレでしばらくそっちに集中できる。


 退出する部下を見送りつつ、嘆息する。

 問題は山積みなので、とりあえずは可能な限り順に処理するべきだ。




 この時はそう思っていた。

 まさか、この一言であんなことになるとか思わなかった。



***



「あーもう! 魔王とかなにそれ!」


 その日の夜。

 自宅でベッドに顔を突っ伏しながらじたじたする。


 もちろん、帰ってきてそのままうつ伏せにばたーんとベッドに突っ込んだからである。


「死の魔王とかさぁ。どう考えてもおとぎ話でしょう!」


 顔をもふっとベッドに押し付けた姿勢のまま、ふかーい嘆息。

 で、いつまでもやってるといい加減に苦しいので顔だけ横に向ける。


 魔王という話が出てきた時点で考えてなかった内容ではないものの、できればおとぎ話のままにしたかった事実でもある。

 国一つまるごと死の眷属とか頭おかしいとしか思えない。

 頭おかしくなかったら魔王などと呼ばれない気もしなくはないが、そんな変わり者の相手なんかしたくもない。

 魔王って名前だけでも嫌気がするのに、頭の部品がゆがんでるか足りないかしてるような相手だと考えるとさらにうざったそうだ。


「うー、この年でおとぎ話はさすがに遠慮したい。特にリアル化物とか謹んで遠慮させていただきたい」


 だいたいなんでこんな時期に出てくるんだろうか。

 こういう時期ものイベントは、できれば100年200年くらい後にずらしてもらいたいと思う。

 その一方で、建国1000年祭も近いことを考えるとそういうのが出てくるようなタイミングなのかもしれないとも思う。

 嬉しくない時節ネタである。

 記念式典でお届けされる魔王とか、あまり歓迎したくない。


 でも困ったことに、それでも封印が解けたというならやるしかない。

 やらないという選択肢はない。どうにかしないといけない。

 コレは生存競争なのだ。

 やらなければ死ぬ、世界ごと殺される。

 そういう戦いだ。


 出来ることなら秘密裏に済ませたい、可能なら話し合いで片を付けたい。

 けれど、世界の半分を死で覆うような魔王になど、そもそも話が通じるかどうかもわからない。

 だいたい、話という概念が通用するかどうかもわからないんだし。


「うなー! 知るかっていうか知るか。もうどうにでもなれってくらいには知るか!」


 枕を抱え込んでごろごろしつつ唸る。

 服が皺になるがそれも知ったことか。


 なにせ相手は人間ごときが容易に眼前に立つことすら許されない、伝説の存在なのだ。

 警戒しておいて損はない。


 それに、各地の魔族がコレを知ったらどうこうしないとも限らない。

 森の魔族の件だって充分に問題だったというのに、そういう伝承級の連中は少なくない。

 ありがたいことに身を潜めてくれているだけのことだ。


 文献を見る限りは、600年前の魔族戦争は人間が勝利したとはいえ、むしろ戦う理由のなくなった魔族が戦闘を放棄した面も大きい。

 それが事実なら、うやむやのうちに勝ったということになっているだけだ。


 単にまとまりにおいて優秀である人間側が運よく(ごっつぁん)勝利しただけにすぎない。


 実際、人間と魔族の間はそういった距離感で成り立っている。

 圧倒的な力の魔族と、圧倒的な数の人間。

 弱小魔族を人間がモンスターと呼ぶように、強大な魔族は人間をそんなふうに見ている。


 だから、つまらないことはお互い見過ごす……そういった暗黙の了解でこの数百年を過ごしてきた。

 はずだった。


 それが森の魔族の一件から色々おかしくなっている気がする。

 正直、こんな時に南の3王国なんかに構いたくない。

 構いたくないが構わないといけないっていうか、ふざけんなって感じがすごい。


 なにがアレかって、こんな状態にもかかわらず魔王の魔の字も出せないってことである。

 600年前の伝説の置物が動き出したせいで、死ぬほどめんどくさい。


 ただでさえ、ウチになんの責任もないのに頭下げないといけないんだし、そこでなぜ枯れた骨董品(まおう)の面倒まで見ないといけないのだろうか。

 なのに、どう考えてもなんとかしないといけないこの理不尽感。


「まーいーや、もう。うん、寝よう。今日は風呂入って酒飲んで寝よう! いいの開けちゃおう!」


 疲れた頭で考えてもしかたない。いい考えなど浮かばないのだ。

 むしろ、もっとどうでもよくするに限る。


 ごろごろしたせいで乱れた髪も服もそのままに、うあーばかーしねーとばかりに枕を壁にぶん投げることで、とりあえずすっきりする。

 気分をかるく転換させたところで、なにもかもめんどくさくなってぽいぽいと服を脱いで風呂に入るに限る。


 なにせ明日からは、南との折衝に出向かないといけないのだから。

 普段なら向こうがこちらに来るのに、今回は問題起こしたのはこちら側なのでわざわざ行く必要があるのもやってらんない。


 そのへん、魔王とやらが問題を引き起こしているのが確定したのでマジ絞めたかった。

 できれば4、5回くらい。


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