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魔王とアン -まったりゆったり世界征服-  作者: しるどら(47AgDragon)
第1章 まったりの目覚め

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017 : でも貸し切りには勝てなかったよ

 必要な装備(ふく)を整えたので、その足でレミッテンのところに向かう。

 やり手の商人であろうし、我はあえて口車に乗ってアレだけのことをしたのであるから、それこそ厚意の渦に巻き込まれるようにされてもバチは当たらないはずである。

 まあ、彼奴のことであるからこれくらいのことは計算の内であろうぞ。


 そんなわけで、レミッテンの隊商が常宿にしているらしい店にやってきた。

 各種ギルドなどの組合や公の施設が近い通りであり、中心街にも城にも近く便利なところである。

 もちろん、なにもかもごやっかいになるつもりである。

 何百年も乙女を通している魔王の面の皮は厚いのであるぞ。


 なお、一般的にはそれをたかりという。

 ちなみにコレは「集り」と書くのであるが、知っているとちょっとだけ酒の席で偉くなった気になれる優れた無駄知識の一つである。

 偉くなった気になれるだけで偉くなるわけではないので注意したい。


 なにはともあれ、そんなわけで我らは歓迎を持って帰還を迎えられた。


「おお、これはこれは導師様。あれだけの天変地異の中、よくぞご無事で」


 レミッテンの満面の笑み。

 この社交辞令と、商人らしいしれっとした態度がまたなんとも言えぬな。

 我が顔を見せた時点で賭けに勝ったと言わんばかりであろうに。


「うむ、其方の商いもなかなかうまくいっておるようであるな?」


「おかげさまで。このような有事の時に繁盛というのはいささか心が痛むトコロもありますが、それ相応に」


 此奴め、また心にもないことを。

 それでいて憎めない感じであるから始末に負えぬ。

 まあ、そこは我も素敵に居候する気でおるのであまり人のことは言えぬのだが。


「そういうことであれば、我らがゆるりとしても問題なさそうであるの。しばらく世話になるぞ」


「それはそれはぜひとも。もともとこちらが言い出した話でありますしお気兼ねなく。そちらはお連れ様で?」


 ああ、クェルのことであるな。

 レミッテンならなにも言わずとも感づくであろうから説明の必要もなかろう。


「森の天変地異に巻き込まれたようでの。しかたないので我が連れ歩くことにしたのだ」


「それはまた大変でしたでしょう、どうぞごゆっくりなさってください。それと、もしなにか入用のものがありましたらなんなりと」


 むう、本当にサラッと流しよるの。

 大商いをするつもりのようであるから、そういう部分では放っておいて良いのかもしれぬ。


 此奴、クェルの素性をだいたい予想をつけた上で、必要があるなら面倒見るとぬかしてきおる。

 つまり「清濁併せ呑んでお付き合いしますよ」ということである。

 商売の足しになるのであれば少々のことは気にせぬということであるな。

 その一方で、こうして我を囲うという以上、そういう意味では義理堅いとも言える。


 あの天変地異の後でこうして変わらぬ態度を見せる以上、おそらくは根っからの商人であろう。

 よくも悪くもやり手である。

 だが我、ぶっちゃけるのは得意であるが腹芸は苦手なのであるぞ……。


「ではせっかくの厚意であるから3つほど甘えるとしようかの。ひとつは服を仕立てたのでその代金。もうひとつは、商業ギルドへの案内状があるとありがたい」


 街の看板を見る限り、昔と変わらずギルド制のようであるからの。

 まあ組織改革が遅れておる国であるからこのようなことになっておるわけで、我がずけずけ入っていっても問題はないであろう。

 問題があってもなくすだけなのであるが。


 魔王であるからよその事情に関しても図々しいのであるぞ。

 他人の庭に土足で踏み込んで傷口をえぐるなら得意であるのだ。


「なるほど、なにやら深いお考えがあるご様子。それに関しては早速手配しましょう」


「うむ、よろしく頼むぞ」


 理由も聞かずに快諾とは恐れ入る。

 此奴、我を最大限利用するつもりなのだな。

 によによされておるあたり、これはむしろ楽しみにされておるのではなかろうか。

 代わりに協力は惜しまないとなると、本当にどこまで読んでおるのか気になるところであるな……。


 だが今はそれより先に用事がある。


「それと、宿の風呂を早速借りられるとありがたい」


「ああ、それでしたら特に問題もなく。お疲れでしょう、貸し切りのが良いですか?」


「む……そうであるな。出来るならそう願おう」


「ではそのように」


 しかし、好き放題注文しておるのは我であるのに、なんか相手のいいように転がされておる感はどうにかならぬのであろうか。ぐぬぬ。

 でもやっぱり風呂には勝てないのである。

 風呂の前には魔王のプライドなど微々たるものなのだ。



***



 うむ。

 やはり風呂は格別である。

 神聖にして不可侵な魔法の泉なのである。

 それに森であんなことがあった後であるから、まったり力は補充しておきたい。

 ま力は重要であるのだ。


 ここは大浴場というほどではないにしろ風呂の設備を自前で完備しておるので、相応に良い宿といえる。

 それを貸し切りというのは待遇としては破格であろう。たぶん。

 昨今の文化事情は知らぬが、風呂好きとワケありをレミッテンが察して交渉材料にしてくるぐらいであるからな。


 そもそも、貸し切りという言葉には甘美な響きがあるのだ。

 魔王城の城の風呂もそれは落ち着くのでよかったのであるが、あくまでも自宅である。

 いくら良いとはいえ自宅は自宅であり我のモノである。

 一国一城の主としての満足と充実感はあるのだが、そこはそれ。良くも悪くも完全なプライベートである。


 だが、貸し切りは違う。

 他人の所有物であるにもかかわらず我だけのモノになる、という優越感が心地よい。

 公共物をひとりじめできる楽しみであるな。

 なんかわざわざ用意されるという嬉しさもある。

 特別なサービスなのだ。

 その上、アンもクェルも正体を偽らなくてよくなるという意味でも気楽であろう。


 まあ、それはさておき。


 「これが……ふろ」


 クェルは風呂の経験がないらしく、口を三角にして興奮しておる。

 まあ、今までは建物にも入れなかったであろうから、運良くどこかの天然温泉でもない限り入れなかったであろう。

 あったとしても入れたかどうか怪しいものな。

 此奴、入れたとして湖ぐらいのサイズがないと物理的に破壊する可能性がある。

 そう考えると初めての湯でありおっかなびっくりであるのかも知れぬ。


 そういうおっかなびっくり幼女に頭からだばーと湯をかけてやる楽しみ。


 まあ水銀漬けになっておったから液体に関しては問題ないのであろうが、湯は初めてなのであるらしく、目をパチクリさせてじたばたしておる。


「愛い奴であるな」


「可愛いですよね」


 晴れて副官の賛同も得られたことであるし、二人がかりで体を洗ってやる(もみくちゃにする)

 きゃいきゃいと騒ぎつつ幼女を愛でるのは楽しいのであるから仕方ない。

 これもクェルのためであるから仕方ないのであるぞ。なのだぞ。


 そんなこんなでぬるま湯であればとりあえず問題なさそうなので、やり過ぎない程度にやいのやいのとすったもんだした挙句、みんなで風呂に浸かってまったりである。


 なお、クェルは放っておくとまず間違いなくのぼせるような気もするので、適当なところで腰湯足湯にさせた。

 ぱしゃぱしゃと足を動かせるだけでも感涙モノのようなので、むしろこの方が向いておるような気がしなくもない。

 無邪気な幼女を眺めながら疲れを癒やすひととき。


 そんなまったりの中、アンがゆるやかにたずねてくる。


「それで、どうなさるおつもりなんです?」


「どうする、とは?」


「決まってるじゃないですか。どうせ全部に首突っ込むおつもりなんでしょう? 商人までその気にさせちゃってどうするんです?」


 ああ、なるほど。

 600年前と変わらぬと見られておるような気もするの。

 まあ実際やらかしてしまったしなんとも言えぬところではあるのだが、それはそれで気になることもやることもあるのだ。

 少なくとも、それを終える必要があるし、放っておいてよいものでもないと思う。


「まあ考えてはおるが考えてはおらぬといったところであるな。我は単に、嫌なコトをしたくないのであるぞ」


「また随分と無茶を言いますね」


「誰も嫌なコトなどしたくはないのだ、だから少しだけ手伝いをしたい。それではいかんかのう?」


 別に弱気、というわけではないのであるが、昔が昔である。

 我はこう、ついうっかりその気になってしまうと、出来るならやらないといけない気がするのでやってしまうのだ。

 余裕があるのであれば、おすそ分けするべきだと思うのだし。

 ありすぎることが問題である気もするのだが、そうでなければクェルは今ごろ寂しそうに夜の森を眺めていたはずであるし、持っている者が好きで振る舞っても良いのではなかろうか。


 アンは嬉しそうに優しそうに、そんな我を見て微笑んだ。


「いいんじゃないですかね。私はそんなオルレア様が見たくてそばにいるんですから」


「そんなもんであるかの」


「そんなもんじゃないですかね」


 なぜ此奴がついてきてくれているのかもよくわからぬが、それはそれとして、ぼっちな我の横にいつも誰かがいるというのはありがたいものである。

 本人が勝手にそうしたいというのであるから放っといてもよいといえなくもないのであるが、それはまったり道としてはいただけないと思うのだ。


 やはり隣人にはあまりがっかりされたくないのであるぞ、我。


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