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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
8月21日

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入浴中です(紅と白)


……お風呂、ベル姉様いってらっしゃーい。



え? な、なんですかっ

なんですか?????????

二人共、って……





 









「二人共、お風呂準備できたから入ってー」

 葉子さんの台詞に私は固まります。

 ベルちゃんが初めて来た日だから、一番いいもてなしをと、この家でもめったに使わない大浴場を開けて、それも何故か私も一緒にと。

 私はおどおどしてベル姉様に見咎められます。何とか言い訳して、葉子さんに小さな声で、

「わ、私はいつもの小さい風呂で良いです」

「もう入れてしまったんだし、遠慮しないの」

 本当は風呂の大きさ云々ではないのです。

 誰かとお風呂に入るのが恥ずかしい、それもないとは言えません。でもそれより、今、人前で裸にはなれません。

 だって、首に刻まれた猫夜叉の力でも消えない傷があるから。

 見ればベルお姉様だって気味悪がるでしょう。

 でもどんどん話は進んでしまって、姉様は大きなお風呂にとても嬉しそうです。



「雪姫、本当に大丈夫か? 何だか顔色が悪くなってきてるぞ?」

「だ、大丈夫ですっ」

 ここで楽しみにしてるのを邪魔してもいけないし。髪で隠せばバレないかも。脱衣場で躊躇していましたが、私はもう考えない事にして、さっと服を脱ぎます。

「なっ……!?」

 途端にベル姉様の声が上がってビックリしましたが、傷ではなく私の胸を中心にじっとり見ているような。

「……ベル姉様? どうかしたんですか?」

「い、いや、最近の女子は発育がいいのだなって思っただけだよ」

 この頃、あんまり食べてないから太ってないですよ、太ってないはず。ですけど、服、いつも胸の辺りのキツさが気になります。

「いつもちょうどいいと思って買った服が、すぐに胸の辺りだけキツくなって、せっかくのお気に入りが着られなくなってしまうんです。それに特に胸が大きいと肩が凝るんです。良い事なんかないです。」

 そういった途端、ベル姉様の顔色が変わります。

「……ベル姉様? 具合でも悪いんですか?」

「……いや、大丈夫だ。ただちょっと自分の無力さを思い知っただけだ」

「?」

 私は何げなく首をかしげた瞬間、

『随分と楽しそうだな。裏切りは許さんと言ったはずだ』

「痛っ……!」

 途端に暴れ出す左首の痛みについ声を上げ、首を押さえてしまいます。

 せっかく気付かれていなかったのに。



「雪姫、どうしたんだ?」

「っ!? べ、ベル姉様、大丈夫です!」

「首が痛むのか? 見せてみろ」

「だ、ダメですっ!」

 見たら気持ち悪いよ、血は流れないけれど閉じ切らない傷。治らない傷なんて心配させるだけ。たまに痛むだけで何にも心配する事なんてないのだから。

 でもベル姉様は強い語調で、

「雪姫!」

 そう呼ばれて、いけない事をしている気がして。その隙にベル姉様は傷を見つけてしまいます。

「ーーこれは」

 見られちゃった。嫌われたらどうしよう。そう思っていると、

「……これはひどい。一体どうしたらこんな傷が……それに、先程の葉子の口振りから察するに、この傷の事は誰にも話していないな? 首にこんな傷があるのを知っているなら出会って間もない他人であるベルに一緒に風呂に入るよう勧めないものな」

 一瞬で状況を把握し、心配してくれています。

 言って、信じてくれるでしょうか?

 それも何と言って説明したらいいのでしょう?

「ーーベル姉様、私、前に、何かが入ってきた・・・・・事があるんです」

「入ってきた?」

「いえ。入れられたーーその言い方の方が正しいかもしれません。」

 自分でもよくわかっていない事、理解できない事を説明するのは難しいです。

 でも私は分かる限りで言葉を並べます。

「この傷はそんな事をしたヒト達に抵抗した時についた傷なんです。他にも傷はあったのだけど、それらは親友のおかげで治りました。でも、この傷だけはどうしても治らないんです」

「…………っ」

 傷のうち自分を止める為に付けた自傷が一番深かった、冷静に考えるとそれが解ります。

 そしてそれさえ癒えたのに。何故か残る左首の傷。

 笑って、落ち着いて。出来るだけ感情的にならない様に、

「その時の記憶は曖昧なんですが、私はこの手で、たくさんの命を傷つけ、奪った事ははっきりと覚えています」

 傷つけた中で最もしたくなかったのは、私を助けようとした親友をも忘れ、深く傷つけた事。

 何度も夢に見るのです、毎晩、爪に喰い込む二人の肌を感じて。夢で見れば見るほど、あれは夢でなかったと判断できるようになるほどハッキリと。それでも何度も繰り返す悪夢は、私の気持ちまでも爪をたてます。

「その中には、私の親友も……」

 気が付いた時には何事もなかったかのように二人の傷は癒えていたけれど。それは彼女と彼が少し特殊だからで、もしそうでなければ私は二人を失っていたでしょう。

「雪姫……」

「だから私は、この傷こそ罪の象徴なんだと思います。私が、犯してしまった償いようのない、大きな罪の……」

 言葉が小さくなって、何を言ったらいいかわからなくなって、泣きそうになった時ーー



「おりゃ」



 むぎゅ。



「ひゃあぁんっ!?」

 な、何が起こったのか、意味が解りません。あげた事もない変な声を出してしまいましたよ。

 原因はベル姉様が、私の胸を背後から鷲掴みにしていたから……

「べべべベル姉様!? いきなり何をするんですか!?」

 私の抗議に全く動じることなく、ベル姉様は笑って、

「ん? いや、すまん。触ってみたいという欲求を抑えきれず、つい触ってしまった」

「よ、欲求って!」

 何でそうなるんでしょう? でもその後、洩れたのはベル姉様の優しい気持ちと微笑みで、

「……雪姫。言うのが辛いなら無理に言わなくてもいいんだぞ? また心の準備が整った時にでも話してくれればいいんだ」

「ベル……姉様……」

「辛かったよな。なのに、よくベルに話してくれた。ありがとう」

 私は自分が随分緊張していた事に気付きました。

 今の変な説明をベル姉様が全部信じる事はないでしょう。それでもわかってくれる気がしたのです。

「……なぜだかわからないんですが、ベル姉様にならば話してもいいって思ったんです。それに、ベル姉様に話したら何だか楽になりました」

「ああ。ベルでよかったら、いつでも話を聞き、力になる。安心してくれ」

「ありがとう、ございます。ところでベル姉様……」

「なんだ?」

「……そろそろ、胸から手を離して下さい……」

「やだ。ここまで大きいと妬ましいや羨ましいを通り越してもっと触りたくなる」



 むにゅむにゅむにゅ。



「はひゃっ!? やっ、ベルねっ……らめえぇぇぇっ!」



 やだって、何ですか???????

 べ、ベル姉様っ!



 は、は、は……初めてこんなに人に触られましたよ。

 声が誰かに聞かれていないといいのですが。








 そしてこの時、私もベル姉様も、家の誰も知らなかったのですが、美味しい鶏の唐揚げを食べそこねた上、ベル姉様の炎を疲れのせいだと一度は部屋に戻っていた賀川さん。

 気を取り直してまた下に降り、お茶漬けをいただいて、ちょうどこの大浴場近くを通りかかっていたのです。

「この先は、いつもは使わない大浴室、だよな? 何で……あられもないユキさんの声が? 俺の妄想がついにここまで? いや、間違いなくここから聞こえたけど」

 耳に自信のある賀川さんでしたが、首を横に振り、

「今日はまた寝よう。それがいい」

 と言い、今、聞いてしまった私の声で何がしかの妄想を描きながら、再々度自室に引き籠ったのでした。

 


朝陽 真夜 様『悪魔で、天使ですから。inうろな町』より、ベルちゃん。

お世話になってます。

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