会話中です(紅と白)
……!
止めて下さいって、ベル姉様っ!
うーうーうー……
お風呂楽しかったのですが、あの後も、すっごいお姉様に触られました。
……胸。
自分で触っても何てことないのに、触られると変な声が出てしまって、それがきっとベル姉様には面白かったのでしょう。
ただその分、筆を使うようにベル姉様の背中や肌に触れると、釣り上げられたお魚さんみたいに跳ねるので、少しやり返しましたけど。やられっ放しは、悔しいのです。何となく。
お礼参りだ、とかいうのですかね? あれ? 何か言葉が違う気もしますが、とりあえずそう言う事で。
ちょん、ちょん、っと。
は、恥ずかしくってその光景は、他の人にはお見せ出来ませんが……
あ、だ、誰も覗いていませんよね?
うん、大丈夫。
本当に姉妹だったら、他人には見せられない、こんなのもアリなのかなって思うと、嬉しかったりして。
離れに戻るともう葉子さんが布団を敷いてくれていて、とても助かりました。
ベッドは隣にありますが、二人で寝るには狭いし、枕を並べて寝たかったけれど、何だかクタクタで。その用意に体を使いたくないという私のわがままにこたえるモノでした。でもこれじゃ、本当にダメな子になってしまったみたい。
それでも髪を乾かしている間も、口は二人ともしっかり動きますけれどもね。
寝支度の為にベル姉様が取り出した、半袖半ズボンのピンクのパジャマが可愛いです。私あんなの着た事ないなって思いました。
お母さんが夜は誰が来ても大丈夫な感じのネグリジェが良いって子供の時からそんな寝巻。裾がフワフワなので、妖精さんみたいで好きなのですけれど。暑くなくていいですしね。
ただ賀川さんに見られた時は、何だか恥ずかしかったです。
ふっと気付くと、ベル姉様の目が私の方に。ベル姉様、とっても健康的で可愛いのです。と思っていたら、
「雪姫……それ、狙ってるのか?」
「え? 今の時期暑いから寝る時はこの格好がちょうどいいんです」
そう答えたものの、ベル姉様は言葉を失った感じですし、おかしいのかな?
私、修学旅行とか、キャンプとか、行った事ないです。家族も母とだけで。他人と寝た事ないのです。
ふっと気になって、
「狙うって何をですか?」
「その、それは、誰かの趣味なのか?」
「母が、誰が来ても大丈夫なようにって。母もこんな感じでしたので」
「そうか、誰が来てっ……て、夜に誰が来るんだ!?」
私はハタと首を傾げます。そう言われてみればそうですよね。
「集金屋さんとか、民法放送とか、うーん……あんまり来ないですよね」
来たとしたら、やっぱりガウン羽織っちゃうし、何でなのでしょうね? そう考えているうちにも、ベル姉様は私の方を見ているので、
「あの、その、おかしいですか? 似合わないですか?」
「若い男の前でその恰好は止めた方が良いかもしれんな」
「そういえばこないだ、賀川さんが見て行きましたけど。似合わないのか、何も言ってくれなかったです。森の家で倒れていて、着替えた時にもピンクのこんな感じでしたけど、タカおじ様も賀川さんも、ねぇって言うばかりで……あれはよく見ると本当に肌が透けてたから確かにどうかと思いましたが、それでも酷くないですか?」
「まあまあ、落ち着け雪姫」
ベル姉様は何とも知れない表情で、私の頭を撫でて、櫛で綺麗にしてくれました。何だか腑に落ちませんが、気持ちいから良いのです。優しく梳いてくれるその手はとっても繊細で、自分の髪をツインに結わえる時もこうやって柔らかく扱っているんだろうなと思いました。
私は着替え終わると、気持ち良くなったからか、気が抜けて。何だか立ち上がるのも億劫で、ずりずりと芋虫のように布団に這い寄って横になります。
「疲れたのか、雪姫。電気を消そうか?」
そう言って、ベル姉様は電気を消してくれました。けれども、泥のように疲れているのに、眠れないのです。
今日は森から絵を海の家まで運んで、炎天下で熱射病になりかけ……というか、もうはっきりそれだったのかもしれませんが。家へ帰って来てからは『姉様』が出来た事が嬉しくて……
『死に堕ちるのが楽しいか? 今更知り合いを増やしても、泣かせる者が増えるだけ』
そんな意地悪な声が落ちてきて、眠れません。眠ってしまえば眠ってしまったで、次は起きられなくなるのです。次起きるまでに何人の『ヒト』を切り捨てるのでしょう?
考えただけで怖くて、どうしたらいいかわからなくなってきて、
「……ベル姉様、まだ起きてますか?」
「……ああ。どうした雪姫? 慣れない奴がいるから寝付けないか?」
声からして、もう、少し眠っていたのかもしれません。でも夜でも赤く見える私に似た瞳は、本当の姉のような気がして。つい甘えて、
「ベル姉様、そっち、行ってもいいですか?」
そう声をかけてしまいました。
ベル姉様はちょっと躊躇ったような感じでしたが、私は枕元に置いていた黒軍手君を掴むと、有無を言わさずにごろごろって近寄ります。
ベル姉様のお布団は、さっきお風呂で髪に乗せた良い香りがします。息がかかるようなその距離で、ベル姉様の心臓の音を聞いた気がして。その音が夏祭りの時に聞いた花火ようで。
そういえば、あの時も黒軍手君を握っていたっけ。あの時、一緒に居た猫ちゃんは、賀川さんが連れて帰ってしまいましたが、もう捨てられてしまったのでしょうか?
そんな事を思いながら、お姉様に、
「ベル姉様は、誰かとキスした事ってありますか?」
「ーーなっ!?」
お、思ったより狼狽した表情をベル姉様がします。
「え、えーと……」
はぐらかしてくるのかな、そう思いましたが、ベル姉様は考えた後、
「…………ある」
そう答えてくれました。
「じゃあ、その先は、ありますか?」
「はっ、いや、そのっ、ゆ、ゆ、雪姫は」
「ないですよ。でも、キスは、あります」
ない、ハズです。
誰とも知らない、いや、お兄様と呼んでいたその人が私の体を触ろうとした夢を何回も見ているなんて、恥ずかしくて言えません。
だからそれを覆い隠すように、
「……ベル姉様は、どなたとキスしたんですか?」
そう聞くと、ベル姉様は話し始めてくれました。
「そいつとは、初対面が最悪な形で出会ったんだ。そのせいで、すぐさま大喧嘩さ……」
そうして喧嘩から始まったのに、その後キスをしたと言う展開の早さが、理解できませんでしたが。最悪と言う言葉を口にした時、苦いような、それでも甘いような、ビターチョコレートを溶かし込んだような色を感じました。色と言うか匂いと言うか、複雑な感情が混じった色です。
それを口にするベル姉様はとても楽しそうでした。私にゆっくり、その時を思い出すように語ってくれます。
キスしたお相手の『統哉』さんに、ベル姉様は深く『恋』されているようです……
その名前を語るだけで、ベル姉様からいつも赤く赤く感じる色が、ほんのりと桃色を帯びるほどですから。
「……ああ、すまない雪姫。つい一方的に長々とお喋りしてしまった。雪姫だって話したかっただろうに」
「いいんですよ」
その桃色が闇に溶けるのを見ながら、
「とてもいいお話が聞けました。それにしても、ベル姉様はその『統哉』さんって人の事が本当に『好き』なんですね」
途端に我に返ったかの様に、ベル姉様は、
「『好き』……? まあ、確かにあいつといると退屈はしないな」
あれ? おかしいな、私はそう思って首を横へ振ります。
「いいえ、そうではありません。『ライク』ではなく『ラブ』ですよ、ベル姉様。ベル姉様はきっと、統哉さんの事を一人の男性として好きなんですよ。一言で言うならば、『恋』です」
「……ベルが、あいつを、一人の男として、『好き』……『恋』……?」
その途端に、火山の爆発するような勢いで桃色が降り注いだ気がしました。
それは堰を切ったように私を包みますが、とても優しい暖かい色でした。
もしかすると…………ベル姉様が気持ちに気付いたのは『今』なのかもしれない、と、ふと思いました。
朝陽 真夜 様『悪魔で、天使ですから。inうろな町』より、ベルちゃん。
いつもありがとうございます。
今日から5日程は当方毎日更新していく感じかと思います。




